テスラの各モデル、メルセデス・ベンツ「EQC」、ジャガー「I-PACE」、ポルシェ「タイカン」など、ますます選択肢が充実しつつある輸入車のピュアEV(電気自動車)。そんな中、少し遅れて登場したアウディの「e-tron」には、他とは違うどんな魅力があるのか。試乗して確かめた。

  • アウディ「e-tron」

    アウディのピュアEV(電気自動車)として日本初導入となる「Audi e-tron Sportsback 55 quattro 1st edition」(2020年9月発売)。このクルマで箱根を走ってきた(本稿の写真は撮影:原アキラ)

アウディは2025年までに販売台数の4割を電動化するという目標を掲げている。具体的には、2024年までに120億ユーロを先行投資して4つのEV用プラットフォームを開発し、電動化モデル30車種、うちEV20車種を登場させるというかなり踏み込んだ内容である。

プラットフォームはフォルクスワーゲンおよびポルシェと共同で開発する。e-tron スポーツバックなどが採用する「MLB evo」のほかに、「e-tron GTコンセプト」が採用する「J1パフォーマンスプラットフォーム」(タイカンと共用)、「Q4 e-tronコンセプト」が採用する「モジュラー エレクトリフィケーション プラットフォーム」(MEB)、「プレミアムプラットフォームエレクトリック」(PPE)を用意し、幅広いセグメントに対応していく方針だ。

「e-tron」という名称は、以前のアウディ車ではエンジン+電気をパワートレーンとするハイブリッドモデルが名乗っていたが、今回からピュアEV専用の名称になるとのこと。というわけで、早速実車を見てみよう。

  • アウディ「e-tron」

    試乗したのは「スポーツバック」(SUVクーペ)スタイルの「e-tron」。本国ではSUVスタイルのe-tronに続いて登場したが、生産の関係で、アウディ ジャパンではこちらを先に導入したとのこと

試乗車のボディは全長4,900mm、全幅1,935mm、全高1,635mmと余裕のサイズ。形状としては、5ドアハッチバッククーペSUVスタイルと呼べるものだ。他社のモデルがピュアEVらしさを強調しているのに対し、ぱっと見ではそれと気づかないようなe-tronのデザインは、アンダーステートメント性があってアウディらしくクールな印象だ。

  • アウディ「e-tron」

    実際に見ると、けっこう大きいクルマだ

よく見ると、プラチナグレー仕上げの8角形シングルフレームグリルが必要な時だけ空気を取り入れる開閉式になっていたり、前フェンダー左右にあるオレンジのe-tronロゴをあしらった充電フラップであったり、エキゾーストパイプのないリアスタイルであったりが、EVらしさを物語っているのに気がつく。ボディ下面をのぞき込めば、もしかしたらアルミニウム製アンダーカバーに、空気抵抗を低減するためのディンプルが施されているのが見えるかもしれない。

今回のファーストエディションは、21インチの5スポークスターデザインアルミホイール、オレンジに塗られたブレーキキャリパー、バーチャルエクステリアミラー(同仕様車)を装着している。「アンティグアブルーメタリック」のボディーとの組み合わせが、なかなかカッコいい。

  • アウディ「e-tron」

    価格は1,327万円(バーチャルエクステリアミラー装着車は1,346万円)

ブラックアルカンターラのスポーツシートとマルチファンクションパドルシフト付きレザーステアリングが目を引く運転席に乗り込む。眼前には12.3インチのデジタルメーター、センターコンソールには10.1インチと8.6インチの2つのタッチディスプレイを搭載する「アウディバーチャルコックピット」は、物理スイッチなどが目につかないアウディ上級モデルらしい出来栄えだ。シフトレバー(スイッチ?)はe-tronが初採用となる新形状で、黒いハンドレストに掌を乗せ、親指と人差し指でセレクターを前後させる。

  • アウディ「e-tron」
  • アウディ「e-tron」
  • アウディバーチャルコックピットを備えるインテリア

  • アウディ「e-tron」

    新形状になったシフトレバー

そして、あのバーチャルエクステリアミラーだ。サイドミラーがあるはずの場所にはカメラを装着。後ろの様子は、ピラー根元のフロントドア上部にある7インチの変形OLEDタッチディスプレーで確認する。

乗り出してすぐは、運転席側(右側)後部を確認する際、かなり視線を下に落とさなければ画面が見えないので、ついつい外側のカメラに視線が行き、戸惑ってしまったことを告白する。ま、こういうものは、使っているうちに慣れるものなのだろう。大きく飛び出しているように見えるバーチャルミラー(カメラ)の最外側値は、通常タイプのもの(鏡)を格納した時の値よりも内側にくる(2,071mmに対して2,043mm)ので、手動でしか折りたためない仕様にはなっているものの、そうした機会は少ないはずとのことだ。

  • アウディ「e-tron」
  • アウディ「e-tron」
  • 左がバーチャルミラー(カメラ)、右が映像を確認するモニター

走りについては、通常モードで265kW/561Nmを発生する2基の前後モーターによるクワトロ4WDシステムが、2,560キロに達する重量級ボディーを軽々と押し出してくれ、何もいうことがないくらい素晴らしい。

ドライブモードを「S」に入れ、ETCゲート通過後の前が空いた状態でアクセルを床まで踏みつけると、足裏には一瞬のクリック感が伝わり、ブーストモードに入ったのがわかる。出力は300kW/664Nmまでアップし、「クォーーーン」というモーター音を伴ってe-tronは“ワープ”状態に突入するのだ。ゼロヒャク加速(停止状態から時速100キロまでの加速に要する時間)2秒台のようなスーパーEVには敵わないけれど(e-tronは5.7秒)、「これはスゴイ!」と思わせてくれるダッシュ力はEVならではのもの。車外の騒音を徹底的に遮るアコースティックガラスにより、ロードノイズや風切り音が聞こえないので、未来感をしっかりと味わうことができた。

  • アウディ「e-tron」

    静かで速い! EVらしい走りを見せる「e-tron スポーツバック」

真っ直ぐ走るだけでなく、ワインディングもe-tronの得意科目だ。車重は先に述べたように重いけれども、軽自動車1台分ともいえる699キロのバッテリーを床下に敷き詰めているので重心は低く、前後重量バランスも見事に50:50としている。電気式となったクワトロシステムは、機械式クワトロシステムを極めてきたアウディが目指す前後トルク配分の理想ともいえる反応速度を実現。これらにより、e-tronの回頭性は突出して優れたものになっているのだ。サスペンションは走行状態によって減衰力を1/10秒単位で制御可能な電子式を採用。路面が荒れた和田峠でも不快感を感じさせることなく、質感の高い乗り心地をキープしていたのには驚かされた。

e-tronの航続距離は約400キロ。回生ブレーキは0.3Gまでなら電気モーターのみで効かせられる。物理的ブレーキだとペダルを踏んだときにエネルギーを熱として放出してしまうが、この回生ブレーキは日常走行の90%をカバーできるというから、減速時のエネルギーを効率的に回収してくれるに違いない。走行中にパドルシフトを操作すれば、回生ブレーキの効き具合を2段階で変更できる(オートモード時)。マニュアルモードならコースティングやワンペダル走行(停止まではできない)など、EVならではの走り方を選ぶことが可能だ。

  • アウディ「e-tron」

    充電状況を示すセンターコンソールのディスプレイ「MMI」

日本では2020年に200台の販売を想定しているというe-tron。すでに50台ほどの注文が入っていて、出だしは好調だという。価格は1,300万円超と高価だが、性能に妥協はなく、完成度の高いクルマに仕上がっている。充電環境が整った戸建てに住んでいる方には、とても気になる存在になるはずだ。