「火を見るより明らか」と「火を見るように明らか」は、どちらが誤用表現かわかりますか? 改めて聞かれるとわからない、という人もいるのではないでしょうか。また、この言葉には細かいニュアンスが含まれているため、そのことを把握していないと意味を真逆に解釈してしまうかもしれません。

本稿では、「火を見るより明らか」の正しい意味と言葉の由来、基本的な使い方と例文を解説します。英語表現や類語も紹介するので、正しい意味を理解して使いこなしましょう。

  • 「火を見るより明らか」とは?

    「火を見るより明らか」の意味や誤用表現を知ろう

「火を見るより明らか」の意味は?

「火を見るより明らか」は、ことわざの一種で、「きわめてはっきりとしており、疑いようのない様子」を表す表現です。この表現は、悪い結果になることがはっきりと予見される場合に使われます。

<例文>

  • このまま行くと、落第することは火を見るより明らかだ。
  • 長時間労働がここまで続くと、過労で倒れるのは火を見るより明らかだ。

いずれも、悪い結果になることが予見される状況で使う例です。

「火を見るように明らか」は誤用表現

「火を見るより明らか」という表現とよく似た表現として、「火を見るように明らか」というフレーズを聞いたことがある人もいるでしょう。実は「火を見る『ように』明らか」は誤用表現です。

文化庁の2008年(平成20年)の「国語に関する世論調査」では、「火を見るより明らかだ」も調査対象の表現としています。

その結果によると、「火を見るより明らかだ」を使う人は71.1%、「火を見るように明らかだ」を使う人が13.6%でした。7割以上の人は正しい表現を使っていますが、1割を超える人は誤用表現を使用しています。この機会に、正しい表現をきちんと覚え、間違えないようにしましょう。

由来は中国の「書経」

「火を見るより明らか」の言葉は、中国の古典「五経」「十三経」のひとつに数えられる「書経」です。58編からなる「書経」の「商書」に含まれる18番目の「盤庚上(ばんこうじょう)」に、「火を見るより明らか」の元になったエピソードが見られます。

殷(いん)に盤庚(ばんこう)という名の国王がいました。盤庚は各地の諸侯を集め、彼らに対して、国の統治について語るシーンがあります。この中で、盤庚は以下のように説きました。

地方政治がうまくいっていない理由は、私に徳がないからではない。お前たちの愚かさが問題だということは、火を見るよりも明らかである。

原文では「明若觀火」(訳:明らかなること火を觀るが若し)という表現が使われています。この言葉が転じて、「火を見るより明らか」として日本でも使われるようになったようです。

「火を見るより明らか」を英語でいうと?

「火を見るより明らか」を英訳すると、「to be as plain as daylight」や「to be as clear as day」などの表現となります。これらのフレーズは、以下のように使います。

It was as clear as day that You would get sick.
(あなたが病気になるであろうことは、火を見るより明らかであった。)

  • 「火を見るより明らか」とは?

    「火を見るより明らか」の由来は中国の古典「書経」から

「火を見るより明らか」の使い方と例文

「火を見るより明らか」の使い方と例文を紹介します。どういう場合に使われる表現かを把握することで、ニュアンスの違いを的確に使いこなせるようになるでしょう。

基本的な使い方と例文

「火を見るより明らか」の基本的な使い方は、悪い結果が予測されることがはっきりしている場面での利用です。

OK例:「君が失敗することは火を見るより明らかだ」
NG例:「君が成功することは火を見るより明らかだ」

「君が失敗すること」は、まだ実現はしていませんがほぼ確定の「悪い結果」です。この場合には「火を見るより明らか」を使えます。

一方、「いい結果」となる「君が成功すること」が予見される場合、「火を見るより明らか」という表現は、一般的に使いません。いい結果が予測される場合は、単純に「君が成功することは明々白々だ」「君が成功することは間違いない」など、他の表現に言い換える方が無難です。

一見していい悪いがわからない例文

「火を見るより明らか」を使った文章の中には、文脈だけではいい結果を予想しているのか悪い結果を予想しているのかがわからないケースもあります。

君の成績は、火を見るより明らかだ。

この例文では、「火を見るより明らか」が悪い結果を予想している場合に使われる表現であることを知っていれば、成績が「悪く」なると思われていることが判断できるでしょう。

  • 「火を見るより明らか」の使い方と例文

    「火を見るより明らか」は悪い結果を予見しているニュアンスがある点がポイント

「火を見るより明らか」の類語表現

「火を見るより明らか」には類語表現がいくつかあります。それぞれの正確な意味と例文を紹介するので覚えておきましょう。

誰の目にも明らかだ

「誰の目にも明らかだ」は、「誰が見ても疑う理由がない」という意味です。

<例文>

  • 税金がさらに上がることは誰の目にも明らかだ。
  • あなたの顔色の悪さは誰の目にも明らかだ。

疑う余地はない

「余地」(よち)には、「余裕」という意味があり、「余地がない」というフレーズは「余裕がない」という意味になります。さらに、「疑う余地はない」とすると、「疑いようがない」という意味になり、「火を見るより明らか」の類似表現となります。

<例文>

  • この状況では、あなたの犯行を疑う余地はない。

「火を見るより明らか」は悪い結果を予測する際つかわれますが、「疑う余地はない」は、結果のいい悪いに関係なく使える表現です。

明々白々だ

明らかにはっきりとしているさまを表す言葉です。「明白」という言葉を重ねることで、さらに強調しています。「火を見るより明らか」のように、悪い結果を予想するというニュアンスは含まれず、単に「はっきりとしている」ことを表現する際に使う言葉です。

<例文>

  • 試合で勝つことは明々白々だ。
  • 試合の結果は明々白々だ。

1番目の例文は、「試合で勝つ」と予測していることがわかる文脈です。2番目の例文は結果をどちらと考えているかわからないため、必要な場合は相手の真意を確認する必要があります。

言うに及ばない

「言うに及ばない」とは「言うまでもない」「もちろんだ」という意味を持つ表現です。

<例文>

  • 君の優秀さは言うに及ばない。
  • 状況の厳しさは言うに及ばない。
  • 「火を見るより明らか」の類語表現

    「火を見るより明らか」の類語表現は?

「火を見るより明らか」の意味を正確に把握して使いこなそう

「火を見るより明らか」の意味は、「きわめて明らかで、疑いを入れる余地がない」です。特に、悪い結果になることが予想される場合に使われることが多い言葉であることが、この言葉を正しく把握するポイントと言えます。ただし、どちらの意味かわかりかねる場面では、前後の文脈も確認して解釈するようにしましょう。