「貯金をしたいのに、どうにもお金が貯まらない……」。多くの人が抱えている普遍的な悩みかと思います。脳神経外科医の菅原道仁先生によると、その要因は「ムダづかいをする脳のクセ」にあるといいます。なぜそんなクセが生まれるのか、どうすればそのクセから抜け出してお金を貯めることができるのかを、菅原先生が詳しく教えてくれました。
■自動処理を好む脳が「ムダづかいをするクセ」をつくる
お金を貯めたいと思ってはいるのに、ついムダづかいをしてしまう人には共通点があります。それは、「ムダづかいをする脳のクセ」がついてしまっているということ。そのクセに従った結果、合理性や論理性を無視してわざわざ損をするようなムダづかいをしてしまうのです。
その脳のクセは、「ものごとを深く考えることをなるべく減らして、さまざまなことを自動的に処理しよう」という脳の特性によってつくられています。
なぜ脳は「なるべく自動的に処理しよう」とするのでしょうか?
その答えは、脳が非常に多くのエネルギーを消費する臓器だからです。大人の脳の重さは約1400g。これは、全体重のわずか2%程度に過ぎません。ところが、その消費エネルギーは、わたしたちが1日に消費するエネルギーの約20%にも達します。
そのため、脳はなるべく消費エネルギーを抑えようとします。その結果、できる限り反射的にものごとを判断したり、重大な決断ほど先送りしたり、変化を嫌っていつもどおりに行動しようとしたりと、「なるべく自動的に処理しよう」とします。
いわば、わたしたちの脳は非常に重要な働きを担いながらも、本質的には考えたり判断したりすることが大嫌いな「怠け者」だということですね。
怠け者である脳に、買い物をする場面での判断を完全に委ねてしまうとどうなるでしょう? 合理的な判断ができずに、世の中にある販売戦略に乗せられるとか、ただ見栄を張りたいといった理由でムダづかいをしてしまうことになるのです。
■「ムダづかいをする脳のクセ」チェックリスト
そういった「ムダづかいをする脳のクセ」がついていると、さまざまなサインが現れます。みなさんに「ムダづかいをする脳のクセ」がついているかどうかを、チェックしてみましょう。以下の質問に「YES or NO」で答えてください。
では、「YES」の数であなたの「ムダづかい度」を診断してみましょう。
【「ムダづかい度」診断】
◆「YES」が14〜18個→「ムダづかい度」100%
完全に買い物依存症といえます。通販サイトはもう一切見ないほうがいいでしょう。パートナーがいる場合なら、家計の管理を相手に任せてしまうべきです。
◆「YES」が9〜13個→「ムダづかい度」70%
買い物依存症の一歩手前というところ。給料日前になると、なにに使ったかわからないのに、いつも金欠状態ではありませんか? すぐにムダづかい対策が必要です。
◆「YES」が4〜8個→「ムダづかい度」30%
ふだんのお金の使い方を少し改善するだけで、貯金がみるみる増えていくでしょう。
◆「YES」が0〜3個→「ムダづかい度」0%
なんの心配もいりません。むしろ、この記事を読んでいるのが不思議なくらいです。
■世の中の販売戦略のほとんどが「脳のクセ」を利用したもの
あなたの診断結果はどうでしたか? 「ムダづかい度」が70%以上の人は、いますぐにムダづかいを減らしていく努力をしなければなりません。そのためにまず必要となるのは、世の中の「販売戦略」を知ること。なぜなら、それらの販売戦略のほとんどが、「ムダづかいをする脳のクセ」を利用したものだからです。
たとえば、先のチェックリストにもある特売品や処分品も販売戦略のひとつです。そういった商品をつい買ってしまうのは、快楽物質とも呼ばれる「ドーパミン」という神経伝達物質の働きによるものです。
ドーパミンは本来、生存するために必要なことを学習したときのご褒美として働きます。なんらかの難しい問題を考えていて、「わかった!」とひらめいたときは気持ちいいですよね? そうやって、ドーパミンが学習を促すのです。しかしながら、その快楽は長続きしないという特性を持っています。さっと快楽が消えることで、次の学習にわたしたちを向かわせるためです。
このドーパミンは、人間が社会生活を営むうえで学習以外の場面でも働くようになりました。たとえば、勝負や賭け事に勝つ、お酒を飲む、タバコを吸う、そして買い物をする……。それらの行為をすると気持ちがいいのは、ドーパミンが働いているからです。
特売品や処分品のなかに気になるものを見つけたときにはどう思いますか? 「いい掘り出し物を見つけた!」というふうに快楽を感じるでしょう。そして、実際に購入すれば、「いいものをお得に買えた!」という快楽もついてくる。もちろん、これらはドーパミンの働きによるものですから、その快楽は長続きしません。その結果、その買い物を後悔することになるのです。
■買い物をするたびに立ち止まることは、「なりたい自分」に近づくこと
大切なのは、世の中のあらゆる販売戦略を冷静に見つめることです。以前に通販サイトでチェックした商品の広告がまったく別のサイトを見ているときにも表示されるのも、「限定○個!」「この価格での販売は△時まで!」「いつでも返品可能!」といったうたい文句も、アパレルショップで販売員がやたらと試着をすすめてくるのも、すべては「ムダづかいをする脳のクセ」を利用した販売戦略です。
それらに踊らされないようにするには、お金を使うタイミングごとに立ち止まり、買おうとしているものが「本当に自分にとって必要なものか?」と冷静に考えることがなによりも大切です。
高級ブランド品を買うことも、すべてがムダづかいというわけではありません。もちろん、高級ブランド品を必要としない人が見栄を張りたいからと買うことはムダづかいです。
でも、たとえばフォーマルなパーティーに参加する機会がある人にとっては、周囲からの信用度を上げるために高級ブランド品をワンポイントで身につけておくのも大切なこと。その人が冷静に考え、「自分には必要だ」と判断したうえで高級ブランド品を買うことはまったくムダではありません。
そして、そのようにお金を使うタイミングごとに立ち止まって考えることは、この先の自分の人生を見つめ、「なりたい自分」に近づくことにもつながります。ただやみくもにものを買うのではなく、「これは本当に自分にとって必要なものか?」と考えることは、未来の「なりたい自分」をイメージすることだからです。
それこそが、同じお金を使うにしても、ムダづかいではなく「満足度の高いお金の使い方」をしていくための最大のコツです。
構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム) 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人