制度面、IT面だけを考えずにマネジメント層は“現場”を知るべき

松本氏によると、家族間のコミュニケーションについて尋ねるとリビングなどで2~3時間も会話している家庭は多くない代わりにLINEを用いており、しかも同期コミュニケーションではなく、家族の誰かが書き込んだとしても、すぐに返信せずに時間が経過してから対応する非同期コミュニケーションだという。

そのような観点からすると、社内でも同様の使い方ができるのではないかと同氏は述べている。しかし「オフィスワークだからチャットツールを使うと失礼になる」「コミュニケーションとして礼儀正しくない」といった固定観念に縛られているため、企業ではメールが活用される傾向にあるとしている。

「メールが正しいコミュニケーションの仕方だと思っていることから、若い人からすれば全く歩み寄ってくれないツールをいまだに使っていると考えています。マネジメント層が気にせずに舵さえ切ればいいと思います」と、松本氏は上司・部下間におけるツールに対する認識の齟齬を指摘する。

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、仕事のやり方を変えなければいけないとなった時点でマネジメント層の歩み寄りは非常に重要なものだという。これまでオンラインに慣れ親しんできた人たちは若い世代=デジタルネイティブ世代であるため、若い人にどのようにしたらコミュニケーションが円滑に進むのかということを聞くのも手段だという。

同氏は「いろいろな会社の相談内容をみると、テレワーク自体を進めたいが、制度面、IT面の課題に加え、そもそもどのようにやればよいのかという質問が多いですね。意外とITの大手企業からも相談されます。働き方のなにが難しいかと言えば、現場の人たちがどのような働き方をしているのかということを把握せずに制度面やIT面だけに絞って考えているように感じます」と、マネジメント層の現場への理解が不足している点に懸念を示していた。

例えば、会社のイントラにアクセスするために、営業担当者が顧客の前でVPNを用いて業務に取り組むことは違和感があり、それと同様にテレワークの際に在宅も含めてイントラと同一環境でなければいけないから、全従業員の自宅にVPNでイントラを構築することが本当に正しいのかどうかを再考すべきだという。そうすれば、VPNのキャパシティ不足の解消やBoxなどツールの活用により、社員間の情報共有や共有した情報を提案につなげることも可能になるものの、企業として許容できる否かは重要なポイントだとしている。

松本氏は「テレワークに移行した時点で上司・部下など、それぞれの関係性の距離感をいま一度整理した方がいいかもしれません。雑談がしやすいというのは対等な関係であり、オンラインがメインになると先輩であるという意識をわざわざ持たせないように、コミュニケーションに誘導をかけていくことが重要になってきます。そうしないと、相談をしづらくなります。ただ、これはオフィスにいるときからやるべきことです」と話す。

同氏によると、今後テレワークに切り替えられるか否かが、将来的な企業としての道筋になることから、ここでうまく移行できれば従来から取り組んできたことの良し悪しが判断できるため、出社させることにこだわった企業とテレワークを導入した企業では平時に戻れば、いわゆる“失われた30年”のギャップが生じてくるのではないかという。

そして、同氏は中国を引き合いに出し「現在、中国のホワイトカラーは約4億人いますが、今回の新型コロナウイルスの感染拡大に伴い約2億5000万人がテレワークに切り替え、部分的な在宅勤務も含めると8割超がテレワークに移行しています。一方で、日本は30%未満です。中国は約2カ月に及ぶ外出規制により、ここまでテレワークが浸透しているのです。今後、スピード感や無駄を省いた仕事で、どんどん日本の先に行くものと考えられることから、日本も追従するためにはテレワークを浸透させる必要があるのです。これまで通りの満員電車に乗る出勤スタイルを継続するならば、差が生まれ、淘汰されていく気がします。企業が変われるチャンスであり、変化できないのであれば厳しい局面を迎えると思います。変化できない企業にしがみつくのか、それとも変化していく企業どちらを選ぶのか、だからこそ今回はテレワークを浸透させるためのチャンスなのです」と力を込めていた。

テレワーク浸透のためにはセキュリティの見直しは必須

このように、日本においてはテレワークの浸透を早急に進める必要があるものの、企業においてはセキュリティに対する懸念も依然として根強い。この点について松本氏は以下のように説明する。

「企業のセキュリティポリシーも見直すべきだと思います。個人情報と会社の情報を同一のレベルで扱っているため、企業はVPNを用いたイントラの中で業務に取り組んでもらいたいと考えています。これは、現場で使う情報などのセキュリティレベルを把握していないため、最下層からガードしているからです。自宅にイントラを構築することは限界があるため、コンプライアンス上である程度レベル感を示して、レベルが低いものについてはクラウドに移行してもよいのではないかと感じています」(松本氏)

これにより、仕事がスムーズにでき、イントラも圧迫しないようになり、古い基幹システムに残る個人情報などはアクセスする社員だけVPNを使えば、企業としてもテレワークへの投資を抑制できることから、セキュリティポリシーを見直す機会だという。

そのため、社内で利用するツールの選択はセキュリティの必要性に合わせて、使い分けることが今回のテレワークにおけるIT投資の正しい姿であり、現状のITインフラのままで取り組もうとすれば、すべて破綻してしまう恐れがある。見直せる会社は成長が望めるだろうし、これまでと同じ働き方に縛られるようであれば、うまくテレワークできずに今後厳しい状態になる、と指摘している。

最後に松本氏は「仕事のスタイルに型はなく、仕事を変えていければいいと感じています。会社では不可能と思わずに、各個人が仕事のスタイルとして“あり”なんだと考え、効率性を追求していけばテレワークだろうが、ワーケーションだろうが、変わっていきます。変化を恐れずに受け入れて楽しみつつ、自分のスタイルを考え、会社に落とし込むために試行錯誤してほしいです。それぞれの課題、会社をまたいで色々な問題を考えて解決していくことが必要だと思います」と、強調していた。