「肩こりや腰痛が慢性化」「ねこ背、反り腰などの姿勢に悩む」「スポーツのパフォーマンスが上がらない」という人は少なくない。改善しない理由の一つはその人が肩甲骨の使い方を知らないことにあるのかもしれない。
これまでは一般に「肩甲骨を寄せて胸を張って歩くように」と学校の体育でも指導されることが多かった。これに対して柴雅仁先生は、「肩甲骨は開いて使え」と指導する。そこにどういう利点があるのか。今回は肩甲骨を寄せないトレーニング法の概要をお伝えする。
体幹や筋肉の構造を知るアスリートは、肩甲骨を寄せない
Q:そもそも肩甲骨にはどういう役割があるのでしょうか?
A: 肩甲骨は肩の背中側に一対あって、肋骨を覆っている三角形状をした大型の骨のことです。肩の関節が十分に機能を発揮するにはこの肩甲骨が機能的に働くことが必要不可欠です。一般的には、ウォーキングの指導で「肩甲骨を寄せて胸を張って歩くように」と言われるように、肩甲骨を寄せて胸を張るという考え方が普及しています。
でも、体幹や筋肉の構造をわかっているアスリートの多くは、肩甲骨を寄せません。なぜなら胸を張る姿勢自体が、腰や背中の筋肉を縮めて固めてしまうからです。そうすると、肩甲骨の動きも悪くなるし、背骨の動きも悪くなり、その結果、パフォーマンスが下がってしまいます。
Q:確かに、瞬間的には気持ちがいいけれども、長続きはしません。
A:胸を張る、肩甲骨を寄せるという状態を長く維持できる人はなかなかいません。筋肉の有無に関わらず、そもそも不自然な姿勢だからです。ヨガでは背骨を伸ばすとき、肩甲骨を寄せると確かに胸部はよく伸びますが、これを続けると首や腰がつらくなります。実際はむしろ、もっとミゾオチを丸めて肩を落とし、少しゆるやかに丸く見える姿勢が、一番力が抜けている状態です。
体軸理論に基づいた「いい姿勢」の基準とは?
Q:その丸く見える姿勢は「ねこ背」とはどう違うのでしょう?
A:私は、体軸コンディショニングスクール*の出身で、体軸理論に基づくトレーニングを指導しています。このスクールにはいい姿勢の基準があって、出身者はそれを共有しています。簡単にいうと、頭頂部から背骨の真ん前を通り、お尻の穴のちょっと前くらいから膝裏を通って内くるぶしの真下につづくラインがあって、その軸上に立っているのがいい姿勢です。それよりも丸まっていれば、猫背と呼ぶし、それより反っていたら反り腰と言います。
*施術、スポーツ、仕事…すべてのパフォーマンスを向上させたい方のために、体軸理論の情報を提供している東京都中央区銀座にあるスクール
Q:ねこ背でも反り腰でもない姿勢が、いい姿勢の基準ということですか?
A:一般的にいうねこ背や反り腰には基準がなく、あくまでも見た目のイメージに過ぎません。私たちの基準でいえば、ちょっと丸まっている状態が自然の状態です。背骨の構造自体もS字カーブですから、丸まっていても問題ありません。一番力が抜けていてラクな姿勢が、その人にとってのいい姿勢です。
インナーマッスルの働きを高める「前鋸筋(ぜんきょきん)」
Q:肩甲骨を開くトレーニングで恩恵を受けるのはどういう人たちでしょう?
A:スポーツやっている人もやっていない人も、普通に仕事しているだけの人も、主婦の方も、全員に当てはまります。もちろん、スポーツのパフォーマンスを高めたい、肩こりや腰痛を解消したいということにもつながります。それと、ただ肩甲骨を寄せないだけでなく、わきの「前鋸筋」をきちんと使っていることが大事で、肩甲骨と前鋸筋が一体となって使えている状態が理想です。
Q:「前鋸筋」という名の筋肉を初めて聞きましたが…。
A:あまり知られていない地味な筋肉ですが、肩を動かすために欠かせないインナーマッスル*で、専門家の間では重要視されています。肩甲骨を動かしたり、肩を下げるなど、肩の可動に重要な役割を果たし、なおかつ体幹の各部分ともつながって影響を及ぼし合います。
インナーマッスルの働きを高めるためには、前鋸筋が使えることがポイント。だから、肩甲骨を寄せずに開くというのは、すなわち前鋸筋を機能させるためのトレーニングに他なりません。 *身体の表面に位置しているアウターマッスル(表層筋)に対して、身体の奥(深層部)に位置している筋肉の総称として用いられる。
Q:前鋸筋を鍛えることがねこ背や反り腰の解消にもつながるのですか?
A:人の胴体には体を動かすアウターマッスルと、体を支えるインナーマッスルが存在し、そのふたつがバランスよく働き、連動することで、姿勢を保ち、力を手足に伝える役目を果たしています。前鋸筋が機能するようになると、体全体をつなぐ「スパイラルライン」と呼ばれる筋連鎖が起き、体を機能的に動かすことができるようになります。結果的にこれが筋肉のバランスを保ち、ねこ背や反り腰の解消にもつながっていきます。
■反り腰改善!自宅・オフィスでできるワンポイントレッスン■
1.ひざ立ちになり右ひざを立てる
2.左手の指先でお尻のクロスポイント(筋肉の交差するポイント/ここでは座骨)を触る
3.右足に体重をかけて胸を伸ばす。そのまま3回深呼吸をする。これを左右で行う。
*写真/山上忠、イラスト/中川原透
監修/体軸コンディショニング協会