厚生労働省の統計によれば、いま日本人の5人にひとりが慢性的な不眠によって十分な睡眠がとれていないそうです。でも、睡眠は生物に欠かせない心身のメンテナンスタイム。記憶の整理や大脳の休息によってメンタルや脳のパフォーマンスを支え、身体の細胞を修復し疲労を回復するだけでなく、肌の角質など古い組織を除去し、神経の調節なども行われます。

  • 疲れを取り、眠りの質を向上させる! 自律神経を整え、免疫力を高める「夜の習慣」とは /順天堂大学医学部教授・小林弘幸

でも、睡眠時間が不足するとメンテナンスは不十分に……。その結果、肌荒れや疲労感、日中のパフォーマンスの低下だけでなく、自律神経や腸内環境の乱れにもつながり、結果として免疫力の低下や病気の原因につながります。自律神経研究の第一人者として知られる、順天堂大学医学部教授・小林弘幸先生がおすすめする、免疫力を高める「夜の習慣」を紹介します。

■首まわりをほぐして副交感神経の働きを高める

睡眠不足やストレスによって、夜になっても気持ちが昂り、交感神経が優位なままのときは、首まわりをほぐして外側から副交感神経を高めましょう。首まわりには、自律神経に関係する「迷走神経」や「星状神経節」があります。首の筋肉がこっていると血流が滞って、こうした神経の働きが悪化し、自律神経にも悪影響をおよぼします。

ネックウォーマーやホットタオルで首を温めたり、後頭部にある「首をゆるめるツボ」を刺激したりすることで、血流が良くなります。身体の疲れや頭痛が改善し、気分もスッキリ。さらに、副交感神経が働くことで眠りの質も向上し、腸内環境も良くなります。免疫力にも直結する習慣ですから、心身のセルフメンテナンスとして毎日実践しましょう。

■お風呂で深部体温をゆるやかに温める

入浴は副交感神経を働かせ、心地良く眠るためにとても効果的な手段です。しかし、入浴の仕方によっては逆効果になってしまいます。身体にとって最適な入浴方法で自律神経と腸の働きを整え、免疫力をアップさせましょう。

自律神経と腸の働きを整えるために理想的な入浴は「39~ 40℃のお湯に15分つかること」。最初の5分は肩までつかり、残りの10分はみぞおちまでつかる半身浴がおすすめです。全身の血流を良くし、副交感神経の働きを活性化します。

また、深部体温も適度に高めることができ、眠る頃には身体の中心のほのかな熱が手足の末梢からスーッと放熱され、心地いい眠りにつくことができます。そして、入浴後は必ずコップ1杯の常温か温かい水を飲んでください。できれば、脱水症状の予防のため、入浴前にも水分補給をしておきましょう。

熱いお風呂が好みの人も多いと思いますが、42℃以上の入浴は交感神経を急激に刺激し、身体が余計に疲れてしまいます。また、直腸温度などの「深部体温」を高め過ぎてしまい、身体の熱がこもっていつまでも抜けず、眠りの妨げに。また、入浴時間も重要です。近頃はテレビや音楽を楽しみながら1~2時間の入浴をする方もいますが、汗で水分が失われ、脱水症状を引き起こす危険があります。

逆にシャワーだけで済ませる場合、浴びた直後は温まった気がしても、結果的に身体が冷えるだけで効果はほとんどありません。身体が冷えると血流が悪化し、腸も冷えて働きが低下します。

血流の悪い冷え性の人の多くは、同時に便秘症です。入浴は、血流を良くして腸の働きを整えるために重要な習慣ですから、便秘になりがちな人は毎日入浴をするようにしてくださ い。

■寝る前に部屋を片づけ、翌日の準備を済ませる

「朝の習慣」では、朝の時間を慌ただしく過ごして自律神経を乱さないことが大切です。そのためには、早く起きるだけでなく、朝になって慌てないよう前夜に準備をすべて済ませておくことも重要になります。

そして準備の際に、「自律神経を乱す要因」はすべて取り払っておきましょう。

・明日のスケジュールを確認しておく
・鞄のなかを取り出しやすいよう整理し、必要なモノを入れておく
・毎日持ち歩く財布のなかの金額を設定し、設定金額に戻しておく
・翌日着る服を決めておく

朝になって、「今日は取引先に直行だった!」なんてことになれば、朝の時間は急激に慌ただしくなります。そうならないためにも、必ず前夜にスケジュールを確認しておきましょう。また、鞄や財布は、いざというときに必要なモノが取り出せなかったり、必要額がなかったりすると焦りやイライラの原因になります。また、着る服については、朝になって迷っていると無駄に時間を取られてしまいます。そうしたストレスの種を事前に取り払っておくと、より安心して眠りにつくことができます。

さらに、翌日に必要なモノをスムーズに準備するためには、部屋が片づいていることが大切ですよね。もし、部屋が散らかっているようであれば、夜のうちに片づけてしまいましょう。雑然としていたものがスッキリすると、心もスッキリした気分になって副交感神経も働きがアップします。

つねに先手でストレスの種を取り払っておくことは、仕事でのトラブルやミスを減らすだけでなく、ストレスによる免疫力の低下を未然に防ぐためにも大切なことなのです。

構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム) 写真/川しまゆうこ イラスト/えんぴつ

※今コラムは、『免疫力が10割 腸内環境と自律神経を整えれば病気知らず』(著:小林弘幸 監修:玉谷卓也 プレジデント社)より抜粋し構成したものです。