軽自動車のSUVであるスズキ「ハスラー」がフルモデルチェンジして2代目となった。外見が劇的に変わっているわけではないので、中身の変化についても「それなり」かと思われた方は、ちょっと待ってほしい。試乗してみると、ハスラーは正統進化を遂げていた。
SUVを日常のクルマに
初代ハスラーが発売となったのは2014年1月のことだ。その月、ハスラーは軽自動車で10位となる販売台数6,000台を記録。その後も勢いを維持し、2014年度の販売台数を計11万4,344台とした。これは、同年度の軽自動車としては第9位という売れ行きである。
スズキは2019年10月の東京モーターショーに新型ハスラーを参考出品したが、その前月まで、このクルマは月販6,000台という水準を維持していた。具体的にいえば、2019年9月の販売台数は6,907台、翌10月は4,642台だった。それほどに、初代ハスラーの人気は長く続いたのだ。
そうであったにもかかわらず、なぜスズキはハスラーをフルモデルチェンジしたのか。実はスズキ社内でも、モデルチェンジの必要性については議論があったようだ。今回の新型にスズキが求めたのは、「日常性の進化」であった。
そもそもハスラーの開発は、かつての「Kei」のような車種を求める消費者の声が発端となっている。そんな経緯で生まれた初代ハスラーは、見るからにどこかへ旅に出たくなるような非日常性を備えた軽自動車であった。その商品企画は見事に成功し、冒頭のような根強い人気につながった。
スズキが今回、こういったルーツを持つハスラーの「日常性」を進化させようと思った理由は何か。そこには、SUVという車種そのものが、日常的なクルマに変わりつつあるという同社の読みがある。
昨今のブームもあり、登録車や輸入車などにもSUVが増える中で、消費者がSUVに求めるものは「遠出する」ことにとどまらず、このクルマを「日常的にも快適に使いたい」というニーズが増してきている。これがスズキの考えだ。そういった消費者の声にこたえるクルマとして開発したのが、新型ハスラーなのだ。
外観はたくましく、室内は便利に
新型ハスラーの外観は、明らかに初代のキープコンセプトである。その顔つきや全体の姿は、ハスラー以外の何者でもない。写真で見て、「代わり映えがしない」と思われた方もいるはずだ。
だが、実際に新型を見てみると、ボンネットフードの位置がやや高くなって厚みが増し、SUVとしての逞しさがいっそう高まった印象を受けた。初代はあくまで軽自動車に見えたが、新型はより上級な車種のように感じられる。黄色のナンバープレートを付けていなければ、軽自動車と気づきにくいかもしれないくらいだ。
新型ハスラーも軽自動車規格に沿って開発された車なので、実際の車体寸法は規格を超えていないのだが、2014年12月発売の現行「アルト」から採用が始まったスズキの新型プラットフォーム「HEARTECT」(ハーテクト)を適応したことにより、ホイールベースが延びた。その結果、新型ハスラーの前後タイヤ位置は、従来よりも車体の端に移動している。ホイールベースが延びたことにより、室内では座席の取り付け位置を変更することが可能になった。乗ってみると、並んで座った場合の左右の間隔にはゆとりが生まれていた。
室内の乗車感覚はあとで詳しく紹介するが、外観について付け加えると、車体後部がより角張った形になっている。2トーン塗装の車種では、色違いの屋根の色が車体後部側面にも回り込んで、幌のクルマのような印象ももたらす。かつてのアメリカ車には、「レザートップ」といって、鉄板の屋根であるにもかかわらず革張りのような装飾を施すことにより、幌を閉めたオープンカーのような雰囲気を演出したクルマがあった。新型ハスラーの2トーンカラーは、そんな遊び心も伝えてくる。
いずれにしても、造形の工夫やホイールベースの延長などにより、新型ハスラーはより立派に、さらにSUVらしく変身を果たしている。初代もまだ十分に魅力的だと思っていたが、新型を見て心は大きく動かされた。
室内では、3つの大きくて丸い枠が並ぶダッシュボードが斬新で、見るからにほかとは違うクルマであることを知らせてくる。この点について好みはあるかもしれないが、G-SHOCKの腕時計のようで、頑丈かつ機能的な印象だ。
助手席側の枠の内側は、通常のグローブボックスとは別の物入れになっている。下段のグローブボックスとの間にも、スマートフォンなどを置ける棚が設けられていた。ダッシュボードの限られたスペースに利便性向上の工夫が詰まっている。
中央の枠には9インチのHDディスプレイを設置できる。画面は見やすく、またタッチパネルの操作も容易だ。従来は7インチだった画面を9インチに拡大するにあたっては、グラフィック・ユーザー・インターフェイス(GUI)を見直したとのこと。単に画面を拡大するにとどまらず、大画面に適したスイッチ操作を検証した上での採用だという。これにより、直観による操作性が高まっている。
座席には「縞鋼板柄」と呼ばれるモチーフを採用。落ち着いた色味ではあるものの、単調にならない装飾が施されいる。さらに、座席の脇には、車体色に合わせてシルバー、ブルー、オレンジの縁取りが入る。樹脂を使う部分にも、単調にならないよう表面に「シボ」と呼ばれる柄が付けてある。シボの柄は使う場所により変えてある。
後席に座り、前後スライドを限界まで後ろに下げると、ハイトワゴンのような広々とした空間を感じられる。天井も高い。これだけスペースがあれば、SUVに乗りながら、日常的にはハイトワゴンやスーパーハイトワゴンのような空間を利用したいという欲求を満たしてくれるだろう。
荷室の床下には小物入れ入れがあるが、スペアタイヤはなく、パンク修理剤を準備する。後席の背もたれは、荷室側から前後に移動させたり、前方へ倒しこんだりすることができるので、荷物を積み込む際には、その量や大きさに合わせてレイアウトを荷室側から調整できる。
これらの点から、室内のあらゆる部分に目が行き届き、使い勝手が大きく前進したことを実感できた。
一方、非常に残念なのは、いまだにハンドル調整用の「テレスコピック機構」(ハンドルの位置を前後方向に調整できる)が採用されていない点だ。これによって、せっかく魅力が倍増した新型ハスラーであっても、運転のしにくさが買い控えにつながる可能性も出てくる。
試乗に際して、その運転姿勢の不具合はどうしようもなかった。ハンドルが遠く、ペダルが近すぎる運転姿勢になる。ただ、試乗車にはシートリフターが装備されていたので、この機能を使えば身長の違いに対する調整ができて、よいことだと思った。