顧客満足度(CS)調査や消費者動向に関するリサーチ・コンサルティング会社であるJ.D. パワー ジャパンはこのほど、新型コロナウイルスと旅行意向に関する調査を実施、結果を発表した。

5月25日に緊急事態宣言が解除され、6月19日には全国的に都道府県をまたいだ移動自粛要請の解除も予定されている。このような中、同社では、過去1年間に旅行に行った消費者を対象に、旅行に対する意向や考えを調査した。

調査期間は2020年6月5日〜6月8日。過去1年間にビジネス又はプライベート目的で1泊以上の旅行をしたことのある日本居住者1,909名を対象に、インターネット調査にて実施した。また、同社では4月にアメリカでも同様の調査を実施しており、2カ国間の消費者のギャップについても紹介している。

  • 新型コロナウイルスと旅行意向に関する調査を実施

今後6カ月以内での旅行予定の割合は、プライベート目的、ビジネス目的を合わせて58%となり、半数以上が旅行を予定をしている。この割合をアメリカと比較すると、日本人が若干低く、旅行に対してやや消極的な様子がうかがえる。

  • 今後6カ月以内に仕事もしくはプライベート目的で宿泊を伴う旅行をする予定はありますか

旅行をするつもりがない理由は「新型コロナウイルスの感染が心配」が68%とトップ。次いで「感染拡大に伴う移動や出入国制限が改善するとは思わない」が52%と続く。国内では緊急事態宣言が解除されても、新型コロナウイルスの影響が旅行意欲に大きく影を落としている。

  • 今後6カ月以内に旅行をするつもりがないのはなぜですか

一方、「旅行をする経済的余裕がない」については18%にとどまり、アメリカの41%を大幅に下回っている。感染に対する不安が軽減されれば、旅行需要が戻ることが期待される。

今後、6カ月以内の旅行を予定している層に、旅行中の自身の新型コロナウイルスへの感染をどの程度心配しているか尋ねたところ、半数以上が心配しているという結果となった。これはアメリカの割合を20ポイントと大きく上回る結果となっている。

  • 今後6カ月以内に予定している旅行中に、新型コロナウイルスに感染することをどの程度心配していますか

ビジネス旅行者、プライベート旅行者を比較すると、アメリカと同様にビジネス旅行者の方が心配している割合はやや高くなっているが、アメリカほどの差は見られない。旅行予定のある人であっても、新型コロナウイルスへの感染に対する不安が高いことがわかった。

移動自粛要請や渡航制限が解除された後、どのようなタイプの旅行であればしてみたいかを尋ねた。最も多かったのは「車での近場への旅行」の50%となり、移動手段としては鉄道や飛行機よりも、他人との接触が少ない「車」から回復していくと言える。

  • 全国での移動自粛要請や渡航制限が解除されたら、どのような旅行なら行ってみたいと思いますか

「飛行機での国内旅行」は30%となっているが、「飛行機での海外旅行」は17%にとどまり、飛行機を利用した、特に海外への渡航の意向回復には時間がかかりそうなことを示唆している。宿泊施設タイプに着目すると「ホテル」が48%と最も多く、「旅館」が35%と続き、「民泊」は3%にとどまった。

アメリカと比較をすると、鉄道利用の旅行を除き日本は全般的に今後の旅行意欲が低い割合にとどまり、新型コロナウイルスに対して、アメリカ以上に慎重な姿勢が結果に反映していることが考えられる。なお、車での旅行意向の違いは自動車の保有台数の差を始め、自動車の利用状況の違いに起因していると考えられる(1,000人あたりの自動車保有台数:アメリカ 804台、日本 609台 出典:総務省『世界の統計2020』)。

移動自粛要請や渡航制限が解除された後、してみたい旅行の移動手段に関しても尋ねた。「自動車」を利用したい割合が75%と最も高く、中でも「自家用車」が65%と全体の2/3を占めている。一方、公共交通機関である「鉄道」は47%、「飛行機」は40%となった。鉄道の中では、遠距離移動に適した「新幹線・特急列車」が43%となっており、公共交通機関での遠方への移動に抵抗のない層も一定割合存在していると言える。

  • 今後してみたい旅行で回答いただいた旅行の往復や旅行中に、どのような移動手段を利用したいと思いますか

なお、「レンタカー」は、全体では18%にとどまったが、今後してみたい旅行のタイプ別に見ると少し様子が違っている。「飛行機での国内旅行」「滞在型リゾートホテルへの旅行」に行ってみたい人のうちの31%、「鉄道での遠くへの旅行」に行ってみたい人では28%が、移動手段としてレンタカーをあげている。目的地まで公共の交通手段で移動した後の足としてのレンタカーは、一定の需要があると考えてよいだろう。

今後6カ月間にホテルの宿泊や利用をしたい目的について尋ねた。根強い人気があるのは、「周辺観光の拠点としての宿泊」で63%となった。自粛中にはなかなか行けなかった場所を訪れたり、美しい風景で外出自粛疲れを癒したいという気持ちの表れとみて取れる。その一方で、ホテルでの「保養目的での宿泊」も51%となり、人込みを避けながらゆっくり過ごしたいという気持ちの表れと考えられる。

  • 今後6カ月間に次のような目的でホテルの宿泊や利用をしたいと思いますか

また「地元や近場での宿泊」を望む割合は35%となった。インバウンドや長距離移動を伴う旅行の低迷が大きく、旅行需要が新型コロナウイルス感染拡大の前の水準まで回復するには時間を要すことが予想されることから、旅行業界では地元や近場から需要回復を目指す動きが見られている。今後の旅行需要喚起に向けた各事業者や自治体の取り組みが期待される。

また、ビジネスパーソンに対して、ビジネス目的でホテルを利用したいか尋ねたところ、新型コロナウイルス感染拡大を機に急速に広まったテレワークでの利用(20%)よりも、馴染みが薄いと思われた「ワーケーション(Work=仕事とVacation=休暇を組み合わせた造語で、地方やリゾート地などでテレワークで働きながら休暇を取る仕組み)」での利用(25%)が高く、注目すべきポイントとなった。

  • 今後6カ月間に次のようなビジネス目的でホテルの宿泊や利用をしたいと思いますか

特に若い世代での意向が高く20代、30代では29%となっている。多くのビジネスパーソンがテレワークを経験したことにより、場所を問わず仕事が出来るメリットを実感し、新しい働き方と休暇の過ごし方に対する意識の変化が表れてきていると考えられる。