有村架純が主演する1話完結のオムニバスドラマ『有村架純の撮休』が、3月20日WOWOWプライムにてスタートする(毎週金曜 24:00~ 全8話 第1話無料放送)。同ドラマは、多忙な毎日を送る女優・有村架純がドラマや映画の撮影期間中に訪れた休日、通称"撮休"をどのように過ごすのかを、映画・テレビ・CM・舞台など各界のクリエイターたちが妄想を膨らませて描き、有村本人が演じるという異色のドラマ。監督にはWOWOW初参加となる是枝裕和をはじめ、山岸聖太、今泉力哉、横浜聡子、脚本に篠原誠、ペヤンヌマキなど各メディアで活躍する豪華な顔ぶれが結集し、山岸監督が全話を通じてオープニングを担当する。主演を務めた有村架純と第1話&第3話を手がけた是枝裕和監督に、製作の舞台裏や、お二人のリアルな「撮休」の過ごし方、「女優・有村架純」の声から滲む「影」の魅力について聞いた。

  • 『有村架純の撮休』

――本作は5人の監督×8人の脚本家が「有村架純の休日」を妄想する……という斬新な企画ですが、有村さんはご本人の役を演じると聞いていかがでした?

有村:最近は、等身大の女性の役柄を演じる機会が多かったこともあって、「作品ごとの違いをどんな風に出していったらいいんだろう?」「このまま行ったら引き出しがなくなってしまうかもしれない……」とお芝居に対して迷いや不安を感じていた時期に、予想の"斜め上"を行くような今回の企画のお話をいただいて。「あ! これはもしかしたら自分でもいろんなことが試せる機会かもしれない」って思ったんです。「有村架純」ではあるけれど、実際の私ではない人物を演じることに挑戦してみるのも面白いのかなって。なので、今回は自分なりに8通りの「有村架純」を考えて演じるようにはしましたね。

――是枝監督は今回WOWOW初参加となるそうですが、普段ご自身の脚本以外で撮影されることはあまりないですよね?

是枝:ないですね。とても新鮮でした。

――第1話の『ただいまの後に』は比嘉さくらさん、第3話の『人間ドック』は砂田麻美さんが脚本を担当されていますが、どのような経緯でタッグを組まれたのでしょうか?

是枝:「分福」(是枝監督が主催する制作者集団)のメンバーに「今度こういう企画があるんだけど、やりたい人は出せば?」って声を掛けたんです。いつも僕らは定例の企画会議でそれぞれが出した企画を揉み合って、面白かったらそれを発展させていくという手法を取っているんだけど、普段いくら「出せ出せ!」って言っても若手はなかなかオリジナルの企画を出さないくせに、この企画だけはみんな書いてきやがった(笑)。「あぁ、そうか。みんな有村架純を撮りたいんだな」って(笑)。その中から、僕があえてまったく違う2本を意識して選ばせてもらった、という感じです。

――是枝監督と有村さんは、今回が初対面ですか?

是枝:松本隆さんの作詞家生活45周年を記念したトリビュートアルバム(『風街であひませう』)の特典ディスク用に、松本さんの詞を17人に朗読してもらうという企画があって、そのうちの1篇を有村さんにお願いしたのが最初かな。遊園地の灯りが遠くに見えるような横浜の街なかで、有村さんに『魔女』の歌詞を読んでいただいた。あれはいつ頃だっけ?

有村:たしか2015年だったと思います。そこで初めてお会いして。それから4年の月日が経って、ようやく映像の仕事でご一緒することができたんです。是枝さんの作品ではお芝居をしている感じがしないというか。そこに"ただ居る"ことだけを尊重して演出してくださったのがすごく印象的でした。

――是枝監督はいかがでした?

是枝:う~ん、僕は今回ほとんど何もしなかったんじゃないかな(笑)。というのも、有村さん"ただ居る"ことが普通にできる女優さんだから、こちらとしてはとても楽でやりやすかった。僕が担当した第1話と3話は中1日だけ空けて撮ったんだんけど、有村さんが全く違う女性として現場に現われているな、と思いました。第7話を担当した津野(愛)さんの現場をチラッと覗いた時も全く違っていたから「さすがだなぁ」って。きっと"いかにも"な演じ分けではない形で、それぞれ違いが出せているところがいいんじゃないかと思いましたね。

  • 是枝監督が演出した第1話「ただいまの後に」
    左から、満島真之介、風吹ジュン、有村架純

――是枝監督は「声」でキャスティングをされるそうですが、有村さんの声の魅力的とは?

是枝:単純に「あぁ、いい声だなぁ」って(笑)。有村さんは言葉の中心にある「意味の周辺」で、ちゃんといろいろな感情が出せるというか、声に「にじみ」がある人なんです。僕が脚本を書くときは、その人の声が頭の中で響くかどうかでキャスティングするかどうかが決まるから、直接会わないとなかなか決められないんです。そういう観点から言えば、有村さんの声は「とても書きやすい声」だった。全部に陽が当たっていない感じがするというか、どこか「影の部分」が残っている声なんです。自分でもわかるよね?

有村:私の根暗な部分(笑)

是枝:あえてそこに光を当てずに影の部分を残していく。そうした方がかえって想像をかきたてるから、観ている人も思わず身を乗り出しちゃうんじゃないかな。そこが面白いなと思っています。

――是枝監督は「有村架純」のどんな一面を引き出したいと思われたのでしょうか?

是枝:「どんな一面を引き出したい」というよりは、演出していく中で「どんな女優さんなんだろう?」っていうのを掴みたいっていう気持ちのほうが強かったですね。だから今回は変化球と言うより、あえて直球を狙った気がします。

  • 是枝監督が演出した第3話「人間ドック」

――有村さん自身は「有村架純」役を演じる上で、普段とは違うアプローチをしましたか?

有村:第1話の『ただいまの後に』が軸だとしたら、そこからちょっとずつ変えていったというか……。脚本を読んで「今回はこういう部分を出してみようかな」って、自分の中に潜んでいるものをなるべく出すようにはしていました。でもやりすぎると「有村架純」とは違うキャラクターになってしまうので、「ギリギリのところ」を目指した感じですね(笑)。

――ちなみに、有村さんがもっとも「チャレンジングだな」と思われたのは第何話ですか?

有村:最初に撮ったのが第5話の『ふた』(横浜聡子監督×ふじきみつ彦脚本)だったんですが、監督から「旅人のように演じて欲しい」と言われて「旅人ってどうやって演じたらいいんだろう?」ってさんざん悩んだ挙句、「いっそ変な人にしちゃおう!」って(笑)。なので『ふた』が一番グルグル悩んだ役でしたね。

――是枝監督の担当回で、特に印象に残っているシーンや好きなシーンは?

有村:第1話の『ただいまの後に』でお母さん役を演じられた風吹ジュンさんとのやりとりが、全般的にすごく好きなんです。久しぶりに会ったら「背中がすごくちっちゃく見えるなぁ」とか、そういう経験は自分にもあって。自立した一人の人間として母と対峙するときのちょっとよそよそしい感じというか。お互いに探り合う感じが、自分にとってはすごくリアルに感じられました。

――監督は風吹さんと有村さんで「母と娘」を撮られてみていかがでした?

是枝:『ただいまの後に』の二人のお芝居は、自分で撮っていても楽しかった。きっと誰しも「母が違う生き物に見える瞬間」というのがあると思うんです。その瞬間から関係性や言葉遣いも変わってくるし、そういった微妙な娘の目線の中に芽生えるイラつきだったり、労りだったり、その感情が自分に跳ね返ってきたときの戸惑いだったりするような微妙なところを、きちんと捉えたいなとは思いましたね。そういえば、親子喧嘩が始まって、母親の背中を見ながら近づいていった画面の隅で、有村さんが「フッ」て鼻で笑ったんですよね。

有村:あはは(笑)

是枝:まるでフレームの端がわかっているかのような絶妙なタイミングで鼻で笑う感じが、とても素晴らしかったですね(笑)。

――第3話の『人間ドック』はいかがでした?

是枝:『人間ドック』は、エコー室の中だけで元彼との距離感がどんどん変化していく様を、なるべくいろんなバージョンで撮ろうと思いながら演出しました。あんなにずっと人の「おへそ」を撮ったのは初めてです(笑)。基本的には、ずっと寝たままこうやって服を上げているだけど、「患者から女になる瞬間」が「おへそ」で見事に表現出来ていると思います(笑)。

――ちなみに第2話の『女ともだち』(今泉力哉監督×ペヤンヌマキ脚本)にも、これまでの「有村架純」のイメージを覆すエピソードが登場します。有村さんご自身、どこか共感する部分があったりも?

有村:さすがにあそこまで極端ではないですが、わからなくもないかな、とは思いますね。パブリックイメージに対しては、「そうじゃないのにな」と思うことはありますし(笑)。常に甘い部分を求められてしまうというか……。

――例えば?

有村:割とピンクとか白の服ばかり着るようなイメージを持たれているところですかね(笑)。私、私服ではピンクの服は一枚も持っていないんですけどね(笑)。

――有村さんは実際に「急な撮休」が入ったら何をしますか?

有村:もし何日間かあるとしたら、そのうち1日くらいは家でゆっくり映画を観たりもしますけど、基本的にはジムとか美容院とか、みっちり予定を詰め込んじゃうタイプですね。

是枝:撮影の香盤表みたいな感じだね(笑)。

有村:そうですね(笑)。

――是枝監督は?

是枝:僕もスケジュールを入れちゃうな。休みにすることを箇条書きにしちゃうタイプです。貧乏性なんですよ(笑)。「撮休」の日こそ、自分ひとりでできる仕事は先に進めておきたいかな。

有村:私もずっと休みだとキツいですね。多分1週間休んだとしたらもう飽きます(笑)。

――是枝監督はカトリーヌ・ドヌーヴさんの主演で『真実』を撮られたこともあり、ここ数年「女優」について考える機会が多かったかと思うのですが、改めて「女優・有村架純」をどう捉えていますか?

有村:え~!? ドヌーヴさんと比べます(笑)?

是枝:ははは(笑)。まぁでもね、確かにここ数年、イザベル・ユペールさんやジュリエット・ビノシュさん、ドヌーヴさんと、結構密に話をする機会があって。役作りに対する考え方はみんなそれぞれ違うんだけど、ある種のカテゴリーみたいなものはあったりするからさ。「この子は役に対してどんなアプローチをする女優なんだろうか」って言うのは考える。「ドヌーヴ」タイプなのか、「ビノシュ」なのか、「ユペール」なのかって。

――ちなみに、有村さんはどのタイプですか?

是枝:ユペール!

――事前にきっちり準備したいタイプですか?

是枝:いや、それはビノシュ。ビノシュさんは内面から作るタイプだけど、ユペールさんは外側からなんだよね。「髪型とか靴が決まると内面が立ち上がってくる」って言うタイプ。多分僕が見ていた限りでは、有村さんはそういう組み立てをしてくるのかなぁと思って。

――実際、有村さんは外側から役を作っていかれるタイプですか?

有村:「この人はどんな服を着てるのかなぁ」とかはイメージしますけど、中身も考えつつ、段々外側が出来てきて、最後に合体するみたいな感じですかね(笑)。

――ヘアメイクや衣装など、チーム一体となって役作りをしていく感じですか?

有村:そうですね。

是枝:そうそう! 僕もそう。

――監督の中であらかじめイメージが決まっているわけではなく?

是枝:全然ない。役者さんが何か衣装を着てカメラの前に立ってくれると、「あ、この子はこういう感じなのか」とか、「あ、こういう笑い方するんだ」とかイメージが湧いてくる。だから本当はそこから書き始められるような作品が、僕には一番楽しかったりするんです。

――今回、生身の「女優・有村架純」に触発されて、ドラマに生かしたところはありますか?

是枝:今回の場合、僕は脚本を書いている比嘉や砂田が有村さんをどう捉えているかを受け止めて、それを深めていく作業だったけど、『人間ドック』の中で見せるある種の「艶めかしさ」みたいなものは「有村架純」の魅力の一つだし、ちゃんと出せていると思います。有村さんって、お芝居も佇まいも非常に端正で、すごく澄んでいる。でもきっとどこかに優等生的ではない何かもあって。それがちょっとだけ見えるとゾクッとするなぁと思って、ああいう話を撮りました(笑)。