小さなクルマに詰め込みすぎ? チーフエンジニアを直撃

このように、あまり突っ込みどころのないヤリス クロスなのだが、作り手はどんな思いを込めたのだろうか。チーフエンジニアを務めたトヨタ自動車 TC製品企画の末沢泰謙さんに話を聞いてみた。

――開発で大変だったのは。

見晴らしの良さを担保できる一方で、重心が高いので、運動性能面でバランスを取るのがSUVの大変なところです。ヤリス クロスは「プリウス」から始まったTNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)の「C」「K」「ラグジュアリー」に続く「B」プラットフォームを使っていますから、これまでに課題をクリアしてきた知見を活用できました。社内で良いサイクルが回っていて、設計、開発の「やり方」「要点」のようなものがうまく伝わり、進化しています。それらを駆使することで、ヤリス クロスを高いレベルに持っていくことができました。苦労というよりも、達成する喜びがあったんです。

――ヤリスとの違いは。

ヤリスとは並行開発していたので、違いを平たくいうと上(ボディ)を変えただけです。パワーユニットも同じなのですが、ヤリス クロスの方が100キロほど重いので、ファイナルのギア比だけは変えています。そのため、燃費は5km/Lほど下がるかもしれません。といっても、ヤリス クロスもハイブリッドの2WDモデルだと30km/Lを超えているんですけどね(笑)

――ライバルの多いジャンルですが、こだわった点は。

SUVなので、一番はバンパーを擦らないこと。林道、砂利道、岩場、雪道などの悪路だけでなく、都会にも急角度の駐車場やコンビニのタイヤ留めなどがありますが、クルマをカッコよくした結果、ボディが地面に当たってしまうのでは意味がありません。

デザイナーはフロントをなるべく高くしたいと考えたのですが、技術者側からは、衝突安全のためアゴを低く前に出し、ヒトにぶつかった際、人の体を上に持ち上げるようにしたいという意見が出ました。上げたいというデザイナーの意見と下げたいという技術者の意見を聞いて、いい塩梅(あんばい)にまとめたのが今の形です。

――ボディーやインテリアの色使いは、かなり渋めですね?

ライバル社にはかなりカラフルな色の用意もありますが、ヤリス クロスは地味な色が多いといわれています。ビビッドな赤や黄色はカタログ映えがするのですが、実際に蓋を開けてみると、そういったカラーを選ぶユーザーは少ないのが現状です。ただ、お客様の意見を伺って、特別仕様などで派手な色を出す可能性はあります。カラーというのは難しいですね。

――トヨタのSUVラインアップはかなり充実しましたが、客の取り合いにはならないのでしょうか。

最初はめちゃめちゃ心配しましたが、今は市場全体がSUVに動いているんです。発売2週間の現状としては、「プリウス」や「アクア」などのセダン、ハッチバックから、しかも、HVの代替えとしてお客様がいらっしゃっています。SUVからではないんです。

いろんなものを積むことができて、普段は行けないようなところまで行って遊べて、ランニングコストもいい。そして値段も手頃。そんな目的を全長4mちょっとのヤリス クロスで達成するのが狙いでした。「デザインと機能を両立しているし、ひょっとしたらこれくらいのサイズが一番なのかも」と思ってもらえたら嬉しいです。