マネースクエア 市場調査室 チーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話します。今回は、12月12日に行われる英国総選挙で、EU離脱が決着するのかについて取り上げます。
12月12日に英国で総選挙
「英国のEU離脱『ブレグジット』はどう決着するか」でもお伝えしましたが、ブレグジットの行方はいまだ不透明です。では、12月12日に英国で実施される総選挙の結果を受けてハッキリするのでしょうか。必ずしもそうではなさそうです。
総選挙後に、現与党の保守党を中心とする政権ができれば、ジョンソン首相がEU(欧州連合)との間で合意した離脱協定案が議会で可決される可能性が高まります。そして、英国は2020年1月31日の期日までにEUを離脱することが決まりそうです。
世論調査は信用できない?
全ての世論調査で、保守党は最大野党の労働党を支持率でリードしており、大幅に議席を上乗せして過半数を獲得するとの予測もあります。しかし、2016年の国民投票が「ブレグジット賛成」という衝撃をもたらしたように選挙は水物です。選挙結果が判明する前に、1月31日までに英国が離脱協定付きでEUを離脱すると決め打ちするのは危険でしょう。
その他のシナリオもあり!?
労働党が第1党になるシナリオはさすがに非現実的でしょうが、どの政党も過半数を獲得できない、いわゆる「ハング・パーラメント」になる可能性はあります。その場合は、連立交渉が難航して、現状のままで1月31日の離脱期日を迎えるかもしれません。
また、労働党を中心とする連立政権が誕生するようなことがあれば、EUとの協定案の再交渉や、ブレグジットの撤回を選択肢として含む国民投票実施に向けた動きが出てくるかもしれません。そうなれば、離脱期日が延期されるか、EUが延期を承認しなければ、1月31日での「合意なき離脱」も起こり得ます。
ブレグジット確定後の課題
仮に保守党が勝利して議会が離脱協定案を可決し、1月31日までのEU離脱が確定しても、ジョンソン首相の選挙公約である「ブレグジットを成し遂げる(Get Brexit done)」が実現したとは言い切れません。
1月31日までの離脱が確定しても、実際に影響が出てくるのは2020年末に移行期間が終了してからです。それまでは事実上、英国とEUの従来の関係が継続するからです。英国は移行期間中にEUとの間に貿易協定を含めた新たな関係を構築する必要があります。その交渉が不調に終われば、2020年末に英国は「合意なき離脱」を強いられ、英経済、通貨ポンド、あるいはポンド建て資産の価格に大きな下押し圧力が加わることになりそうです。
「ブレノー」とは?
それとも、英国とEUとの合意によって、移行期間は延長されるでしょうか。延期が繰り返される「ブレノー(BRENO=Brexit in Name Only、名ばかりの英国の離脱)」のシナリオさえ完全には否定できません。