2017年5月に改正された民法(債権法)が、2020年4月1日からいよいよ施行されました。これまで問題になりがちだった賃貸住宅の退去時の敷金の返還や原状回復義務の範囲が規定され、アパートなどの賃貸借に関するルールが明確になったのです。適用されるのは2020年4月以降、新たに契約する物件の場合ですが、今後、賃貸住宅を借りたり契約を更新したりする際に備えて、内容を知っておきましょう。

  • 賃貸住宅の退去時の敷金の返還や原状回復義務の範囲が明確になりました(写真:マイナビニュース)

経年変化については原状回復義務がないことが明記された

1896年(明治29年)以降、約120年にわたってほとんど改正されていなかった、民法の賃貸契約を含む債権関係の新規定が2020年4月1日に施行されました。主なものをまとめたのが下図です。現代社会に通用するようルールを明文化するなど、賃貸人と賃借人の間でトラブルになりやすかった点がクリアになりました。

中でも注目されているのが、敷金と原状回復義務。アパートやマンションなどの賃貸物件を借りる際、大家(賃貸人)へ敷金を預けるというのは多く見られる商習慣。敷金は家賃の滞納に備えて預ける保証金のようなものですから、賃借人は退去時には返還されるものと考えます。ところが、原状回復費用と称して戻ってこないことも多く、PIO-NET(全国消費生活情報ネットワークシステム)へは、賃貸住宅の敷金・原状回復トラブルについて毎年1万3000件前後の相談が寄せられているのです。

改正された民法では、賃借人はアパートやマンションを借りた後に生じた損傷について原状回復義務を負いますが、通常損耗や経年変化については原状回復義務を負わないことが明記されました。具体的な内容を見ていきましょう。

通常損耗、経年変化にあたる例

  • 家具の設置による床やカーペットのへこみ、設置跡
  • テレビ、冷蔵庫などの後部壁面の黒ずみ(電気ヤケ)
  • 地震で破損したガラス
  • 鍵の取り替え(破損、鍵紛失のない場合)

通常損耗、経年変化にあたらない例

  • 引っ越し作業で生じたひっかきキズ
  • 日常の不適切な手入れ、もしくは用法違反による設備などの毀損
  • タバコのヤニ、臭い
  • 飼育ペットによる柱などのキズ、臭い

このように具体例を挙げていますから、今後はトラブルになりにくくなるはずです。

敷金については、「返還時期=賃貸借契約が終了して賃借物が返還された時点」と「返還額=敷金額-金銭債務(未払いの賃料、原状回復費用など)」が明確になりました。

設備に不具合が生じたら、家賃を減額してもらえる

今回の改正でこれまであいまいだったものが明確になったことに、もうひとつ、設備の不具合があった際の家賃の減額があります。

設備が故障して使えなくなった場合、改正前の民法でも「賃料の減額を請求することができる」という規定がありました。今回の改正では「使用および収益ができなくなった部分の割合に応じて賃料は減額される」という強い表現になりました。民法ではいくら減額できるのかということまでは踏み込んでいませんが、日本賃貸住宅管理協会がガイドライン(下図)を公表しているので、これがひとつの目安になります。

ほかにも、これまではエアコンが壊れた、雨漏りがするといった賃借物にトラブルが発生し、修繕が必要なのに賃貸人が対応してくれない場合も、賃借物はあくまで賃貸人の物なので、賃借人は一切自分で修繕することができませんでした。これも賃貸人が相当の期間内に対応してくれないときや、急迫の事情があるときは賃借人が修繕をしても賃貸人から責任を追及されることはないことが規定されました。

改正内容が適用されるのは施行日以降の契約のみ

賃借人にとってはルールが明確になった喜ばしい改正なのですが、残念ながら継続中の契約については適用されません。適用を受けるためには次回の契約更新の際、改正後の新しい民法が適用された契約書で合意することが必要です。

今回の改正では保証についても、上限額の定めのない個人保証は無効というルールが新たに設けられました。しかし、保証については更新後の債務も保証するという趣旨で保証契約が結ばれている場合が多いようです。保証について合意更新をしなかった場合は、改正前の民法が適用され続けるので注意が必要です。更新だから問題ないだろうと思い込まず、次の更新時は契約内容をしっかり確認しましょう。