扶養控除の対象となるのは、生計を一にする配偶者以外の親族、つまり子どもや同居親族が相当します。しかし、同居していなくても仕送りをしている親があれば扶養に含めることができます。

本記事では最新版の税制上における扶養控除と、社会保険上の扶養控除について、それぞれの仕組みと計算の仕方を説明します。

  • 扶養控除とは?

    【2021年版】扶養控除とは? 年収との関係や配偶者控除との違い

扶養控除と配偶者控除の違いは?

「扶養内で働く」という場合、誰が働くかによって「扶養控除」になるか「配偶者控除」になるかが変わってきます。最初に混同されがちな「扶養控除」と「配偶者控除」の2つの言葉について整理しておきましょう。

扶養控除と配偶者控除の違いは、対象となる人と世帯主との関係の違いです。配偶者控除の対象となるのは、納税者本人と生計を一にしている配偶者です。一方、扶養控除の対象となる方は、複数のケースがありますので、以下でわかりやすく「A山家」という一家を例に紹介します。

ケース1. 夫と妻の2人暮らしの場合

A山家では、夫のA雄さんが企業に勤めており、年収700万円を得ています。また、妻のB子さんは、パートタイムで働いており、年収103万円です。

A山家の場合
【夫】A雄さん : 年収700万円(給与所得)
【妻】B子さん : 年収103万円(パート)

この際、A家の合計所得額は803万円です。B子さんの年収が103万円以下であるため、配偶者控除が適応され、A雄さんは38万円の控除を受けることができます。

ケース2. 夫と妻と子2人の4人暮らしの場合

A山家に、19歳になる大学生の息子のC太君と17歳で高校生のD絵さんがいたとしましょう。また、C太君は毎月5万円をアルバイトで稼いでいることにします。

A山家の場合
【夫】A雄さん : 年収700万円(給与所得)
【妻】B子さん : 年収103万円(パート)
【子】C太君 : 年収60万円(アルバイト)
【子】D絵さん : 無収入

生計を一にしている配偶者以外の16歳以上の親族は、扶養控除の対象となります。C太君は19歳以上23歳未満なので、特定扶養親族に相当し、A雄さんは年間63万円の控除を受けられます。D絵さんは17歳なので一般の控除対象扶養親族に相当し、A雄さんは年間38万円の控除を受けることができます。

ケース3. 夫と妻と子2人の4人暮らしで、仕送りをしている場合

A雄さんが、他県で1人暮らしをしている70歳のお母さんのE美さんに毎月7万円の送金をしていたとしましょう。

A山家の場合
【夫】A雄さん : 年収700万円(給与所得)
【妻】B子さん : 年収103万円(パート)
【子】C太君 : 年収60万円(アルバイト)
【子】D絵さん : 無収入

仕送り
【実母】E美さん : 年収90万円(年金)

E美さんは70歳以上であるため、A雄さんにとっての老人扶養親族に当たります。またE美さんと同居ではないため、A雄さんは48万円の扶養控除を受けることができます。

この場合、A雄さんが受けることのできる控除は以下のようになります。

  • 配偶者控除 : 38万円
    対象者 : 【妻】
  • 特別扶養親族控除 : 63万円
    対象者 : 【子】(C太君)
  • 扶養親族控除 : 38万円
    対象者 : 【子】(D絵さん)
  • 老人扶養親族控除 : 48万円
    対象者 : 【実母】

このように、納税者に配偶者以外の扶養親族がいる場合に受けられる所得控除が扶養控除です。扶養控除には、一般の控除対象扶養親族と特定扶養親族、老人扶養親族の区分があります。

【扶養控除額一覧】

区分 扶養控除額
一般の控除対象扶養親族(12月31日時点で16歳以上) 38万円
特定扶養親族(12月31日時点で19歳以上23歳未満) 63万円
老人扶養親族(12月31日時点で70歳以上) 同居老親等 58万円
別居老親等 48万円
  • 扶養控除とは?

    「扶養控除」と「配偶者控除」を混同しないようにしましょう

「103万円の壁」とは

これまでパートで働く人に対して「103万円の壁」ということが言われてきました。この言葉の正確な意味と、子どものアルバイト収入にもそのような壁があるのかを見ていきましょう。

アルバイトも課税の対象

パートやアルバイトであっても、収入がある人は課税の対象となります。1年間の収入が100万円までならば税金がかかりませんが、100万円を超えると住民税が、103万円を超えると超過分に対して所得税と住民税がかかります。

たとえば、ある年の1月1日から12月31日まで働いて収入が105万円だったとします。所得が195万円までの所得税率は5% なので、以下の式で所得税を算出できます。

  • 所得税の計算 :
    (105万円-103万円)×5% =1,000円

上記の式より、1,000円の所得税がかかることがわかります。「1,000円ぐらいだったら、たいしたことはないや」と思うかもしれません。しかし、世帯単位で考えると、103万円と105万円ではまったく変わってしまいます。それが「扶養から外れる」ということです。

これまで扶養に入っていた妻や子どもが扶養から外れると、納税者である夫は、妻であれば配偶者控除、子どもであれば扶養控除を受けられなくなってしまいます。

「103万円」を超えた際の「住民税」「社会保険料」の増大リスク

先ほどのA山家の例をもとに考えてみましょう。C太君が扶養から外れることで、A雄さんは63万円分の控除を受けられなくなってしまいます。

仮にA雄さんの所得税率を20% とすると、63万×0.2=12万6,000円も税負担が増えることになります。このほかにも、扶養を外れることによって住民税が増え、所得額によっては社会保険料が増えることにもなってしまいます。

「扶養を外れる」ことは、本人ではなく、世帯全体で見た場合に大きな影響を与えるということです。そこで「103万円の壁」と言われるようになったのです。

扶養控除を徹底解説

扶養控除は所得税と住民税に適用されます。扶養控除の対象別に、所得税、住民税と年収の関係について詳しく説明します。

税法上の扶養とは

税法上の扶養親族とは以下の(1)~(4)の要件をすべて満たす人を指します。

  1. 配偶者以外の親族
    納税者の親や子ども、血縁者ばかりではなく、配偶者の親や祖父母、子ども(連れ子)、おじ・おばも含まれます。さらには里子や市町村から養護を委託された老人も含まれます。
  2. 納税者と生計を一にしていること
    納税者と生活費を共にしているという意味です。同居していない場合でも、仕送りをしていれば当てはまります。
  3. 年間の合計所得金額が48万円以下であること
    所得とは、収入金額から給与所得控除額(55万円)を引いた金額のことです。年収が103万円以内であれば、この範囲に該当します。
    年金も「雑所得」に含まれます。扶養控除の対象となる70歳以上の人では、受け取る年金額が158万円以下の場合、公的年金等控除額が110万円以下、所得金額が48万円以下なので、扶養控除の対象者となります。
  4. 青色申告の事業専従者として給与の支払いを受けていないこと・白色申告の事業専従者でないこと
    青色申告者・白色申告者は共に事業を営む納税者のことです。事業専従者とは青色申告者や白色申告者の下で働いている人を指します。たとえば親が商店を経営しており、子どもが事業専従者として働いている場合には、扶養控除を受けることはできません。

この(1)~(4)までの条件をすべて満たしている人は、納税者の扶養控除の対象者とすることができます。

住民税の扶養控除とは

所得税は国に納めるのに対し、住民税は地方公共団体に納めます。そのため、同じ扶養控除といっても、住民税と所得税では控除額が異なるために注意が必要です。

【住民税控除額】

区分 控除額
一般の控除対象扶養親族(12月31日時点で16歳以上) 33万円
特定扶養親族(12月31日時点で19歳以上23歳未満) 45万円
老人扶養親族(12月31日時点で70歳以上) 同居老親等 45万円
別居老親等 38万円

先ほどのA山家の例(ケース3)で、A雄さんの住民税を計算してみましょう。

A山家の場合(再掲)
【夫】A雄さん : 年収700万円(給与所得)
【妻】B子さん : 年収103万円(パート)
【子】C太君 : 年収60万円(アルバイト)
【子】D絵さん : 無収入

仕送り
【実母】E美さん : 年収90万円(年金)

上記のケースにおけるA雄さんの住民税は、以下の式で求めることができます。

  • A雄さんの住民税=
    {700万円(A雄さんの給与所得)-33万円(A雄さんの基礎控除)-33万円(B子さんの配偶者控除)-45万円(C太君の特定扶養控除)-33万円(D絵さんの一般控除)-38万円(E美さんの老人扶養控除)}×住民税率10% =51万8,000円

また、仮に扶養から全員が外れていた場合のA雄さんの住民税は、以下の通り。

  • A雄さんの住民税=
    {700万円(A雄さんの給与所得)-33万円(A雄さんの基礎控除)×住民税率10% }=66万7,000円

先述の51万8,000円と比較すると、14万9,000円の差がついてしまうことがわかります。以上のことから、扶養の枠内で働くことは、世帯全体で考えてメリットがあることだと言えます。

  • 扶養控除について徹底解説

    扶養控除は所得税と住民税に適用されますが対象所得額が異なるため注意が必要です

社会保険上の扶養を徹底解説

税金上の扶養控除と並んで重要なのが、社会保険上の扶養控除です。税金とは異なり、ここでは扶養の対象から配偶者が外れることはなく、共に「被扶養者」の扱いになります。

社会保険被扶養者とは

社会保険被扶養者となるためには、以下の要件を満たしている必要があります。

  1. 年間収入が130万円未満(60歳以上・障害者の場合は180万円未満)であること
  2. 同一世帯であること(同居しなくても認められる場合…配偶者、子ども、孫、兄弟姉妹/同居の必要がある場合…内縁関係にある配偶者の親、子ども)

この2つの要件を満たしている場合、社会保険上の被扶養者と認められ、社会保険料の負担は免除されます。

社会保険の被扶養者を外れるとどうなる?

パートやアルバイトで年間収入が130万円を超えた場合は、何らかの公的保険に加入し、毎月保険料を自己負担しなければならなくなります。

公的保険の種類はいろいろありますが、多くの場合は「国民健康保険料」と「国民年金保険料」を支払うことになります。

  • 社会保険上の扶養を徹底解説

    扶養の範囲を外れた場合は社会保険を自分で負担する必要があります

扶養控除の仕組みを知って正しく節税しよう

給与所得者は年末調整を行って、扶養控除や配偶者控除など、各種の控除を受ける手続きをします。しかし、給与所得者の家族が、扶養控除や配偶者控除の仕組みを知らず、少しでも収入を増やそうと頑張って働いてしまうと、扶養控除や配偶者控除を受けられなくなり、世帯全体で見たときにマイナスになってしまうこともあります。

世帯全体の可処分所得(税金や保険料を差し引いた手取り)を増やすには、所得の多い納税者を中心に考えることが重要です。納税者以外が働く場合には、扶養控除や配偶者控除の仕組みを知り、正しく節税を行いましょう。