もし、自分や家族が生活保護受給者になった場合、どのような生活になるのでしょうか? 生きていくうえで必要なお金はどうなるのか、生活は本当に守られるのか、心配になるかもしれません。
そこで本記事では、生活保護受給者が持つ権利と守らなければいけない義務のほか、生活保護を受けている間の医療や介護サービスの費用、葬儀の際の費用など知っておきたいことをご紹介します。
生活保護受給者の権利と義務
生活保護を受けている人は、生活保護法によって「得られる権利」と「負うべき義務」が定められています。では、どのような権利と義務があるのでしょうか? (※1)(※2)(※3)
生活保護受給者の権利
生活保護受給者の権利は以下の通りです。
「不利益変更の禁止」(生活保護法第56条)
正当な理由なく保護費を減額されたり保護を受けられなくなったりと、すでに決まっている保護を不利益に変更されることはありません。「公課禁止」(生活保護法第57条)
支給された金品や進学準備給付金に税金を課せられることはありません。「差押禁止」(生活保護法第58条)
支給された金品や進学準備給付金が差し押さえられることはありません。
生活保護受給者の義務
生活保護受給者の義務は以下の通りです。
「譲渡禁止」(生活保護法第59条)
生活保護を受ける権利を他人に譲り渡すことはできません。「生活上の義務」(生活保護法第60条)
能力に応じて勤労に励み、保護費を無駄遣いせず節約を図るなどして、生活の維持・向上に努めなければなりません。「届出の義務」(生活保護法第61条)
収入や支出に変動があったとき、居住地や世帯構成に変更があったときは、速やかに届け出なければなりません。「指示等に従う義務」(生活保護法第62条)
福祉事務所が最低生活の保護と生活の向上・自立のために必要な指導や指示を行ったときは、これに従わなければなりません。「費用返還義務」(生活保護法第63条)
生活を賄える資力があるのにもかかわらず保護を受けた場合は、保護金品に相当する金額の範囲内において定められた金額を返還しなければなりません。
生活保護受給者の医療費や介護保険料は?
生活保護を受けている人が病院で受診するとき、医療費の支払いはどうなるのでしょうか?
40歳になったら介護保険制度に加入し、介護保険料を納めなければいけません。また、介護サービスを受けるときもその費用の負担が生じます。生活保護を受給しているとき、これらの費用がどのような扱いになるのか見ていきましょう。(※4)(※5)
生活保護受給者の医療費
病院などで受診する際の医療費は、生活保護の「医療扶助」で賄われます。そのため、自己負担はありません。利用したいときは、事前に福祉事務所で申請して「医療券」または「医療要否意見書」をもらいます。この医療券を病院やクリニックの窓口に提出すれば、自己負担なしで受診できます。
ただし、受診する際は指定医療機関へ行くことが決められています。また、収入がある場合は自己負担が生じることもあるのでご注意ください。健康保険や他の制度で利用できる給付がある場合は、そちらの給付が優先されます。
生活保護受給者の介護保険料
40歳になると介護保険に加入する必要があります。生活保護を受けている人が「要介護」もしくは「要支援」の認定を受け、介護保険サービスを受けるときには「介護扶助」からサービス費が賄われます。
このとき、介護保険に加入している人が介護保険サービスを利用する際に生じる自己負担分(サービス費の1割)を公費で負担してくれるので自己負担は発生しません。
ただし、生活保護を受けている40歳~64歳の人は国民健康保険や会社の健康保険に加入できないことが多いため、介護保険にも加入できていない場合があります。そんな場合でも、生活保護受給者が介護保険サービスを受けるときは全額が公費から賄われることになっています。
介護保険サービスを利用したいときは、まず地域包括支援センターや自治体の介護保険担当課で要介護認定を申請します。
その後、要介護または要支援の認定を受け、介護保険サービスが受けられるようになったら福祉事務所で介護保険サービスの申請をしましょう。そうすることで「介護券」が発行され、利用する介護事業所に直接送付されます。こうして申請が受理されると自己負担なしでサービスが受けられるのです。
しかし、介護保険制度では介護保険料を支払う必要があります。通常は65歳以上の場合は老齢年金などから天引きされます。
ただ、生活保護受給者は年金収入もわずかで介護保険料の負担ができない場合があります。この場合は、生活保護の生活扶助(生活するのに必要な費用を負担してくれる制度)から保険料分が賄われます。(※6)そして、福祉事務所から直接自治体の介護保険課に該当する人の介護保険料が納付される仕組みになっています。
生活保護受給者が死亡した場合
生活保護を受けている人への援助には「葬祭扶助」があります。これは葬儀費用を支払えない人に対して国が必要な費用を負担してくれる制度のことで、以下の費用を賄ってもらえます。(※7)
- 検案(死亡の事実を医学的に確認すること)
- 遺体の運搬
- 火葬または埋葬
- 納骨その他葬祭のために必要なもの
葬祭扶助を使うことで、最低限の葬儀を行うことができます。なお、葬祭扶助には基準額が設定されています。2020年10月現在の基準額は以下の通りです。(※8)
- 大人(12歳以上)の葬儀 : 20万9,000円以内
- 子ども(12歳未満)の葬儀 : 16万7,200円以内
上記の金額以内で葬祭扶助が賄われます。ただし、遺族に葬儀を行える資産を持っている人がいる場合や故人が葬祭費に充てられる金品を残している場合は葬祭扶助を利用することはできません。また、生活保護受給者に葬祭を行う扶養義務者がいない場合、葬儀は家主もしくは民生委員が行うことになります。
生活保護受給者の権利と義務を正しく理解しましょう
生活保護受給者には、生活していくうえでの権利や守らなければいけない義務があることを紹介しました。病院などを受診するときや、介護が必要になったとき、医療費やサービス費の自己負担はありません。また、生活保護受給者が死亡したとき、条件を満たしていれば最低限の葬儀は負担なしで行えます。
いざというときに備えて生活保護受給者の権利や義務をしっかり理解しておきましょう。
こちらも注目 : 生活保護費はいくらもらえる? 単身世帯・母子家庭のケースを例に紹介
参照 :
(※1)門真市「生活保護受給者の権利と義務」
(※2)e-Gov法令検索「昭和二十五年法律第百四十四号・生活保護法」
(※3)大津市「返還金・徴収金」
(※4)足立区「受給者用・生活保護のしおり」
(※5)神奈川県「生活保護法による介護扶助とは」
(※6)小田原市「よくある質問と回答」
(※7)東京福祉会「生活保護葬について」
(※8)札幌市「生活保護法による保護の基準表(令和2年10月~)」