「未来の社会をより良くするために必要なことは何ですか? 」と聞かれたとき皆さんは何と答えますか。

貧困社会を無くす、自然破壊を防ぐ、全ての人々に教育を、等々と頭に思い浮かべるのではないでしょうか。

これらの社会課題解決と金銭的なリターンの両方を求めて行う投資が「社会的インパクト投資」です。「ESG投資」という投資手法のひとつに位置付けられています。本稿ではこの社会的インパクト投資の基本を、詳しく解説します。

SDGsの目標を実行して課題解決を進めた結果と金銭リターンの両方の成果を求める

地球規模で発生している課題を解決しないと全ての人が安心して生活することができません。そのために社会課題を解決しようと掲げた目標が「SDGs」(Sustainable Development Goals)です。日本語では「持続可能な開発目標」といいます。

  • SDGsについて(引用:外務省)

SDGsは2015年9月の国連サミットで採択されたもので、2030年までを期限とした17の国際目標です。発展途上国や先進国問わず積極的に取り組むものとされています。

貧困社会を無くす、自然破壊を防ぐ……といった課題は世界規模で考えなければならない課題です。そんな課題に対してSDGsでは民間企業の参加を促しています。

民間企業は顧客の需要を満たし課題を解決することで利益を得る活動をしていますが、その対象となる課題が社会的なものであり、利益が上げられるのであれば企業の事業機会となります。事業活動を行うためには資金が必要なので投資機会が生まれます。

したがって社会的インパクト投資では、事業機会による社会的な課題解決と投資によって得られる金銭リターンの両方を求め、結果として未来の社会をより良くしていくことを目的にしています。

冒頭で述べたESG投資とは、E:Envorioment/環境、S:Social/社会、G:Governance/企業統治の3項目を明示的に考慮して事業を行う企業に対する投資のことをいいます。

なぜESGの項目を考慮しているかが重要かというと、事業の社会的意義が高く、また、企業が成長し続けられる可能性が高いと判断できるからです。

ESG投資はあくまで、ESGを考慮した企業からの金銭リターンの成果を求めるのが主ですので、ESG投資と社会的インパクト投資は分けて語られています。

社会的インパクト投資の認知度は低い一方、投資に興味のある人は一定数いる

言葉だけを聞くと社会的に意義がある取り組みなので、興味を持つ人が多く感じる社会的インパクト投資ですが、認知度はあまり高くありません。

社会変革推進財団が発表した「社会的インパクト投資に関する一般消費者意識調査」では、2,071人の一般消費者に対して認知度や投資興味度が調査されています。

その中で「意味を多少なりとも知っている人」は6.8%しかいませんでした。社会的インパクト投資に興味のある人は全体だと20.7%ですが、意味を多少なりとも知っている人は76.2%の人が投資に興味を持っていることがわかりました。

したがって投資家経験者が社会的インパクト投資の認知をすればするほど、市場規模が大きくなっていくといえます。

市場規模が急速に拡大し個人向けの社会的インパクト投資を専門に扱うファンドも現れた

国内諮問委員会(Global Social Impact Investment Steering Group)が公表した「日本における社会的インパクト投資の現状2018」によれば社会的インパクト投資の市場規模となる投資残高は国内だと2018年現在で、3,440億円です。2016年は337億円でしたので2年で10倍以上の残高になっています。2017年と見比べても4.7倍程になっていますから、2018年にかなり残高が増えたことがわかります。(図1)

  • 図1:社会的インパクト投資残高(推計)の推移

実際に社会的インパクト投資を行う金融商品には、銀行で購入できる投資信託や「クラウドファンディング」として直接企業が投資を募る投資ファンド。機関投資家を対象にしたソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)があります。

個人が社会的な課題解決を行うために投資する環境がすでに整い始めているのが現状で、金融機関の積極度合いも上がってきています。

  • 社会的インパクト投資ができる投資信託の例:野村ACI先進医療インパクト投資/野村アセットマネジメント(引用:野村ACI先進医療インパクト投資目論見書)

「先進医療」に注目し4つのテーマに沿って社会課題解決を行いながら利益をあげる投資信託です。新生児や幼児の死亡率低下に貢献する企業や、安全かつ効果的で安価な医薬品を提供する海外企業に投資を行っています。2019年10月21日時点では野村證券でしか購入できません。

  • 社会的インパクト投資専門のクラウドファンディングの例:ネクストシフト(引用:ネクストシフト)

社会的インパクト投資を専門に扱うクラウドファンディングで、様々な企業やファンドに対して投資するファンドを組成して出資を募っています。

  • ソーシャル・インパクト・ボンドの例:八王子市のがん検診事業

ソーシャル・インパクト・ボンドは、官民連携で行う成果報酬型の事業のことをいいます。八王子市の例では、がん検診を受けない市民に対して民間事業者がアプローチを行います。

アプローチの結果、市民が受診した場合には民間事業者に八王子市から報酬が支払われます。検診を推奨することで削減した医療費が報酬の対象となっています。ちなみにボンド(債券)と書かれているものの、仕組みは債券とは異なっています。

社会的な課題解決による金銭的な効果をどのように測定し評価していけるか

実際に行った事業や取り組みがどの程度社会的な課題解決に貢献したかを測定する手法を「社会的インパクト・マネジメント・イニシアチブ」 が社会的インパクト評価として公開しています。

がん検診のように受診率や医療費削減額をすぐに計算できるものもありますが、例えば障害のある人がどの程度自立した生活ができるようになったのか、という風に自立の度合いは評価できますが、自立によりどの程度金銭的な効果が出たのかを計算するのは難しいでしょう。

社会的インパクト投資の要否を決める場合に、社会課題に対する「共感」も重要ですが、尺度として「金銭的な効果」が測定できないと、意味ある投資なのかどうかが判断できなくなってしまいます。これが社会的インパクト投資の課題であり、投資額が増えるにつれて得られたデータから計算しなければならないものといえるでしょう。