岩田たちの事務所・LDHを率いるEXILE HIROと松尾氏も勝手知ったる間柄で、松尾氏がプロデュースしたEXILEの「Ti Amo」は、「第50回日本レコード大賞』も受賞している。

「初期のLDHはダンサーの事務所という印象が強かった。でもその頃からHIROさんは、意図的に“ダンサー”ではなく“パフォーマー”という言葉を使っていました。かつてはダンサーといえば多くの場合バックダンサーを意味していましたが、それを変えていったのがHIROさんです。当時はダンスの一芸だけで一生やっていくのは難しい時代。HIROさんはダンサーのセカンドライフを視野に収めた総合エンターテインメントの事務所を目指していました」

そんななかで誕生したのが、三代目 J SOUL BROTHERSだった。松尾氏がプロデュースしたデビュー曲「Best Friend's Girl」については「初代と二代目の長所も残しながら、何か新しいものを盛り込んだ曲にしなければいけない」と考えたそう。「外部のプロデューサーとしては、それまでLDHにはなかった文化を注入したいという思いがありました。かといって、LDHが大切にしてきた文化と喧嘩するということではなく、それぞれが縦糸と横糸のような形で織り込めたら面白いものができると思いました」

新しさを目指した松尾氏が意識したのは、「叙情性≒文学性」だ。「彼らがリテラシーが高い子たちだということは、打ち合わせの時にわかりました。岩ちゃんだけではなく、(小林)直己くん、ボーカルの今市(隆二)くん、登坂(広臣)くんもそうです。だからプロデューサーとしての僕が本領とするR&Bのビートと美しいメロディはもちろん、作詞家としても細やかな心の景色を描きたいと言いました」と明かす。

そして、同楽曲について「若い人たちの話ではあるけど、大人にしてみたら不倫と言われるものに行く前に、踏みとどまろうとするという内容」と解説。「例えば、親友の彼女を好きになった気持ちに蓋をしようとするけど、抗えないという葛藤。それは、これまでLDHが描いてきた心情とは違う男の子が主人公の設定で、若さをアドバンテージにできる彼らなら、イケると思いました」。

そんな内容を見据えて、同曲に「花鳥風月」を歌詞に入れ込んだ。「今でも覚えていますが、直己くんから、『花鳥風月』を織り込んだ意図を教えてほしいと言われ、その場でやりとりしました。後になってわかったことですが、彼は文学青年らしくて。その時、僕はLDHが新しいチャプターに入ってきたと感じました。僕は彼らのデビュー曲のレクチャーをしている立場でしたが、逆にいろいろなことを教えられた気もします」

三代目 J SOUL BROTHERSはその後、飛ぶ鳥をも落とす勢いで人気と実力を兼ねたグループへと成長していった。松尾氏は「あれから10年経ち、LDHという会社自体もどんどん大きくなっていきました。これからも成長し続けていってほしいと思います。ライブ・エンターテインメントを追求しているLDHは、コロナ禍で大変な状況とも聞きますが、もともとHIROさんは長い芸能生活の中でたいへんなアップス&ダウンズを経験してきた方。彼のすごいところは、ダウンの時をずっと忘れてないところかと。だから今後も楽しみです」と期待を込めた。

  • 岩田剛典と松尾潔氏

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