「やぶさかではない」を「仕方ないから○○する」という意味だと覚えている人も多いですが、これは実は誤用です。

本記事では、「やぶさかではない」という言葉の本当の意味や使い方と例文、類語や英語表現などを紹介します。混同しがちな「まんざらでもない」の違いも解説します。

  • 「やぶさかではない」の本当の意味とは

    「やぶさかではない」の意味や使い方を正しく覚えましょう

「やぶさかではない(吝かではない)」の意味とは

「やぶさかではない」は、漢字で「吝かではない」と表記します。「やぶさか(吝か)」には、「ケチである」「物惜しみする」という意味があります。

この「やぶさか」に、否定である「ない」が足されている「やぶさかではない」は、ケチや惜しむ意味を否定する言葉です。

つまり「やぶさかではない」とは「快く、喜んで○○する」「一生懸命○○に取り組む」「積極的に○○する」「その事柄に対して反対意見はない」などの意味を表す言葉となっています。

ストレートに喜ぶというより感情を抑えた言葉であり、目上の人にも使える前向きな表現です。「やぶさかでない」とも言います。

「やぶさかではない」の誤用に注意! 否定的な意味ではない

前述の通り、「やぶさかではない」は「喜んで○○する」という、積極的で前向きな意味を持ちます。

しかし「仕方なく○○する」「積極的にやりたいわけではないが、渋々○○する」「そこまで言うなら、まあやってもいい」というような、否定的な意味だと勘違いしている人も多いようです。

「仕方ないですね。そこまでお願いされたら、私の方から先方にお伝えするにやぶさかではありません」などと誤用しないように気を付けましょう。

「やぶさかではない」の使い方と例文

「やぶさかではない」はどんなときに、どのように使えばいいのかを、例文とともに解説します。

なお「やぶさかではない」は主に、「○○『に』やぶさかではない」という形で使います。

目上の人にも問題なく使える言葉

「やぶさかではない」は、快く物事を行う表現になるため、上から目線の言葉ではありません。従って、目上の人にも問題なく使うことが可能です。

例えば、

・お引き受けするのにやぶさかではありません

・案件を増やす話について、先方もやぶさかではないようでした

など、仕事上の上司に対しても問題なく使用できます。

前向きな表現として使える

「やぶさかではない」には「快く○○する」という意味があるため、前向きな表現として使用します。目上の人だけではなく、対等な立場や部下、後輩に対しても使うことが可能です。

例えば、

・そのチームに参加することにやぶさかでない

・地域のボランティアに関して、協力することにやぶさかではありません

など、喜んで参加・協力しますという意味になります。

感情を抑えたつつましい表現として使える

「やぶさかではない」は、ストレートな感情を抑えた表現のため、つつましい態度を取りたい場面で選ばれる言葉です。曖昧さを残した日本独特の表現と言えるでしょう。

例えば、

・息子を高く評価することにやぶさかではありません

・隣の部署と合流するのにやぶさかではない

など、喜んで行う意志を伝える際に用いられます。

  • 「やぶさかではない」の正しい使い方

    例文を参考に「やぶさかではない」の使い方を覚えましょう

「やぶさかではない」と「まんざらでもない」の違い

「まんざらでもない」は、「かなりよい」という意味もありますが、主に「必ずしもダメというわけではない」「全くだめというわけではない」という意味で使われる言葉です。「やぶさかではない」のように、「積極的に喜んで○○する」という意味ではないため、注意が必要でしょう。

例えば、「A君のことはまんざらでもない」は、「A君のことは必ずしも嫌というわけではない」という意味になります。「やぶさかではない」の意味を「まんざらでもない」の意味と勘違いする人が多いため、しっかりと違いを覚えておきましょう。

「やぶさかではない」の語源・由来とは

「やぶさかではない」の「やぶさか」の語源は、平安時代に使用された、「やふさし」や「やふさがる」という言葉から来ていると考えられています。「やふさし」はケチ、「やふさがる」は「物惜しむ」という意味があります。

鎌倉時代以降「やふさか」「やっさか」などの変遷を重ね、最終的に「やぶさか」という形で残ったと言われています。

「やぶさかではない」の類語・言い換え表現とは

正しい意味を知っていれば、「やぶさかではない」は使い勝手のよい言葉でしょう。しかし、一つの言葉を使い続けると語彙の少なさを感じられたりする可能性があります。

「やぶさかではない」の類語を知り、文脈や言葉のつながりを考慮して適宜使い分けましょう。

喜んでする

「喜んでする」は、行為を惜しまない様子や、うれしい気持ちを含む言葉です。「やぶさかではない」には「喜んで○○する」という意味があるため類語になります。

例えば、「私は読書が好きなので図書委員を喜んでする」「あなたが元気になることなら何でも喜んでするよ」などの使い方があります。

異存はない

「異存はない」は、異なった考えはなく賛成または同意するという意味の言葉です。「やぶさかではない」には「その事柄に対して反対意見はない」という意味があるため、「異存はない」も類語に当たります。

例えば、「私がこの地を去ることに異存はない」「異存はないが、この件についてはもう一度考えてみてほしい」などの使い方があります。

快諾する

「快諾する」とは、相手の申し出に対して気持ちよく聞き入れることを意味する言葉です。「やぶさかではない」には「喜んで○○する」という意味があるため、類語になります。

例えば、「明日、どうしても顔を出してほしいと言うので快諾した」などの使い方があります。

「やぶさかではない」の対義語とは

「やぶさかではない」の対義語として、同意しないことを意味する「反対する」や、やむなく認めようとする様子の「不本意ながら」が挙げられます。

「やぶさかではない」には、賛成の意味や快く引き受ける意味が含まれているため、ある事柄に対して逆らうような表現が対義語に当たります。

使い方としては、「付き合いが深い同僚の希望ではあるものの、納得できないため反対する」「人員に余裕がないため、誠に不本意ながらこのプロジェクトからは撤退いたします」などがあります。

「やぶさかではない」の英語表現とは

「やぶさかではない」は、○○することを好むという意味の「I like to do」や、ぜひ○○したいという意味の「I would love to do」が使われます。

使い方としては、

  • I like to take your invitation happily.
    (招待を受けるのにやぶさかではない)
  • I would love to join the project.
    (計画に参加することにやぶさかではない)

などがあります。

「やぶさかではない」「やぶさかでない」をビジネスの場で正しく使おう

「やぶさかではない」や「やぶさかでない」は、「快く○○する」「積極的に○○する」などの意味がある肯定的な言葉です。

しかし、実際には否定的な意味と間違えて使用している方も多く、本来の意味で伝わりにくい言葉でもあります。

また、難しい印象もありますが、仕事のやり取りなどでは時折耳にする場合があります。自分が「やぶさかではない」を使う際は、使い方を間違わないよう意味を正しく理解しましょう。