最近、SDGs(持続可能な開発目標)がさまざまなメディアで取り上げられ、注目されています。一人ひとりが地球環境について考えるアースデー(4月22日)には、気候変動に関するサミットが開催され、約40カ国の指導者が参加しました。その翌日、ホンダが2040年に新車販売をすべてEVもしくはFCVにするという目標を発表したことで、経済界・産業界だけでなく、一般消費者も含め日本全体が脱炭素にも注目しはじめています。
菅首相は所信表明演説で、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにすると語り、そのため「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を経済産業省が中心に策定しました。この表明からは、二酸化炭素の排出を「削減する」ことだけが目標なのではなく、「なくす」ことが目標だという強いメッセージが読み取れます。
しかし、そのためには、あらゆるレベル、あらゆる分野での行動の変化が求められています。エネルギー産業、輸送・製造産業などが変化することは大きな一歩です。しかし、「なくす」ことを実現するには、私たちひとり一人が日々の生活のなかで行動を変化が求められます。
企業が脱炭素社会に貢献するためにできることは?
「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」の中では、”温暖化への対応は、経済成長の制約やコストとする時代は終わり、国際的にも、成長の機会と捉える時代に突入した”とあります。生産を止める、抑えるのではなく、より成長をしながら脱炭素社会の実現するために、私たちは何ができるのでしょうか?
企業が貢献できる、脱炭素社会への取り組みのひとつにテレワークがあります。少し古いデータになりますが、前回の国勢調査(平成27年)の結果では、自家用車での通勤が46.27%と半数を占めています。テレワークに移行することで、この数字は大幅に下げることが可能になります。
なお、環境省が出している、「新型コロナウイルス感染症の影響について」の資料内にある国際エネルギー機関の調査結果では、在宅勤務は自動車通勤世帯のエネルギー需要を減少させるが、家庭のエネルギー使用増加の可能性は高いと指摘されています。
しかし、これらを考慮しても、平均年では通勤時間が短くなった結果として節約されるエネルギー量は、家庭でのエネルギー消費の増加量の約4倍で、世界全体の自宅で仕事可能な人が、週に1日、自宅で仕事をした場合、世界のCO2排出量は約2400万トン/年(ロンドン年間CO2排出 量と同等)の削減となるとしています。
企業の社会貢献への取り組みが、ビジネスに与える影響
テレワークは脱炭素社会への貢献するだけでなく、実際にビジネスに好影響を与えられる可能性があることはさまざまな調査から明らかになっています。
2019年7月にCebrが実施した、米国の2,500人を超えるナレッジワーカー(知識労働者)を対象として行われたオンライン調査では、テレワークという働き方を提供することで、介護・育児中などで現在仕事をしていない人が現場復帰可能になれば、米国経済全体に最大2兆ドル(約257兆円)の効果をもたらし、GDPは10.2%増加すると推定しています。
また、年間119億時間、ひとり当り105時間ができ、それを個人や娯楽関連の活動に振り向けることによってワークライフバランスが改善されることも明らかになっています。
また、2019年に電通が1万500人を対象に行った「2019年度 ESG/SDGsに関する意識調査」では、企業に対して期待するSDGsの取り組みの上位が「すべての人に健康と福祉を」「エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」そして「働きがいも、経済成長も」という結果になっており、生活者は企業に対して身近な課題への取り組みを期待しています。
このような取り組みは情報に敏感なミレニアル世代の男性からの認知率が高いことが明らかになっており、就職時の企業選びのポイントにもなってきます。優秀な人材を獲得する上でも、企業の環境への取り組みの姿勢は重要になってきているのです。また、企業が個人に働き方の選択肢を与えることは、従業員のモチベーションを保つためにも、非常に重要です。選択肢を与えられ、生産的に働いている従業員は働きがいを感じることで、離職率の低下にもつながります。
求められるのは、ハイブリッドな働き方
この1年間で私たちが学んだことは、仕事をするために必ずしも「会社に行く」ことは不要で、テレワークでも効率的に働くことが可能ということです。そして、テレワークは環境に優しいということが明らかになりました。しかし、顔を合わせて働き、アイデアを出し合う機会も必要なことは多くの人が実感しています。
テレワークと出社を両方利用するハイブリッドな働き方が当たり前になってくるポストコロナ、ウィズコロナ時代には、「オフィス勤務を当たり前としない」「目的のあるときだけの出社する」などメリハリをもったオフィス・人事戦略で、環境保全を実現しつつ、従業員の生産性を高めることが大切になってくるのではないでしょうか?