中古マンションや一戸建てを購入してリノベーション、自分らしい住まいをつくる人が増えています。最近とくに人気が高まっているのが、団地を購入して行う「団地リノベ」です。

現代の住まいにはないレトロな味わい、ゆとりある敷地に豊かな緑、なんといっても手頃な価格が魅力です。しかし、知っておきたい注意点も。今回は「団地リノベ」のメリットと注意点について解説します。

団地リノベの魅力は価格と敷地のゆとり、緑にあり

「団地」と聞いて、4~5階建ての似たような建物が立ち並ぶ風景を思い浮かべる人は多いことでしょう。ただ、団地といっても公営住宅(市営・県営・都営など)、民間の大規模住宅、社宅、日本住宅公団(現・UR都市機構)による公団住宅などがあり、それらがまとめて「団地」と呼ばれています。

2019年現在、「リノベ」の対象として人気があるのが、旧住宅公団、つまり現在のUR都市機構が所有している「団地」です。昭和40年代から50年代にかけて大量に供給された団地は、現在、全国に約35万戸のストックがあるといわれています。この「団地」を購入してリノベをして暮らしたいという人が今、増えているのです。

魅力の1つとなっているのが、価格です。築年数が経過していることもあり、1住戸数百万円から1000万円台で販売されていることも。こうした物件を購入して自分好みにリノベーションをしても、高騰した新築マンションを買うより格段におトクというわけです。

そして、団地のもう一つの魅力が、敷地のゆとりと緑の多さ、周辺環境が整っていること。多くの団地では現在では考えられないほど、敷地に対してゆとりがあり、採光や通風が確保されています。

また、道路計画が行き届き、歩道と車道がきちんと分離されていて、子どもを連れても歩きやすいというメリットもあります。さらに団地内にスーパーや郵便局、保育園・幼稚園などが揃っていることもあるので、生活のしやすさもあげられます。

リノベによって専有部分は変更することはできますが、こうした周辺環境は自分たちではどうすることもできません。こうした専有部分以外の「ゆとり」「暮らしやすさ」が魅力として見直されているのです。

エレベーター無し、サッシ高、専有面積などに注意

こうしたメリットがある反面、注意点もあります。団地の場合、基本的にはすべて築年数が経過していることに由来するのですが、建物が建てられたときには「当たり前」もしくは「最新」だったものの、ライフスタイルが大幅に変化した今では、「不便」で「なじまない」ものになりつつあるのです。順番に解説していきましょう。

(1) エレベーターがない物件もある
(2) 給排水設備の劣化、天井高やサッシ高は期待できない
(3) 専有部分が40~50平方メートルと少し手狭
(4) 駅から遠い、またはバス便のことも
(5) 高齢者が多く、コミュニティに関わる必要あり
(6) 建物の管理状態がよくないことも
(7) 場所によっては建て替えの問題も

まずは(1)エレベーターがない物件があることです。3階建てくらいであれば、階段の上り下りをがんばることができても、4~5階となるとしんどいもの。小さな子どもがいる家庭や年齢を重ねてからの暮らしにはなかなか向かないかもしれません。

(2)給排水設備や外観、ネット環境なども整っていないと、「古さ」や「不便さ」を感じることでしょう。また、天井高やサッシ高なども現在の感覚に慣れていると「狭いな」「圧迫感があるな」と思うでしょうし、サイズによってはリノベに制限が出てくることもあるので、要注意です。

(3)また、団地の専有面積は多くが40~50平方メートルと、コンパクト。モノの少ないミニマルな暮らしができる人には向いているかもしれませんが、普通に暮らすには少々、テクニックが必要です。ただ、最近では、ニコイチ(2つの住戸をあわせて1住戸にすること)にリノベした物件も出ているので、広さがほしい人はこの「ニコイチ」に注目してみてもいいかもしれません。

(4)大規模団地は駅からすぐということもあれば、駅からバス便という物件も少なくありません。団地がバスの始発駅になっていることもありますが、最近ではバス便というだけで敬遠され、リセールが難しくなります。

最大の問題は、団地住民の高齢化とコミュニティ

団地リノベの最大の注意点は(5)~(7)にあります。現在、団地は住民の高齢化が進み、以前は活発だったコミュニティにも元気がなくなっている状況にあります。人が減った・高齢化が進んだ団地では、コミュニティの担い手になることが求められます。「人と関わりたくない」「地域との関わりを持つのはさけたい」という人は、いくらレトロな建物が好きでも団地暮らしには向かないといえそうです。

また、敷地に余裕があり、立地にもすぐれた物件であれば、早晩、「建て替え問題」に直面することでしょう。「修繕して暮らし続けるか」「建物を建て替えるか」というのは団地に限らず、どの中古マンションでも向き合う課題です。すぐに「建て替え」となるわけではないでしょうが、ある程度、建て替え問題が起きることを想定しておいたほうがよいでしょう。

団地は、昭和が残してくれた「暮らしの遺産」です。いきなり「買ってリノベ」は難しいかもしれませんが、最近では「借りてDIY」という選択肢もできるようになっています。団地が気になるという人は、まずは賃貸でお試ししてみるのがいいかもしれません。

  • 回遊舎

嘉屋恭子

フリーライター。編集プロダクションなどを経て、2007年よりフリーランスで活動。 主に住まいや暮らしに関わる分野で取材・執筆を続ける。FP技能士2級取得