「過不足」という単語、正しく使えていますか?
社会人たるもの、日本語は正しく、適切な場面で使いたいものですよね。日常でさらりと使えるだけで、常識のある人だと認識されるでしょう。そこで今回は、「過不足」の正しい読み方や意味、使い方をご紹介します。
「過不足」とは?
はじめに、「過不足」の基本的な意味や読み方をおさらいしておきましょう。普段自分が知っている情報と合っているかどうか照らし合わせてみてください。
「過不足」は「多いことと少ないこと」
「過不足」という単語は、「多いこと」と「少ないこと」の両方をひとつの言葉で表しています。「過」は「過ぎる=足りている」を意味し、「不足」は読んで字のごとく「足りていない」状態を表しています。
読み方は「かふそく」
「過不足」の正しい読み方は「かふそく」です。「かぶそく」と読んでいるという人も多いのではないでしょうか。前述したように「過」と「不足」(ふそく)」が組み合わさってできているため、基本的には「かふそく」と濁らない発音が正しい読み方となります。
しかし「かぶそく」と入力してもきちんと変換されることからも、「かぶそく」と濁って発音するのが決して間違いというわけではありません。
「かぶそく」がすでに広く浸透しているため、どちらでも通用するようです。本来の読みは「かふそく」であることは、雑学程度に頭の中に留めておくといいかもしれません。
「過不足」の由来は?
「過不足」の由来は、実は明治時代にまでさかのぼります。簿記の専門用語「現金過不足」が由来といわれており、現金が多すぎたり足りなかったりしたときに「過不足」と表記されていたようです。
簿記が日本に取り入れられるようになったのは明治6年前後といわれています。そのころから専門用語として「現金過不足」という言葉が存在していたと推測されています。簿記そのものの歴史はローマ時代までさかのぼることができるので、そのころに伝わってたとしたらかなり古い歴史を持った言葉といえるでしょう。
「過不足」の類語
2つの意味を内包する「過不足」ですが、類語もあります。同じように「多いこと」と「少ないこと」を表す単語が該当するでしょう。
「過不及」
「過不及(かふきゅう)」の「及」には「及ぶ・追いつく・届く」という意味があるため、「過ぎること」と「及ばないこと」の2つの意味をひとつの言葉で表しています。
「過不及なし」「過不及ない」という使い方で、「過ぎず足りてちょうどいい」という意味を表します。「多すぎず少なすぎず」を意味する「過不足」の同義語といえるでしょう。
「多かれ少なかれ」
「多少の違いはあっても」という意味を持つ「多かれ少なかれ」という表現も、「過不足」の類語に分類されます。「過不足」に比べて数に対する正確さはなく、曖昧に「普通」「一般の」「大半の」といったニュアンスを含んでいる点では「過不足なし」と同義といえるかもしれません。
「多かれ少なかれ」は「多少の違いはあれど普通は、大半は」という意味がありますが、「過不足」の場合は「なし」をつけて「過不足なし」とすることで、「過ぎず不足なくちょうどいい=標準的」という意味になります。
とはいえ「多いこと」と「少ないこと」を一言で表しているという点で類語に分類していいでしょう。
「ちょうどよくない」
前述したように、「過不足ない」という表現が「ちょうどいい」という意味になります。つまり「ない」を外した「過不足」の類語として「ちょうどよくない」を挙げることができます。
「過不足」の対義語
「多いことと少ないこと」を表す「過不足」の対義語は、「多くもなく少なくもない」状態を表す言葉が当てはまるでしょう。
「ぴったり」
「当てはまること」「隙間なく合わさること」を表す「ぴったり」という言葉は、「過不足」の対義語に該当します。「ぴったり」のもともとの由来は古語の「直と」「専と」(読み:ひたと)にあるのだとか。「ひたと」くっつく様子が「ぴったりと」に派生したという説があるようです。
古語が由来だとしても、ビジネスシーンに「ぴったり」はカジュアルすぎて不適切です。かしこまった場面では「過不足ない」を使うのがいいでしょう。
「正確な」
「ちょうどよい」「ぴったり」という言葉を漢字で表すなら「正確な」は適切な言葉といえるでしょう。「過不足がある」という状態はもとの数と比べて差異がある状態を表すので、誤差のない「正確な」という言葉は「過不足」の対義語になります。
「きっかり」
同じく「ぴったり」「正確な」状態を表す「きっかり」という単語。デジタル大辞泉で調べるとその意味は「時間・数量などが正確で過不足のないさま」とされています。このことから「過不足」の対義語といえるでしょう。輪郭がしっかりしている状態のこともいいます。
特に「分量をきっかりはかる」「きっかり予定の時間にくる」というように、数字の話題に用いられることが多いようです。
「どんぴしゃ」
プライベートな場面などで使われる「どんぴしゃ」は、「どん底」などにも使われる強調の効果がある「どん」と「ぴったり」が派生した「ぴしゃり」が合わさってできた言葉。「ぴったり」と同様、当然「過不足」の対義語となります。
もちろんビジネスの場面で使うことはないので、ビジネスの場面では「過不足なし」を使いましょう。
「過不足」の使い方
「過不足」を日常の中で使うときの例文をご紹介します。ぜひ実践してみてくださいね。
「売上金で過不足の出ないように」
従来の簿記の専門用語としての使い方に沿った例文です。売上金に差異がないように、計算間違いなどがないように気を付けて、と忠告するときに使うことができるでしょう。
「過不足のないサービス」
もともとは簿記の専門用語だった「過不足」ですが、サービスのような形のないものに対しても使うことができます。
「ない」をつけることで「サービスの質がちょうどよかった」ことを伝える、日本人らしい言い回しといえるでしょう。ただし「サービスがとびきりよかった」わけではないので、使いどころには注意が必要です。
「過不足のない人生」
こちらも「人生」という形のないものに対して使った面白い一例です。日本語には「分不相応」という言葉があります。「行き過ぎず、且つ足りないこともない、身の丈に合った」状態を美徳とするのは日本の文化です。
「過不足のない人生」もまさに「分相応で身の丈にあった人生」を意味し、日本文化が色濃く反映された表現といえるでしょう。
「過不足が出ました」
金額を数えているときによく使われる表現です。「過不足」は多いことと少ないこと両方を表しますが、「出ました」と組み合わせるときは「多かったこと」を表しています。「不足」なのに「出る」と表現するとややこしく感じるかもしれません。
「過不足があります」
一方こちらは「不足している」状態を表します。「不足」という状態が「ある」という意味になるので、前述の「過不足が出た」とうまく使い分けるようにしておきたいですね。
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「過不足」の意味や読み方、使い方についてまとめました。「過不足」は「多いこと」と「少ないこと」の両方を意味する言葉なので、使い方によってどちらの意味も表現することができます。ぜひ使いこなしてみてくださいね。