埼玉県秩父市・兎田ワイナリーが作る、昨年末に販売を開始した赤と白のワインセットが好調な滑り出しをみせているという。このワイン、全国的にも秩父夜祭で知られる秩父神社の本殿地下で熟成をしたものだ。神社に奉納された、「御神酒」のワインと言えるだろう。

ワインを神社で熟成するユニークな取り組みについて、コーディネートしたノースコーポレーションの北康信社長にお話を伺った。

100%秩父産のワインを造る兎田ワイナリー

ノースコーポレーションは埼玉県さいたま市を拠点にレストランを展開する企業で、秩父市で「ツーリストテーブル釜の上」を運営するなど目下店舗を拡大している。近年では県内唯一の秩父産ぶどうを100%使ったワイン造りをしている兎田ワイナリーと業務を提携した。

  • ノースコーポレーション 北康信社長

日本ソムリエ協会の理事でもある北氏は、その目的をこう話す。「秩父市の吉田地区は昔からフルーツ街道としても知られていて、ワイン用のぶどうの栽培も盛んな土地。日照があって降雨量が少なく、適度な寒暖差があることで酸味と甘味がある素晴らしいぶどうが収穫できます。2013年に秩父産のぶどうでワイン造りを始めた兎田ワイナリーは貴重な存在でした」

もともと兎田ワイナリーは、総務省の地域経済循環創造事業交付金を元に、ぶどう栽培とワインの醸造・販売、そして秩父の料理やワインを提供するレストラン運営という3つの柱で事業をスタートした。観光振興と雇用の創出による地域活性化が目的だったが、本業に専念するため北氏の会社に運営を委託した。

「兎田ワイナリーは、ワイン造りのプロフェッショナルです。私たちソムリエは、ワインを美味しく楽しむためのプロデュースが仕事です。秩父にはジビエなど魅力的な食材が豊富で、ワインだけでなく日本酒やウイスキー、チーズなどの発酵食が集まっており、今注目される”発酵ツーリズム”の基点として活性化したいと考えています」と語る。

新嘗祭をきっかけに神社と縁を繋いだ

毎年11月23日に全国の神社で行われる新嘗祭は、神様に豊穣を感謝してその年に収穫した物を御神前にお供えする祭祀だ。

秩父神社の「御神酒ワイン」のきっかけは、令和元年に北氏の会社があるさいたま市浦和区に鎮座する調神社の宮司から「令和最初の新嘗祭なので、新しい試みとして地元産のワインをお供えしたい」と希望があったことから始まる。ちょうど調神社は「狛兎」で有名であり、紹介したいワイナリーの名前が「兎田ワイナリー」で「兎」が繋ぐご縁となった。調神社の紹介で、さらに大宮の氷川神社や秩父の三峯神社、宝登山神社、そして秩父神社にも新酒のワインを奉納するに至った。

そのなかで、秩父の発展を祈念する秩父神社は、同社が行う観光促進や雇用創出・地産地消などの地域活性化の取り組みに関心を寄せた。権宮司から「何か手伝える事があったら言って欲しい」と声を掛けてもらい、本殿の地下を借りてワインを熟成する話が決まっていった。

令和2年11月6日の大安吉日に、同社と兎田ワイナリーの心願達成を祈願し、ワインは秩父神社の本殿地下へ搬入され熟成を開始。ワインのラベルは権宮司に揮毫をいただいた文字を使用した。全国には奉納されたワインをご祈祷後の御神酒として供したり、ワインのほかにも焼酎を御神酒とするなど地域性を活かした神社はあるが、”本殿でお酒を熟成させている”ワインは全国でもここだけの取り組みだ。

ハレの日に乾杯するワインになってほしい

こうして本殿地下で赤ワインの「秩父ルージュ」と白ワインの「秩父ブラン」の計480本が熟成に入った、そのうち初回分の100セットがすでに昨年末12月に発送を終えているが、反応は上々のようだ。

  • 本殿地下で熟成される赤ワイン「秩父ルージュ」、白ワイン「秩父ブラン」

北氏は「注文データを見ても、贈答での注文が多く入っていました。送付先が企業宛になっているものもあり、年始のご挨拶や年度切り替えの時期に重なったので新就任のお祝いにと購入してくださった人が大勢いたようです。秩父神社で熟成したワインですから、飲み手にとっても有り難いものと感じていただけるのでは」と分析している。

神社での熟成ワインは、単発で終わらせず今後も継続化していきたいと話す。「ハレの場や記念に乾杯して飲んだおいしいワインは思い出に残ります。今後はこのワインが人生の節目に選ばれる、飲まれるワインとして成長させていきたいですね」

次回のワイン頒布は4月からの注文受付を予定する。秩父の恵みの酒に神様の御神霊を宿したワインは、まさにハレの日にふさわしい飲み物といえるだろう。秩父の新しい名物として、おめでたい日の1本として浸透していくことを願うばかりだ