これまで4連敗中の藤井二冠相手に、羽生九段が横歩取りの将棋で寄せ合いを制する
渡辺明王将(名人・棋王)への挑戦権を争う、第70期王将戦挑戦者決定リーグ(主催:スポーツニッポン新聞社・毎日新聞社)。その開幕戦の▲藤井聡太二冠-△羽生善治九段戦が9月22日に東京・将棋会館で行われました。結果は80手で羽生九段の勝利。第65期以来の挑戦へ向けて好発進です。
後手番の羽生九段は横歩取りを採用します。「横歩取りは先手の青野流が強力すぎて、絶滅危惧種」というのはもはや古い話。近年は後手の対策が進化し、青野流に対しても互角に戦えるようになっています。また、通算成績が8割を優に超える藤井二冠ですが、唯一苦戦している戦型が横歩取り。これまで4勝6敗でなんと負け越しています。「事前に考えていた作戦だった」と羽生九段。藤井二冠の弱点(?)を突いていきました。
飛車を切って角を入手した藤井二冠は、角を左右両にらみの5六に打ち据えます。この角が安定してしまうと抑え込まれてしまう羽生九段は、歩をじりじりと伸ばしていき、角に圧力をかけていきます。その間に藤井二冠は9筋の端攻めを間に合わせ、香を手にしました。
金が上ずっていて、堅いとは言えない後手陣に対し、整然と金銀が並んでいる先手陣。手に入れた香を2筋に打つ厳しい攻めもあり、先手が良いのではないかと思われた局面で、羽生九段が妙手を放ちます。それが相手陣の連携を乱す△4八歩。寸分の隙もないように見えた先手陣が、この金取りの一歩によって突然弱体化しました。
歩を玉で取れば上からの攻めが、金で取れば飛車による下からの攻めが厳しくなります。藤井二冠は29分の持ち時間のうち7分を使って金で取る手を選択。ならばと羽生九段は下段からの攻めを目指すべく、△8六飛と飛車を活用します。
藤井二冠は残り時間の半分以上を用いて攻め合いの方針を採りました。金取りに▲2九香と打ち、羽生玉に迫ります。羽生九段もここで長考。47分の考慮の末、△8九飛成と飛車を成り込みました。ここからは両者ノーガードの攻め合い。一目散に相手玉へと駒を進めていきます。
剣先が先に相手に届いたのは、羽生九段でした。66手目、△7九竜でついに藤井玉に詰めろがかかります。藤井二冠は▲3四角と飛び出し、羽生玉に詰めろをかけました。これが詰めろ逃れの詰めろになっていれば藤井二冠の勝利ですが……。
8分の考慮で羽生九段が選んだのは、まるで詰将棋の一手のような△5九竜でした。王手をかける手は無数にある中、あえて玉に取られてしまうところに竜を移動して王手をかけるこの手が決め手。これで藤井玉は詰み筋に入っています。以下藤井二冠はしばらく手を進めた後、80手目を見て投了を告げました。羽生九段は公式戦5戦目で藤井二冠に初勝利です。
王将リーグは7人の棋士による総当たり戦で行われます。初戦を制した羽生九段は「リーグ戦は始まったばかりなので、これからだと思っています」と、久しぶりの挑戦へ向けて緩みはありません。
一方、敗れた藤井二冠は「厳しいスタートになりましたが、またいい状態で次の対局に臨めるようにしたい」とコメント。次戦の相手は豊島将之竜王(叡王)です。これまで5戦して全敗の難敵ですが、挑戦争いから脱落しないためにも、負けるわけにはいきません。