「自己実現」には何が必要?

それでは、マーケティング4.0のポイントとなる自己実現には、具体的に何が必要なのでしょうか。マーケティング4.0に必要とされる要素と、成功例を紹介します。

■コトラーのマーケティング4.0に必要とされる「3i」

あふれる情報とソーシャル・メディアの台頭で、世界中の消費者がつながりを持つ現代では、顧客の力はますます強いものになっています。そのためマーケティングはもう一段階進み、消費者の不安や欲求を本質的に理解して消費者の自己実現を達成する手段を提供する必要があります。

消費者の自己実現を達成する手段を提供するために、「3iモデル」の概念があります。3iとはポジショニング・ブランド・差別化の要素で構成される「ブランド・アイデンティティ(brand identity)」「ブランド・イメージ(brand image)」「ブランド・インテグリティ(brand integrity)」の3つの「i」の視点のことで、これら3つの要素をマーケティングにバランスよく取り入れていくことが重要です。

「ブランド・アイデンティティ(brand identity)」は、ブランドを消費者のマインドにしっかりポジショニングすることです。競合に競り勝ち消費者の関心をひくためには、アイデンティティがユニークで確立していることが必要です。

「ブランド・イメージ(brand image)」は、消費者の心をしっかりとつかむことです。ブランドは製品の機能や性能も大切ですが、それ以上に消費者の感情的なニーズや欲求にアピールすることが大切です。たとえばブランドを有する企業が将来のビジョンや環境問題へのアプローチなど独自の価値観を示すことですことで、競合と差別化を図ります。このようなブランドの価値観に消費者は共感し、そのブランドを選ぶことで自己実現欲求を満たすことができるのです。

「ブランド・インテグリティ(brand integrity)」は、ユニークなポジショニングによってブランドの差別化をはかることです。差別化のポイントによって消費者のマインドへ訴えかけ、消費者の自己実現欲求を満たす手段を生み出します。

この3iのモデルはマーケティング3.0で提唱されたものですが、消費者の自己実現をポイントとするマーケティング4.0を実践していくうえで必要不可欠であると言えるでしょう。

コトラーのマーケティング4.0の実践例

それでは消費者の自己実現欲を満たすマーケティング4.0について、成功事例をみてみましょう。

・NIKE

ブランド・アイデンティティ 世界のトップアスリートに製品を試用してもらうことで、消費者に「かっこいい」イメージを醸成
ブランド・イメージ あこがれのアスリートに近づける
ブランド・インテグリティ ランニングアプリ「Nike Run Club」など、共有アプリの提供、SNS共有による動画への出演など

世界中で人気のトップスポーツブランド・NIKE。 NIKEは世界のトップアスリートたちに商品を身につけてもらうことで、消費者に「かっこいい」「間違いない」という価値観を持たせることに成功しています。

トップアスリートと同じ製品を使うことで消費者の自己実現欲求を満たし、その製品を着用して挑んだトレーニングやランニング記録をNike Run ClubなどスタイリッシュなアプリでSNSを介した写真・記録を共有可能にすることで、消費者の承認欲求までをも満たすことを可能にしています。

また「JUST DO IT.SHOTキャンペーン」では、自分が頑張った瞬間を切り取った写真に「JUST DO IT.スタンプ」を押してSNSで拡散することで、共有・投稿された写真の一部がムービーに採用される、消費者参加型のキャンペーンとなりました。

・スターバックス

ブランド・アイデンティティ スターバックス
ブランド・イメージ 上質なサービス・スターバックス体験
ブランド・インテグリティ サードプレイス

広告を使わずに確固たるブランドとして認知度、集客力の高いスターバックス。スターバックスが確固たるブランド地位を確立している理由は、徹底的にこだわった独自のマーケティング戦略によるものです。

スターバックスは「自宅」「会社や学校」以外の「あなたの3つめの場所(サードプレイス)」として、上質なドリンクと接客、心地よい音楽にスタイリッシュなインテリア、Wi-Fiを完備して、消費者にとって「いつでも満足する体験ができる場所」とう印象を植えつけています。

またスターバックスでは、「Our Mission and Value」という行動指針を定めており、従業員一人ひとりがしっかりと遵守することで、顧客が満足する体験を提供しています。満足した消費者がリピーターとなり、別の消費者を誘う。消費者自身が広告塔というマーケティング4.0の理想形を実現しています。

■自己実現は顧客の感動体験にカギ

「自己実現」がポイントのマーケティング4.0では、顧客の自己実現につながる感動体験や驚きの提供、コンテンツの提供がカギになります。

サービスや商品、アプリやコンテンツなどの感動体験や驚きは、消費者の記憶や印象に残り、ファンを獲得します。一度ファンになった消費者は、自分がファンであるだけでなく、周りを巻き込んでポジティブな共感スパイラルを広げていくのです。

  • マーケティング4.0のポイント、「自己実現」には何が必要?

    マーケティング4.0では「ブランド・アイデンティティ(brand identity)」「ブランド・イメージ(brand image)」「ブランド・インテグリティ(brand integrity)」の3iモデルを重視している

コトラーのマーケティング理論を学び実践しよう

マーケティングの本質は「商品やサービスが売れる仕組みを作ること」です。時代に合わせて進化し続けるコトラーのマーケティング理論は押さえておきたいフレームワークにあふれていますが、大切なのは「学んだマーケティング理論を実践すること」です。この記事を参考に、学んだ理論をぜひ実践してみてくださいね。