取引基本契約書とはどういう位置づけの契約書か、説明を求められると困る人が意外と多いのではないでしょうか。

本稿では、取引基本契約書の概要・位置づけ、および取引基本契約書の基本構成と作成時のチェックポイントについて解説します。また、一般的な売買契約書や業務委託契約書との違いや、印紙の扱い、買主・売主のどちらが作成するかについてもまとめました。

  • 取引基本契約書とは

    取引基本契約書について説明します

取引基本契約書とは

取引基本契約書とは、買主(※1)・売主(※2)間において、継続的に売買や製造委託などの取引を行う場合に、取引の基本となる契約条件を定めた契約書です。取引基本契約書の契約内容をベースとして、個別の発注や業務委託の個別契約が行われます。
※1:発注者・委託者など、以降はまとめて買主と表現
※2:受注者・受託者など、以降はまとめて売主と表現

取引基本契約書を定めることにより、個々の発注・業務委託において同じ条件を何度も繰り返して規定する必要がなくなります。結果、安定かつ効率的な契約が可能になる点が、取引基本契約書を作成する主なメリットです。

取引基本契約の種類

取引基本契約書には、契約内容によって以下の種類があります。

  1. 商品の継続的な売買のみの基本契約
  2. 発注側の要求に基づき売主が製造・供給する形式の継続的製造物供給契約
  3. 業務・作業の継続的な受委託が含まれる契約

・1のパターン例(売買のみの取引基本契約書)
公益社団法人 四日市法人会「商品取引基本契約書

・2のパターン例(継続的に製造物を供給する取引基本契約書)
経済産業省「参考資料2 各種契約書等の参考例」(P19「第5 取引基本契約書(製造請負契約)(抄)の例」参照)
→売買のみの取引基本契約書とは異なり、秘密保持や知的財産権のことなどについての取り決めが盛り込まれています。

3のパターン例(業務委託契約書(取引基本契約書に相当))
厚生労働省「在宅ワークの適正な実施のためのガイドライン」(P14「契約書の参考例」参照)
→報酬や第三者への委託などについての取り決めが盛り込まれている点が特徴となっています。

取引基本契約書の作成では、当事者の意図した契約内容を漏れなく盛り込まなければなりません。契約の形態が上記のどれに当てはまるのかを考えて、必要事項を盛り込んで作成します。

取引基本契約書はどちらが作成する?

法律的には、買主・売主どちらが作成するという決まりはありません。しかし、相手方が準備する契約書は、相手に有利な内容になっているケースがほとんどなので要注意です。できる限り自社で作成して、その取引基本契約書をベースに交渉することを検討しましょう。

一般的な売買契約書や業務委託契約書との違い

取引基本契約書と、一般的な売買契約書業務委託契約書(まとめて個別契約書と称します)との主な違いは次の4点です。

  • 個別契約に適用する基本事項の規定
  • 何をもって個別契約の成立とするか
  • 個別契約で何を取り決めるかの規定
  • 取引基本契約と個別契約との間で食い違いがあった場合どちらを優先するか

取引基本契約書によって、個別契約に必要な規定が網羅され、個別契約特有の取り決めに集中できます。

ただ、業務委託契約書は、先の例でもご紹介したように、内容的には取引基本契約書となるものもあるため要注意です。上記の4点に当てはまれば、名前は業務委託契約書でも、内容的には取引基本契約書となります。

取引基本契約書に貼り付ける印紙

取引基本契約書は、印紙税額一覧表の第7号文書の「継続的取引の基本となる契約書」に該当すると、1通4,000円の印紙税がかかります。第7号文書となる条件は以下の通りです。

(1) 営業者の間における契約であること
(2) 売買、売買の委託、運送、運送取扱い又は請負のいずれかの取引に関する契約であること
(3) 2以上の取引を継続して行うための契約であること
(4) 2以上の取引に共通して適用される取引条件のうち目的物の種類、取扱数量、単価、対価の支払方法、債務不履行の場合の損害賠償の方法又は再販売価格のうちの1以上の事項を定める契約であること
(5) 電気又はガスの供給に関する契約でないこと

ただし、次に示すいずれかの方法で上記要件に当てはまらない契約書を作成し、印紙税を節約することも可能です。

  • 契約を3カ月以内にする
  • 契約が(2)の要件に相当しない
     例:委任契約や準委任契約(売買の委託や運送取扱い以外)
  • 取引基本契約書にせず毎回個別契約を締結する
  • 取引基本契約書をPDF化する

第7号文書に相当しない請負契約書の場合、第2号文書となり印紙税は以下の通りとなります(200万円未満までの抜粋)。

契約金額 印紙税
1万円未満 無料
1万円~100万円以下 200円
100万円を超え200万円以下 400円

もっとも手軽な方法は、取引基本契約書をPDF化してやり取りする方法です。電磁的記録(電子データ化した文書)を利用した契約の締結では、課税文書を作成したことにならないので印紙税は不要、と国税局が回答している例があります。

印紙税の4,000円が負担となる場合は、上記の方法で節約可能かどうかご検討ください。

  • 取引基本契約書とは

    取引のベースとなる取引基本契約書は印紙代が意外と高いため必要に応じ節約を

取引基本契約書の基本的な構成

基本的な構成の例として、製造請負契約の取引基本契約書を紹介します。参考にしてみてください。

  • 取引基本契約書の基本的な構成

    取引基本契約書の基本的な構成

取引基本契約書のチェックポイント9つ

取引基本契約書は、主に前半部分と後半部分に分かれます。前半部分は取引担当者にしか判断できない部分です。一方、後半部分は法律の専門家に助言を受けることを要する内容となっています。

ここでは、取引基本契約書の前半部分について、作成するときのチェックポイント9つを解説します。

1.個別契約の成立

個別契約の成立に関することを定めます。注文書と注文請書を取り交わすことで個別契約が成立したとみなすのが一般的です。買主が注文書を出しても売主からの返答がなかった場合、買主がどう対応するのかを明示しておくことが重要です。

2.納品および受入検査

目的物の名称、数量、単価、納期、納入条件、納入日や検査日、受入検査方法などについて定めます。納入日と検査日が大きく離れていると売主側はいつまでも請求書を発行できず困る点には要注意です。

納入日や検査日、検査方法については、双方よく話し合って契約書に盛り込むようにしましょう。不合格が出た場合や数量の過不足が出た場合の扱いについても漏れなく記載してトラブルを防止する必要があります。

3.所有権と危険負担

所有権と危険負担について定めます。所有権は「物を支配する権利」のことです。危険負担は、契約成立後、売主の責任によらず目的物が滅失・毀損(きそん)などして履行不能となった場合、そのリスクを買主と売主どちらが負担するかという取り決めです。

4.契約不適合責任

商品購入後、通常注意していても見つからないような契約不適合があった場合に、一定期間買主が売主に対して損害賠償などを請求できる、その内容を定めます。

原則として、契約不適合責任を売主が負う期間は、民法では商品の引き渡しから1年、商法では6カ月と定められています。ただし、この期間は任意です。双方の話し合いによって期間や補償内容は変更できます。

5.期限の利益の喪失

買主側が目的物の納品を受けてから代金支払期限まで、代金を支払わなくていい権利のことを「期限の利益」と言います。納品を受けた翌月末に入金、というパターンはよくある例です。

しかし、買主の財政状況が悪くなった場合、売主はすぐに代金を回収しないと困ります。すぐに代金を回収できるよう定める特約を「期限の利益を喪失する特約」と呼びます。売主側としては、入れておきたい特約です。

6.相殺

相殺とは、買主が売主に対して持っている債権と、売主が買主に対して持っている債権が双方ある場合、相殺して差額分だけ支払う方法です。例えば、買主側が300万円、売主側が400万円の債権をそれぞれ持っているとすると、相殺して売主債権を100万円に減額することです。

7.損害賠償および損害賠償額の特約

相手の債務不履行の場合、相手に対して損害賠償を請求できます。どのような条件で債務不履行とみなすか、損害賠償額や違約金などを定めます。損害賠償の例としては、支払遅延・納入遅延・知的財産権侵害・秘密情報漏洩などさまざまです。

8.契約解除

基本的に、契約解除はいきなり行えず、内容証明郵便などを送付して、相手に債務の履行を促すなどの手続きが必要です。そのような手間をかけたくない場合、無催告解除の特約を入れておくことで、すぐ契約を解除できるようになります。

9.契約期間

契約期間は、存続期間を明確に定める場合と、自動更新をするように定める場合があります。自動更新は、1年ごとに契約を締結しなおす必要がない分便利ですが、契約解除が難しく、契約自体を忘れてしまう可能性があるという側面もあり要注意です。

  • 取引基本契約書の基本的な構成

    取引基本契約書の前半は取引担当者だからこそ記載できる内容が多い

民法改正による取引基本契約書への影響

民法が一部改正され、2020年4月1日に施行、売買契約に関係する規定も一部変更されました。この民法改正による取引基本契約書への影響も把握しておきましょう。

契約成立時期

契約成立時期は、旧民法では「発信主義」を採用していました。発信主義とは、「隔地者間の契約は承諾の通知を発したときに成立する」という考え方です。しかし今回の改正では、「承諾の意思表示が到達したときに成立する」とする到達主義へと変更になりました。

ただし、この規定は任意なので、到達主義以外にする場合は、取引基本契約書にそのことを明記します。これまで発信主義だった場合は、その旨を取引基本契約書に記載しなくてはなりません。

売主の担保責任

売買の目的物に不具合があった場合の売主の担保責任について、旧民法では瑕疵担保責任(かしたんぽせきにん)としていました。しかし新民法では契約不適合責任に変更され、売主は「隠れた瑕疵」だけでなく「契約内容に不適合」があれば担保責任を負うことになります。

また、買主の救済措置として、従来の損害賠償・契約の解除以外にも、代替物の引き渡しなど履行の追完の請求や代金減額請求なども可能になりました。

売主の担保責任についても任意なので、取引基本契約書に双方話し合って特約を記載することで変更することもできます。

契約解除の帰責事由

旧民法では、債務者に帰責事由がある場合でなければ、債権者は契約解除ができませんでした。民法の改正後は、債務者に帰責事由がなくても債権者は契約を解除可能です。ただし、債権者の方に帰責事由がある場合、契約解除はできません。

  • 取引基本契約書の基本的な構成

    民法改正によりこれまで利用してきた取引基本契約書に変更が必要な場合も

取引基本契約書の位置づけとチェックポイントを覚えよう

取引基本契約書は、何度も個別契約書を締結する場合に、ベースとなる契約条件を定めた契約書です。取引担当者にしかわからない部分も多々あるため、担当者が作成してから、専門家の助言を受けると効率よく作成できます。

取引基本契約書の位置づけを把握して、作成時のチェックポイントも理解することで、取引基本契約書の基礎知識を身につけましょう。

経済産業省「参考資料2 各種契約書等の参考例
厚生労働省「在宅ワークの適正な実施のためのガイドライン
国税庁「令第26条第1号に該当する文書の要件
国税庁「別紙
国税庁「No.7140 印紙税額の一覧表(その1)第1号文書から第4号文書まで