キリンビールは22日、新ジャンル(第3のビール)カテゴリの『本麒麟』をリニューアルすると発表した。350ml缶、500ml缶の味覚とパッケージデザインをリニューアルし、1月製造品から順次切り替えていく。キリン自ら「想定を超える大ヒット」と高く評価する『本麒麟』。今後は20~30代の若い層にも支持を拡大すべく、デジタル施策にも積極的に取り組んでいく方針だ。

  • キリンビールが『本麒麟』をリニューアル。担当者がその理由について語った

『本麒麟』をメガブランドに育成

発表会の冒頭、キリンビール代表取締役社長の布施孝之氏は「キリンビールはいま、変革の中にいます。2015年以前は、投資が分散しており戦略不在だった。また物事の判断基準が会社都合になっていた。この危機感と反省から、投資するブランドの絞り込み、お客様基軸での判断、ブランド育成の強化に取り組んでいます」と切り出す。その中でも『本麒麟』は、改革の象徴的な商品。なお、ここ3年ほどで早くもその結果が出始めており、リニューアル、新商品の成功確率が飛躍的に向上しているという。

  • キリンビール代表取締役社長の布施孝之氏。「どの会社よりも、お客様のことを一番考える組織風土にしていく」と語る

ところで昨年(2020年)は、ビール業界にとって「酒税法の改正」「コロナ禍」という2つの大きな環境変化があった。コロナ禍に関しては、いまなお外食市場が大きな打撃を受けている状態。ビールメーカーとしても抜本的な解決策を見い出せておらず、布施社長も「引き続き飲食店と同じ立場で考え、寄り添った提案をしていきたい」と話すにとどまる。

一方で一般消費者の間には、酒税法の改正、およびコロナ禍によって「節約志向」「こだわり消費」「健康志向の高まり」というマインドの変化があった。こうした環境の変化は、いまキリンビールが改革の下で集中的に投資する『一番搾り』『一番搾り 糖質ゼロ』『本麒麟』の販売戦略と合致した。それにより販売数が大きく伸びており、「ピンチをチャンスに変換できた」(布施社長)状態だ。

  • コロナ禍での新ジャンル市場変化

2020年のビール類市場構成比では、新ジャンル(第3のビール)が約46%となり初めてトップに立った。ビールは約41%、発泡酒は約13%だった。また発泡酒や新ジャンルに期待することとして、消費者の71.6%が「ビールの味に近いこと」、61.7%が「手頃な値段で買いやすいこと」と回答している。

『本麒麟』が登場したのは2018年。当初、2020年に10万kl(キロリッター)達成を目標にしていたが、発売初年度で目標数量を達成。以降は、キリンビールとしても想定外の勢いで好調に推移している。

  • 『本麒麟』の販売数量推移。30万klのメガブランドへの育成を目指す

布施社長は「多くの人に飲用体験していただき、認知される定番ブランドになりました。30万klをしっかり達成して、早期にメガブランドに育成していければ」と話すとともに、「ビールは人生を幸せに豊かにするものです。キリンビールでは、お客様の毎日を嬉しくすることを続けていきます。リニューアルした『本麒麟』も、日本中のビール好きの皆さんに喜んでもらえる味に仕上がっていると確信しています」として今後の展開に期待を寄せた。

『本麒麟』大ヒットなのにリニューアルする理由

続いてブランドマネージャーの永井勝也氏が説明した。『本麒麟』は、キリンビールとしても「歴史的に売れている」認識だという。そのヒットの理由については「コロナ禍になり、購入しやすい価格帯で、かつしっかりと美味しいビールを自宅で飲みたい、という需要に的確に応えたことが影響しています。またメイン層の40~60代に加えて、SNSでの口コミ、評判を介して20~30代にも支持が広がりました」と永井氏。

  • ブランドマネージャー 永井勝也氏

これまでリニューアルというと、下降傾向の売り上げトレンドにテコ入れする意味合いが強かった。しかし『本麒麟』は3年連続で攻めのリニューアルを続け、成長が伸びている状態。これはキリンビールでも過去に例がないとしている。「もっともっと美味しくして欲しいという消費者の期待に応えるために、攻めのリニューアルを行っています。飲用経験率は4割で、『一番搾り』などのトップブランドと比較すると、まだ10%の差があります。今後は、新規層を取り込んでいきたい。まだ成長できるポテンシャルは大きいと感じています」と永井氏。

  • 売れ筋商品にもかかわらず、攻めの姿勢でリニューアルを続けている

今回リニューアルするポイントは、中味では2点あるという。まずは大麦を増量することで、コク・飲みごたえを向上する。そして良質な苦味が特長のドイツ産ヘルスブルッカーホップの増量によりコクを強化。この結果、力強いコクと飲みごたえがありながら、雑味が少なく飲み飽きない仕上がりにした。デザインに関しても、麒麟聖獣のエンブレム、キーカラーの赤・金を鮮やかにするなど高品質感を演出、作り手の高いこだわりが伝わるものにした。

  • 中味、デザインともにリニューアルを行う

マーケティングにも力を入れる。テレビCMは最大規模で出稿。またデジタル広告を増強して消費者としっかりコミュニケーションをとっていく。さらに100万人規模の飲用体験トライアルも準備。おつまみ、専用グラスが絶対もらえるキャンペーンなども予定している。

『本麒麟』『のどごし〈生〉』の棲み分けは?

質疑応答には、布施社長、永井氏が対応した。

新規に獲得したい顧客層のイメージについて、永井氏は「新ジャンルカテゴリに対して関与が低い、ビール類のライト層。まずは知っていただき、美味しそうだから飲んでみたい、という環境をつくっていく。たまにビールが飲みたくなったとき、訪れた店頭で手にもってもらいたいです」と話した。

リニューアルした『本麒麟』について、試飲した感想を聞かれた布施社長は「家では『一番搾り』『本麒麟』を食卓に並べて飲んでいます。『本麒麟』はリニューアルによって力強いコク、ビールらしさが増しました。この値段で、この本格感。必ず多くのお客様に喜んでいただけると確信しています」とコメント。

キリンビールでは新ジャンルカテゴリとして、爽快さ・スッキリ感を打ち出した『のどごし〈生〉』と、本格派・高品質の『本麒麟』の2ブランドで展開している。この2ブランドの棲み分けについて聞かれると、永井氏は「新ジャンルカテゴリは麦芽比率が少なく、スッキリ爽快で飲みやすい味わいが特徴があります。これが期待する方に向け、ジョッキのようにゴクゴクと爽快に飲めることに飲み心地に価値を置いたのが『のどごし〈生〉』です」と紹介。

  • キリンビールでは、新ジャンルカテゴリとして『のどごし〈生〉』と『本麒麟』の2ブランドを展開している

一方で「新ジャンルカテゴリは、ビールとの垣根がなくなってきました。ビールらしい本格的な美味しさで、飲みごたえがあり報酬感を得られる、そんなニーズには伸びしろがある『本麒麟』を強化していきます」と解説した。