ヤマハ発動機は8月24日、「トリシティ125」「トリシティ155」「ナイケン」に続くLMW(リーニング・マルチ・ホイール、3輪以上のバイク)シリーズの第4弾「トリシティ300 ABS」を発表した。停車時の自立をサポートするヤマハ市販車初の新機構など、今回明らかになった最新モデルの注目ポイントをリポートする。

  • ヤマハ「トリシティ300 ABS」

    「トリシティ300 ABS」の発売日は9月30日。販売価格は95万7,000円(税込)とちょっとお高め?

車体の自立をサポートするヤマハ初の新機構

“転ばないバイク”の実現を目指すヤマハが、2014年にLMW第1弾として世界販売を開始したトリシティ125。LMWとは、モーターサイクルのように車輪および車体全体が傾斜して旋回する3輪以上の乗り物のことで、ヤマハはその後、トリシティ155(2017年)、ナイケン(2018年)とラインアップを拡充。昨年の販売実績(世界)は、トリシティ125/155が5,600台、ナイケンが1,500台となっている。

  • ヤマハ「トリシティ300 ABS」
  • ヤマハ「トリシティ300 ABS」
  • ヤマハ「トリシティ300 ABS」
  • カラーバリエーションは全3種類。左からブルーイッシュグレーソリッド4、マットグレーメタリック6、マットダークグレーメタリックA

今回、新たにLMWシリーズに加わるトリシティ300 ABSで他車と大きく異なっているのが、「スタンディングアシスト」機能を備えていること。これは、LMWの基本機構の1つである「パラレログラムリンク」の上部に取り付けた「スタンディングアシストディスク」を電動キャリパーでロックし、車両の自立をサポートするという仕組みだ。

作動条件は、スロットルが全閉状態、車速10km/h以下、エンジン回転数2,000r/min以下の3つで、全ての条件を満たした状態でライダーが「スタンディングアシストスイッチ」をオンにすると作動する。あくまでも自立をサポートする機能であるため立ちごけの可能性はゼロではないが、ヤマハによれば作動時は車体を軽く支えるだけで停車状態をキープできるという。

また、ロックされるのは車体が傾く機構のみで、サスペンションの伸縮機能は維持している。そのため、信号待ちなどの停車時の他、段差の乗り越えや狭い場所での切り返しなど、車体バランスが取りづらいシーンでの扱いやすさも高まるとしている。

トリシティ「250」ではなく「300」にした理由とは?

トリシティ300 ABSのプロジェクトリーダーを務めた浅野大輔氏は、「ナイケンで熟成された技術を応用することで、トリシティシリーズの上位モデルにふさわしい進化を遂げた」と解説した。

  • ヤマハ「トリシティ300 ABS」のプロジェクトリーダー・浅野さん

    「トリシティ300 ABS」を通じて「ヤマハが目指すLMWの広がりと進化を多くの皆様に体感していただけることを楽しみにしています」と語った浅野氏

その技術が「LMWアッカーマン・ジオメトリ」と呼ばれるもの。操舵軸とリーン軸をセットにする独自設計で、大型スポーツLMWであるナイケンにおいても、バンク時に前後左右輪が同心円を描くスムーズな旋回に寄与してきた。今回は、この技術をトリシティ300 ABS用に専用設計。フロントサスペンション周りとバランスを最適化したことで、自然なハンドリングや快適な乗り心地に貢献するそうだ。

  • ヤマハ「トリシティ300 ABS」

    一般的なアッカーマン・ジオメトリとは異なり、内外輪差が生まれるフロント2輪が常に同じ方向を向くLMWアッカーマン・ジオメトリを採用

搭載する水冷4ストロークSOHC4バルブ・292ccのブルーコアエンジンは、欧州向けスポーツスクーター「XMAX300」をベースに燃費やトルク特性を改良したものだが、ヤマハは日本向けに「XMAX250」を販売している。であれば、こちらをベースに“トリシティ250”を作った方が維持費の面でも良さそうに思える。それでも300にした理由については、「LMWにすることで車格が大きくなり、(XMAX250と比べて)車重が約50キロ増えている。その中で、LMWコミューターとして最適なパッケージが300だった」(浅野氏)と答えている。

  • ヤマハ「トリシティ300 ABS」

    シート下にはフルフェイスヘルメット2個を同時に収納できる約45Lの収納スペースを確保

100万円近い価格となるトリシティ300 ABSを市場がどのように受けとるのか、またLMWシリーズの販売に拍車がかかるのか、注目したい。