毎年冬になると大流行するインフルエンザ。周囲で誰かしらがかかったという話を聞くことに慣れてしまっているかもしれないが、注意すべきなのが、インフルエンザ脳症という病気だ。インフルエンザの感染が広がる中、インフルエンザ脳症を起こして死亡する例も発生している。そこで、インフルエンザ脳症とはどのような病気か、その症状と予防法について、小児科医の竹中美恵子医師に話を伺った。

  • インフルエンザ脳症の症状と予防法

    インフルエンザ脳症の症状と予防法を小児科医に聞いた

インフルエンザ脳症とは?

竹中医師によると、インフルエンザ脳症はインフルエンザで最も重い合併症だという。

「インフルエンザA型が原因のケースが多いですが、発熱後、急速に意識障害や神経障害、行動異常が起こり、さらには呼吸停止になることもあります。場合によっては死亡したり、後遺症が残ったりすることもあります。いずれの症状も、感染から数時間以内で出てきます。症状からインフルエンザと診断されて治療が開始されますが、その頃には、インフルエンザ脳症を発症している場合はすでに症状が進行しています」

どのような人が発症しやすいか、インフルエンザ脳症になる人にパターンがあるのかなどは解明されていない。ただ、ほとんどの場合は、インフルエンザを発症してから数時間以内に何かしらの神経症状が出てくるという。

「インフルエンザ脳症は主に5歳以下の乳幼児に発症し、インフルエンザ発症後の急速な症状の進行と予後の悪さを特徴とする病気です。そのため、小さな子どもを持つ親の関心も高く、社会的に大きな注目を集めています。5歳以下で発症することが多いと言われていますが、子どもから大人まで幅広い年齢で発症する極めて予後の悪い疾患です」

インフルエンザとの違い

インフルエンザにかかった人が、脳にインフルエンザのウィルスが回ってしまった場合にインフルエンザ脳症となると考えられているが、実際はそうではないとのこと。

「インフルエンザと診断された時点で、すでにインフルエンザ脳症にかかっています。インフルエンザは発症後、多くの方は1週間程度で快復しますが、中には肺炎や脳症の重い合併症が現れて、治療が長引くことがあります。インフルエンザで最も重い合併症がインフルエンザ脳症で、死亡率が約30%、後遺症も約25%にのぼると言われていましたが、現在はワクチンの普及により少しずつ減少しています。予防できるのはワクチンしかありません」

インフルエンザ脳症と診断するための検査

(1)「迅速抗原検査」と呼ばれるインフルエンザの診断を行う

鼻の奥に綿棒のようなものを突っ込み、インフルエンザウイルスが陽性になるかどうかを確かめる。

(2)インフルエンザが陽性の場合、けいれんや意識障害、異常行動、異常言動がないかどうかを観察する

けいれんがある場合、そのけいれんのパターンによって「複雑型けいれん」(15分以上のけいれん、繰り返しけいれんが起こるもの、左右対称ではないけいれん)と診断されたら、すぐに二次または三次医療機関へ搬送する。意識障害や異常行動・言動が1時間以上続く症例に関しても、同様の処置を行う。

(3)搬送先の二次医療機関でCTや脳波MRI、血液検査などを行う

より設備の整った医療機関で複数の検査を実施し、それらの結果を総合的に勘案してインフルエンザ脳症か否かを判断する。

インフルエンザ脳症の治療法

現状の抗インフルエンザウイルス薬では、インフルエンザ脳症自体への治療効果は見込めないという。それでも、治療の際はまず抗ウイルス薬を投与するとのこと。

「次に、ステロイドパルスというステロイドの大量点滴や免疫グロブリンの点滴、シクロスポリン療法、アンチトロンビンⅢ大量療法を行います。特殊なケースでは脳低温療法や血漿交換、血液製剤などによる治療が行われる場合もありますが、いずれも意識がなく、内服などはできないため、血管を介す治療となります」

インフルエンザ脳症にかかった際の注意点

インフルエンザにかかったら、市販の解熱剤は飲まないほうがよいと言われているが、インフルエンザ脳症の場合は、風邪薬や頭痛薬、解熱剤などを服用しても大丈夫なのだろうか?

「意識障害が見られないごく一部のインフルエンザ脳症の症例のみ、経過観察をしてよいと考えられています。風邪薬や頭痛薬、解熱剤など内服しても問題ないですが、そのような状況ではない場合が多いため、飲む薬や口に入れるものに関しては医師から許可されたもののみを使用してください」

インフルエンザ脳症の予防法

死亡率が約30%にものぼり、快復したとしても4人に1人に後遺症が残る恐ろしい疾患・インフルエンザ脳症。この恐怖から身を守るにはワクチンしかないと竹中医師は力を込める。

「ワクチン以外にも十分な睡眠を取って、しっかりと栄養を摂(と)り、あまり無理のない生活を送るようにしましょう。インフルエンザの流行地域にはできるだけ赴かないように注意しながら、日ごろから体力をつけておくことも大切です」

インフルエンザの流行前にワクチン接種を心がけるのはもちろんのこと、インフルエンザのような症状が出たら、早めに医療機関を受診することが肝心のようだ。

※写真と本文は関係ありません

監修者:竹中美恵子(タケナカ・ミエコ)

小児科医、小児慢性特定疾患指定医、難病指定医。「女医によるファミリークリニック」院長。

アナウンサーになりたいと将来の夢を描いていた矢先に、小児科医であった最愛の祖父を亡くし、医師を志す。2009年、金沢医科大学医学部医学科を卒業。広島市立広島市民病院小児科などで勤務した後、自らの子育て経験を生かし、「女医によるファミリークリニック」(広島市南区)を開業。産後の女医のみの、タイムシェアワーキングで運営する先進的な取り組みで注目を集める。

日本小児科学会、日本周産期新生児医学会、日本小児神経学会、日本小児リウマチ学会所属。日本周産期新生児医学会認定 新生児蘇生法専門コース認定取得、メディア出演多数。2014年日本助産師学会中国四国支部で特別講演の座長を務める。150人以上の女性医師(医科・歯科)が参加する「En女医会」に所属。ボランティア活動を通じて、女性として医師としての社会貢献を行っている。