2020年、新型コロナウイルスの影響で日常は大きく変わった。毎日ニュースや会話で話題に上がっているけれど、結局「ウイルス」って何なんだろうか。

よくわからないものを怖がる前に、「感染症」や「ウイルス」について知識をつけてみるのもよいかもしれない。その疑問に応えるコミックエッセイ『感染症とワクチンについて専門家の父に聞いてみた』を出版した、外科医で漫画家のさーたり先生に、感染症の正しい知識を持つ必要性を聞いた。

  • さーたり著『感染症とワクチンについて専門家の父に聞いてみた』より

感染症やウイルスの専門知識を漫画でわかりやすく伝えたい

『感染症とワクチンについて専門家の父に聞いてみた』の著者・さーたり先生は、消化器外科医で3児の母でオタクの漫画家だ。これまでも、医者ならではのエピソードをつづったコミックエッセイ『腐女医の医者道』シリーズなどを出版している。

  • 『感染症とワクチンについて専門家の父に聞いてみた』KADOKAWA刊(税別1,200円)

そんなさーたり先生の父親は、ウイルス学の第一人者である中山哲夫先生。中山先生が監修し、さーたり先生が漫画を描いたこの書籍は、新型コロナウイルスだけでなく「そもそも感染症とは何なのか」「ワクチンの歴史やしくみ」について漫画とコラムでわかりやすく解説している。

――「感染症とワクチン」、一見難しいテーマですが反響はいかがですか?

読んだ方から「漫画だからわかりやすい、とっつきやすい」という声はいただいています。学習漫画みたいな感じですね。今は新型コロナウイルスが流行っていますが、これも含めて感染症全体の知識を知ってもらいたいなと思っています。

――さーたり先生の専門は外科ですが、今回なぜ感染症の漫画を出したのでしょうか?

コロナ禍の影響で子どもが休校になったとき、「過去のパンデミックはどうやって終息したんだろう」と疑問に思ったんです。そこで感染症の歴史に関する本を読んでみたら面白くて。

天然痘のワクチンを作った、イギリスのエドワード・ジェンナーの話を漫画にしてTwitterにアップしたところ多くの方から反応があり、さらに感染症に関する話を書籍化しませんか? という話を出版社からいただきました。こういった書籍は監修者が必要なのですが、私の父親が感染症の専門家なので、監修してもらっています。

――父・中山先生の反応はいかがでしたか?

新型コロナウイルスが流行する以前から、一般の方に向けたわかりやすいワクチンの書籍を書きたかったそうなのですが、いかんせん難しい内容なんですよね。今回こうして、漫画とコラムが半々になったこの書籍が出せたことを喜んでいます。

――確かに、勉強しようと思うと難しそうなテーマです。

読みやすく書いてあるので、「ウイルスって何だろう」「ワクチンってどうなの?」と興味を持った時、最初に手に取って読む本になればと思います。

――ウイルスや感染症、ワクチンの歴史を知ったり知識を持っておくことで、どのようなメリットがあると考えられていますか?

感染症は誰もがかかる可能性があるものですが、正しい知識がないと恐怖が勝ってしまうんです。手で触れただけで感染しちゃうんじゃないかとか、そばにいただけで感染するんじゃないかとか……。でも、新型コロナウイルスは、手を洗ったりマスクをして防ぐことはできるし、それを知っているか知らないかで行動も気持ちも変わります。また、正しく知らないことで、感染した人の差別にもつながる恐れもあるんです。

過去にも様々な感染症のパンデミックが起きていますが、人類は何らかの形で乗り越えています。歴史が繰り返すのであれば、今の新型コロナウイルスも収まるはず。感染症は怖いけれど、自分ができる範囲で予防しよう、と思ってほしいですね。

――今、急いでワクチンも開発されています。

ワクチンが開発されれば収まるというわけではありません。また、副反応がおきたり、ワクチンを打ったあとに感染した場合に症状がより重くなる可能性もあります。ワクチンを打つメリットとデメリットの両方を知っていれば、「ワクチンができたから100%安心だ!」と飛びつくこともないですし、逆に「ワクチンは危ない、打ってはいけない」という考えにもなりません。

情報に左右されず冷静になるためにも感染症やワクチンの歴史は知っておいた方が良いと考えています。

――さて、これから寒くなり乾燥する季節になります。これから注意すべきことはありますか?

手洗いは変わらず続けてください。寒いと冷たい水で洗うのがつらいかもしれませんが、石鹸を使えば、水の温度で効果は変わりません。水でもぬるま湯でもお湯でも、好きな温度で洗ってください。

また、換気と湿度にも気を付けましょう。換気して寒いのが嫌なら、時間を決めて換気するのも良いかもしれません。また加湿も大事です。乾燥するとウイルスの飛沫が遠くまで飛びやすいので、加湿器を使うなど湿度を保ちましょう。

今は新型コロナウイルスに気を取られがちですが、この書籍は感染症全体について書いています。実は新型コロナウイルスよりも、もっと感染力が強くて死亡率が高い病気もありますし、そういった病気を防ぐワクチンもあるので知ってほしいです。

特に風疹は妊娠中にかかると胎児に感染して先天性風疹症候群をおこしますが、その治療薬はありません。ワクチン接種の機会がなかった40~50代の男性を中心に職場で流行して感染することが多いのです。アメリカや韓国ではもう根絶されている風疹、新型コロナやインフルエンザのワクチンが気になったら、その勢いで風疹のワクチンもぜひ接種してほしいですね!

  • ワクチンを接種することは、「ワクチンを打てない人を守る」社会的な意義もある。風疹のワクチンはぜひ打ってほしいとのこと

――さーたり先生、ありがとうございました!

漠然と怖がるのではなく、感染症やワクチンについて正しい知識を持つことで、ニュースの受け取り方や、新型コロナウイルスに対する行動も変わってくるだろう。

次のページでは、同書籍のプロローグと一部を試し読みできる。ぜひ、読んでみてはいかがだろうか。