お口のトラブルの代表例の一つに口臭があげられる。接客などのサービス業や外回りがメインの営業など、他人に会う仕事をしている人にとっては口臭は致命的と言えよう。口臭の原因には「自浄作用がある唾液量の減少」や「舌苔の発生」などがあるが、親知らずもその原因となりうることをご存じだろうか。
一体、なぜ親知らずが口臭を引き起こしてしまうのか。中村歯科医院の院長で小倉歯科医師会の理事でもある中村貢治医師にうかがった。
親知らずが口臭を招く理由
親知らずが原因となる口臭を理解するため、まずは親知らずの構造を正しく把握しておこう。
親知らずは、口腔内の最も奥に生える歯を指す。上下左右に4本生えることが可能だが、その本数は人によって異なり、中には全く生えない(親知らずが0本)という人もいる。この「一番奥に生えている」という点が、実は口臭と密接に関わってくる。
大人の歯の最後に生えてくる親知らずには、歯が生えてくるためのスペースが十分に与えられてない。そのため、歯が真っすぐに生えることができず、斜め、あるいは横向きに生えてくるケースがある。このような場合、口臭が起きやすいのだ。
「親知らずが横方向や斜め方向に生えている場合、奥歯との間に隙間ができやすく、そこに食物残渣(ざんさ)がたまるため、口臭を発生する原因となることがあります」
真っすぐの歯が隣り合っていれば隙間はできにくいが、片方の歯が横向きや斜め向きになっていれば隙間が生じ、その間に食事の際の食べカスなどがたまりやすくなる。これら食べ物のカスなどに含まれるたんぱく質が、口腔内に棲息する細菌により分解・発酵される過程で口臭が生じるというメカニズムだ。
また、歯並びが不規則になると、歯磨きの効果が十分に得られにくくなるというデメリットもある。この点も食物残渣を増大させる要素となり、場合によっては炎症を招く。この状態を「智歯周囲炎(ちししゅういえん)」と呼び、放置しておくと細菌が増え続けてやはり口臭を引き起こしてしまう。
親知らずを抜歯しても口臭が出る理由
斜めに生えてくるような親知らずは歯並びに影響を与えるため、無用なトラブルを招く前に抜歯をしてしまうケースも少なくない。抜歯によって親知らずと手前の奥歯の間の隙間がなくなり、歯を磨きやすくなるため口臭は低減しそうだが、逆に口臭がひどくなる可能性もあると中村医師は話す。
「親知らずを抜いた後の穴(抜歯窩)に食べカスなどが入り、それが原因で口臭が発生することがあります」
あるいは、抜歯後における傷が臭いを発しているケースもあるという。そのような場合は傷が治癒する過程で口臭も消失していくが、気にしすぎて歯磨きやうがいを熱心にしすぎると、抜歯した後の穴が塞がらずに骨が露出してしまう「ドライソケット」につながってしまうという。どうしても気になるようならば、歯科医院で対応してもらうのが賢明だろう。
親知らずによる口臭への対策
上述のように、親知らずが原因となる口臭には以下のようなパターンがある。
(1)親知らずが不規則な方向に生えることで歯と歯の間に隙間が生じ、そこに食べカスなどがたまり、口臭が発生する
(2)親知らずを抜歯した後の穴に食べカスなどがたまり、口臭が発生する
(1)と(2)のいずれも、結局は食物残渣がたまることで口臭が発生するというわけだ。では、どのように対処すればいいのだろうか。
「(1)の場合は、洗口剤を用いた歯磨きで奥の歯を丁寧にブラッシングすれば口臭を予防できるでしょう。(2)の場合は抜歯後にうがいをしすぎないことが重要です。抜歯は出血を伴いますが、その血を放置しておくと血の塊である「血餅(けっぺい)」ができます。血餅を保つことが口臭予防につながりますが、うがいをしすぎると血餅が取れてしまう恐れが出てくるので、うがいのしすぎには注意しましょう」
歯磨きやマウスウォッシュなど、普段からオーラルケアをしっかりとしているにもかかわらず、口臭が気になるという人は、原因が親知らずにあるかもしれない。対症療法ではなく、根本的な解決策を望むのであれば、きちんと医療機関で受診するようにしよう。