ヤマハ発動機は8月24日、「トリシティ125」「トリシティ155」「ナイケン」に続くLMW(リーニング・マルチ・ホイール、3輪以上のバイク)シリーズの第4弾「トリシティ300 ABS」を発表した。停車時の自立をサポートするヤマハ市販車初の新機構など、今回明らかになった最新モデルの注目ポイントをリポートする。
車体の自立をサポートするヤマハ初の新機構
“転ばないバイク”の実現を目指すヤマハが、2014年にLMW第1弾として世界販売を開始したトリシティ125。LMWとは、モーターサイクルのように車輪および車体全体が傾斜して旋回する3輪以上の乗り物のことで、ヤマハはその後、トリシティ155(2017年)、ナイケン(2018年)とラインアップを拡充。昨年の販売実績(世界)は、トリシティ125/155が5,600台、ナイケンが1,500台となっている。
今回、新たにLMWシリーズに加わるトリシティ300 ABSで他車と大きく異なっているのが、「スタンディングアシスト」機能を備えていること。これは、LMWの基本機構の1つである「パラレログラムリンク」の上部に取り付けた「スタンディングアシストディスク」を電動キャリパーでロックし、車両の自立をサポートするという仕組みだ。
作動条件は、スロットルが全閉状態、車速10km/h以下、エンジン回転数2,000r/min以下の3つで、全ての条件を満たした状態でライダーが「スタンディングアシストスイッチ」をオンにすると作動する。あくまでも自立をサポートする機能であるため立ちごけの可能性はゼロではないが、ヤマハによれば作動時は車体を軽く支えるだけで停車状態をキープできるという。
また、ロックされるのは車体が傾く機構のみで、サスペンションの伸縮機能は維持している。そのため、信号待ちなどの停車時の他、段差の乗り越えや狭い場所での切り返しなど、車体バランスが取りづらいシーンでの扱いやすさも高まるとしている。
トリシティ「250」ではなく「300」にした理由とは?
トリシティ300 ABSのプロジェクトリーダーを務めた浅野大輔氏は、「ナイケンで熟成された技術を応用することで、トリシティシリーズの上位モデルにふさわしい進化を遂げた」と解説した。
その技術が「LMWアッカーマン・ジオメトリ」と呼ばれるもの。操舵軸とリーン軸をセットにする独自設計で、大型スポーツLMWであるナイケンにおいても、バンク時に前後左右輪が同心円を描くスムーズな旋回に寄与してきた。今回は、この技術をトリシティ300 ABS用に専用設計。フロントサスペンション周りとバランスを最適化したことで、自然なハンドリングや快適な乗り心地に貢献するそうだ。
搭載する水冷4ストロークSOHC4バルブ・292ccのブルーコアエンジンは、欧州向けスポーツスクーター「XMAX300」をベースに燃費やトルク特性を改良したものだが、ヤマハは日本向けに「XMAX250」を販売している。であれば、こちらをベースに“トリシティ250”を作った方が維持費の面でも良さそうに思える。それでも300にした理由については、「LMWにすることで車格が大きくなり、(XMAX250と比べて)車重が約50キロ増えている。その中で、LMWコミューターとして最適なパッケージが300だった」(浅野氏)と答えている。
100万円近い価格となるトリシティ300 ABSを市場がどのように受けとるのか、またLMWシリーズの販売に拍車がかかるのか、注目したい。