コロナショックで口座開設者が急増しているという「つみたて投資」。少額から取引が始められ、リスクを分散しながら、長期間保有することで、複利の効果でお金を増やせる……昨今、そんなメリットも浸透してきています。
一方で、限られた収入の中から毎月一定の金額を支出する必要もあり、実際に投資を始めるとなると、なかなか勇気が出ないもの。はじめの一歩を踏み出すために、どのようなことを知っておく必要があるでしょうか。
年収300万円から始める資産形成の方法について、『いちばんカンタン つみたて投資の教科書』を出版された、経済アナリストの森永康平さんに伺いました。
つみたて投資が多くの人に向いている理由
――森永さんは7月に『いちばんカンタン つみたて投資の教科書』を出版されました。なぜ今、「つみたて投資」をテーマにした本を書こうと思われたのでしょうか?
編集者さんから執筆の依頼があったのが、コロナショックで株価が下がっていた2月頃。この頃僕は、日本人の投資に対する考え方が変わってきていると感じていました。
昔だったらこの状況を見て「やっぱり投資は危ない」という反応をする人が多かったと思うのですが、今回は、「急に株価が下がったのだから、これから上がっていくのではないか、今が投資を始めるチャンスではないか」と前向きにとらえる人が多かった。
実際に相場が下がった瞬間から、証券口座の開設数が増えていく状況があったんですね。 ただ、興味を持って口座を開いてみたものの、何をすればいいかわからない、という方が多いのも事実です。そこで投資の手法の中でも王道の、つみたて投資のやり方について、初心者向けに書きましょう、ということになりました。
――さまざまな投資の手法の中でも「つみたて投資」をテーマに選ばれた理由は?
僕もそうなのですが、やはり投資を始めると、株価などの「上がった下がった」が気になってしまいます。そうすると、中には仕事が手につかなくなったり、家庭が回らなくなったり、生活が破綻してしまう人もいるんです。
多くの人が「老後資産を作りたい」「将来のためのお金を作りたい」と未来を良くするために投資をしているはずなのに、投資をした結果、仕事や家庭がうまくいかなくなったら本末転倒ですよね。
その点つみたて投資は、一度設定してしまえば、毎月同じ金額を、同じ商品に、同じタイミングで投資していくだけなので、「上がった下がった」が気になりません。
――メンタル管理のしやすい投資法なんですね
"投資を始めた人あるある"なんですが、相場が下がっているときに怖くなって売ってしまい、気付いたら売ったタイミングが底値だった、というケースもよくあります。
人間はどうしても、特にネガティブなことがあると、将来に対しての不安に過剰に反応してしまいがちなので、「もっと下がるんじゃないか、もっと下がったらどうしよう」と思って売ってしまう傾向にあるんです。
もっと利益が出るかもしれない、と踏んで普段より多く投資してしまう、というケースもまたしかり。こうなると、投資はもはやギャンブルになってしまいます。
経済や企業の業績について調べたり、分析に時間をかけたりすることで、多少なりとも勝てる確率は上がりますが、多くの人にとって優先すべきは自分の仕事や家庭、趣味の時間であるはず。
もちろん、短期間で多くのお金を増やしたい、勉強や分析が好きで時間をかけている、という人にとって、つみたて投資がベストなわけではありません。
しかし多くの人にとって、投資は人生の脇役でしかありません。投資に割く時間を作らなくても、気づいたら運用されているという状況を作ることができるつみたて投資は、メリットが大きいと思います。
まずは収入を上げる努力を、ただし少額から投資を始めて勉強しよう
――「コロナの影響で給料もボーナスも減った」「貯金がゼロ」という方もいると思います。家計が厳しくても、たとえ少額でも、つみたて投資は始めた方がいいのでしょうか?
つみたて投資の複利の効果を考えると、早く始めて長く続ける方がいいのは間違いありません。ただし、無理に始める必要はありません。
例えば、地方から上京して働き始めた新社会人、限られた額の初任給で家賃や生活費を払っていくと、手元に残るお金はほぼないと思います。
当たり前ですが、投資というのは、投資する金額が大きい方がお金は増えます。ですからまず、手元に残ったお金は、自己投資に使って、収入を増やす努力をした方がいいと思います。
ただし、500円とか1,000円程度でいいので、ちょっとだけ投資に回してみたらいいかがでしょうか。
――投資する金額が少なければお金は増えないのに、どうして少額投資を勧められるのですか?
これは、お金を増やすための投資ではなくて、本格的に投資するための、練習としての投資です。
投資は実際にやってみないと分からないことが多いです。本を読んで理論を理解していても、実際目の前で株価が暴落したら、誰だってパニックになって、売るタイミングでなくても売ってしまったりするものです。自分で痛い目を見て初めて、本に書いてあることが理解出来たりします。
少額であっても投資に慣れておけば、自己投資が成功して収入が増えたとき、経験・知識を積み上げた状態で、本格的なつみたて投資に取り組むことができます。
毎月5万円くらい余裕が出たら、投資のはじめどき
――投資を始めるにあたって、家計にはどれくらいの余裕が必要でしょうか?
毎月5万円くらい余裕が出たら、そのうちの1~2万円を投資にまわしてみてはいかがでしょうか。まずは節税もできるつみたてNISAやiDeCoがお勧めです。
つみたてNISAでは、運用で発生した利益が非課税になります。iDeCoはさらに拠出した金額も所得控除の対象となるので、より節税効果が高いです。
――まずは家計の状況を確認することが大事ですね
最近はキャッシュレス化の浸透やネット銀行の普及で、お金の出入りが見えやすくなっています。家計簿アプリと連携できるものも多く、収入・支出の管理はしやすくなっているはずです。
自分がいくら投資すべきかを知るために、今自分にどれくらいのお金が入ってきて、出ていっているのか把握しておきましょう。
それから給料からどれだけ税金が引かれているのか、一度調べてみてもいいかもしれません。税金の具体的な額が見えてくると、どうやって少なくするか、考えるようになります。つみたてNISAのような節税効果の高い制度を利用する意味も実感できるでしょう。
投資で失敗しないために必要なこと
――資産を損失するリスクがネックになって、投資を始められないという方もいらっしゃると思います。つみたて投資で失敗するリスクを減らすために必要なことは何ですか?
とにかく長い期間、続けることです。複利の効果が高くなるのはもちろん、リスクを分散させることができるからです。相場は下がるときもあれば上がるときもある。下がる上がるが交互に起こると仮定すると、長く持っていれば、たとえ下がるが100回あっても、上がるも100回ある。トントンになりますよね。
それから積立額は一定に保つことが大切です。例として挙げると、「ボーナスが出たのでその月だけ積立額を増やす」というのはNG。その場合には、例えば12万円のボーナスを12で割って、1年間、毎月積立額を1万円増やす、というように金額を分散させてください。そうすることで、リスクも分散させることができます。
――一定額を長期間、コツコツ投資し続けることが、リスクを軽減するために必要なんですね
ただ"それが意外と難しい"ということも理解しておくといいと思います。
「30年間積み立てましょう」と口で言うのは簡単ですが、30年もあれば、自分がケガして動けなくなるかもしれないし、宝くじが当たるかもしれないし、何が起こるかわかりません。
つみたて投資は1年で資産が5倍に増えるような類の投資ではないので、続けていて「本当に意味があるのかな?」と馬鹿らしくなってくることもあるかもしれません。欲が出てリスクが高く利益率の高い投資に手を出したくなる可能性もあります。
人間は欲に弱い生き物なので、いくら投資理論が頭の中に入っていても、実践できないことがあります。"継続することは、そんなに簡単ではない"と理解しておくだけでも、投資を続けるうえでのメンタル管理は、しやすくなるのではないでしょうか。
――最後に、つみたて投資をきっかけに他の投資にもチャレンジしたい、という方も増えるかもしれません。投資全般を始めるうえで心がけておきたいこと、大きな失敗をしないために必要なことは何ですか?
僕がいつも提唱しているのが「コアサテライト」という考え方です。コアは中心、サテライトは衛星を意味します。
まずお伝えしたいのは、つみたて投資を続けると一度決めたのであれば、つみたて続けるのが約束です。それは老後までぜひ続けてください。
他の投資にチャレンジしたくなっても、投資に使えるお金のうち、8割はコアとして、引き続きつみたて投資に回しましょう。そして他の投資には、サテライトとして残りの2割を回しましょう。
つみたて投資に慣れて自信がついてきたら、他の投資にチャレンジすること自体は賛成です。でも、つみたて投資を始める目的の多くは「将来のためのお金を作ること」のはず。一獲千金を狙いたくて、投資をはじめたわけではないはずです。
つい欲が出て他の投資にのめり込みそうになったら、初心に立ち返ってみてください。
森永康平
金融教育ベンチャーの株式会社マネネCEO、経済アナリスト。 証券会社や運用会社にてアナリスト、ストラテジストとしてリサーチ業務に従事。その後はインドネシア、台湾、マレーシアなどアジア各国にて法人や新規事業を立ち上げ、各社のCEOおよび取締役を歴任。現在は複数のベンチャー企業のCOOやCFOも兼任している。日本証券アナリスト協会検定会員。著書に『MMTが日本を救う』(新書/宝島社)や、父・森永卓郎との共著『親子ゼニ問答』(新書/KADOKAWA)がある。