6月23日よりWOWOWプライムにてスタートする『連続ドラマW 神の手』(毎週日曜22:00~ 全5話 1話のみ無料放送)で主演を務める椎名桔平にインタビュー。原作は、現役医師でベストセラー作家でもある久坂部羊の同名小説で「安楽死事件」をきっかけに、医学界のみならず、政界やマスコミ、臣民団体をも巻き込んだ大騒動を描く社会派医療サスペンス。椎名が演じるのは、苦渋の選択で若い末期がん患者を安楽死させ、渦中の人物となる外科医・白川泰生。連続ドラマW『メガバンク最終決戦』や『不発弾 ~ブラックマネーを操る男~』でも主演を務め、2015年にNHKで放送された衝撃の医療ドラマ『破裂』以来、久坂部作品としては2度目の主演となる椎名に、久坂部ワールドならではの役作りや、本作の現場で感じた「イノセント」な瞬間、役と向き合って感じた「死生観」について聞いた。
――脚本を読んだ印象は?
「安楽死問題」には答えがないからこそ、すごく難しいテーマだと思います。最初にある事件が起きて、僕が演じる医師の白川は激流に飲み込まれていく。でも、主人公が溺れるか溺れないかのところで、模索しながら、あがきながら生きていくっていうのは、すごく人間ぽいなぁとも感じていて。そこがちゃんと表現できれば、成立するんじゃないかって思いましたね。
――『破裂』に続き『神の手』は椎名さんにとって2度目の久坂部作品になりますね。
個人的なエピソードから始まって、最終的には社会を巻き込むような論争になっていくのが久坂部ワールドの特徴でもあるんですが、あくまでも「答えは自分たちで探してね」っていう作風であることは、既に体感してますからね。最終的に「是か非か」っていうところに行きつく必要がないわけですよ。これから来るべき社会に向けて、こういった作品を通して自分なりの思いを見つめてみようと。僕自身はそんな風に捉えて演じています。
――同じ医師でも『破裂』の時とはずいぶんタイプが全く違いますよね。
あっちの方が悪いやつだった(笑)。
――今回演じられた白川先生の魅力はどんなところにありますか?
演じる上では、僕がよく知っているお医者さんのことを思い浮かべたりもしたんだけどね。医療現場ではないところに立った時には、どこか頼りなかったりもするんだけど、やっぱり日常的に人の生死に向き合う仕事の現場にいる人たちからは、人間的な強さや魅力をすごく感じるから。倫理観とか、矜持とか、そういったものに対する想いは、年齢とともにどうしても甘くなりがちだけど、白川先生は全てを敵に回してもそこだけは守る人。そこがやっぱり医師の、医師たる所以だよね。外科の部長なんだけど、そこがどれくらいの病院で、どれくらい優秀な医者なのかっていうのは詳しくはわからない。ただ、これからの医療制度や終末期医療というものに対しては、とても真面目に考えている人であることは間違いないね。
――椎名さんは話題のドラマ『3年A組 -今から皆さんは、人質です-』(日本テレビ系)にも刑事役で出演されていましたが、『3年A組』では、出演者の方すら撮影が始まるまでエンディングを知らなかったそうですね。普段入念に役作りをされる椎名さんにとっては、どんな現場だったのでしょうか。
現場による違いなんて、山ほど経験してきましたからね。脚本が最初から全部ある場合とか、そうでもない場合とか、いろいろありますよね。だから文句を言ってもしょうがないし、それぞれ自分の経験値の中で対応していくしかない。
『3年A組』に関していえば、待つ分、脚本の精度が高かったからね。プロデューサーも、最後の一日まで粘ってブラッシュアップするっていう思いがあったんでしょうし。それだけの思いを作品にするためには、それだけの時間が必要だった、というだけ。でも僕らは台本ができてから、それをもとに準備に入るわけですからね。臨機応変に対応していかなきゃダメだと思うんですよね。
――長年にわたって様々な現場で経験を積まれてきたからこそ、柔軟に対応できるようになったということですか?
いくつかポイントになった作品っていうのはきっとあるんでしょうけど、そこで何を得て、どうだったのかっていうのは、正直自分ではわからないんですよ。いろいろミックスされているから。もともとあったものに何かが足されて、それが総合体になって、またそこに何か新しいものが混ざっていく。それをいちいち分解したりはしないからね。
ただ、もちろん役者を続ける限り新たな経験をしたり、刺激を受けたりすることもあるとは思うんだけど、やっぱり何も知らないところからの刺激と、ある程度経験した上での刺激っていうのは、刺激の度合いが違いますよね。「えっ、この人と一緒にお芝居やれるんだ!」って最初は思っていても、今はそういった先輩方とも普通にやっているわけだしね。それこそ、これまでやったことがない職業の役柄を演じるときは不安になったりもするけど、医者役に関してはドラマや映画を通して何度も疑似体験がある。そうするともはや一から何かをやるって感覚ではなくて、今回はこの角度からやるんだなとか、そんな風に考えていけるようにはなってきますよね。
――椎名さんは『メガバンク最終決戦』や『不発弾 ~ブラックマネーを操る男~』など、骨太な社会派ドラマで主演を務められることが多いですが、あえて役柄的にリスクが高い作品を選ぶように心がけていらっしゃるのでしょうか?
いやいや、できればリスクが高くない役柄を選んでやっていたいんですけどね(笑)。いわゆるエンターテインメントの世界って、人を喜ばせる仕事じゃないですか。でも、やっぱりまずは自分自身が楽しみたいんですよね。もちろんそれは「一生懸命楽しんで、一生懸命作品を作る」っていう意味での「楽しみ」なわけで、できればそれを観た人にも楽しんでもらいたい。
与えられた役柄に対して、自分がどうチャレンジできるか。つまり"チャレンジする=楽しむ"でもありますよね。そういう意味では、挑戦できる役かどうかっていうのは、やっぱり大きなポイントではある。でも、だからといって自ら険しい道を歩いて行こうとは、別に思ってはないんだけどね(笑)。
――とはいえ、「挑戦」には常にリスクも伴いますよね。
個人的な趣味嗜好でいえば、僕はやっぱり人間ドラマが好きなんですよ。人間を知りたいから。現実の自分とは別の人生を経験できるのが役者の特権でもあるわけで、「それを楽しまないでどうする!」っていう気持ちがあるんです。「こういう世界の、こういう人間関係の中で過ごしてみたかったな」とか、「生まれ変わったら、こういう職業についてみたいな」とかね。そんな作品と出会えたら、もう最高だよね。そういう意味では、役者っていうのは改めて素晴らしい仕事だと思いますよね。
――なるほど。ちなみに椎名さんが本作から感じた「挑戦」とは?
医療ものって、いわゆる"スーパードクター"が多いでしょ。でも、この白川という人は、ただどうしようもなく安楽死を選んだっていうだけで、スーパードクターじゃないんですよ。そんな人が主人公っていうのが、逆にすごく新しい。でも、そういった目線で描けるのは、やっぱり久坂部先生が医者だからですよ。普通はなかなかそういった発想はできないと思いますね。まずそこが面白かった。
――タイトルの中に「神」という言葉がありますが、撮影現場でも"神聖さ"のようなものを感じる瞬間はありますか?
ありますよ。例えば現場で「安楽死のシーンの撮影を始めます」って言う時には、誰も無駄話をしないんですよね。別に監督が「静かに!」って言うわけでもなく、みんなが一つになって、「死」という概念と向き合うんです。
ちなみに、もっと日常的なことでいえば、「ここの動きは、こうした方がいいですかね」とか「このセリフの語尾は、こう変えたほうがいいんじゃないか」とか、一般の人から見たら「どっちでもいいじゃん!」みたいな些細なことを、「なぜ僕らはこんなに真面目に語り合っているんだろう」って、神聖な気持ちになったりもする。そういう瞬間こそ、もの作りの現場の共同作業の醍醐味でもあるんだと思ったりします。
――なるほど。
あとは、若い俳優が廊下で一生懸命セリフを覚えている姿を見かけた時なんかも、なぜだかわからないけどすごくイノセントな感じがしますね。歌手の方々と違って、僕らはもう二度と使えないであろうセリフを、必死になって覚えるわけですよ。今回のドラマの中にも「一体どれだけあるの?」っていうほど長ゼリフがあるんだけど、何日もかけてやっとスラスラ言えるようになった時には、もう撮影が終わっている。そんなことを僕らはずっとやり続けているわけです。
だからこそ、刹那的な思いが湧き上がってくることもあるし。大事なセリフだからこそ、あえてさりげなく言おうか、とか。そんなことを無我夢中で考えているのは、きっと役者くらいなんじゃない? 普段人と会話するときには、そこまで意識したりしないわけだから。まさにイノセントなワールドbyミスチルだね(笑)。
――椎名さんご自身も終末期医療や延命治療について考えたりされますか?
たとえば、十数年飼っていた犬が亡くなったり、親が病気になって入院したり、芸能界でも、不老不死だと思っていたような先輩方が立て続けに亡くなられたり。そうすると、やっぱりいろいろ考えさせられますよね。自分だったら「昨日まで元気だったのに……」とか、「朝起きたらこの世からいなくなっちゃってた」っていう方がいいなぁ……とかさ。
――『破裂』でも言及されていたテーマですね。
そうそう、まさに"ピンピンぽっくり"だよね。今回の『神の手』で描かれる「安楽死問題」でも、それこそ『3年A組』の「Let's think!」じゃないけど、もし自分がそうなったらどうするのかってことを、怖がらないでちゃんと考えることによって、逆に安心できたりすることもあるんじゃないかな。たとえば延命治療のボーダーラインがあったとして、「そこで僕はやめる」とかさ。もちろん「それでいいのかな」とか思っている自分もいたりするんだけど、やっぱりこういう作品を通して疑似体験をしながら、「病院のベッドの上でずっと天井を見て過ごすことが幸せな終末期なのか」とか、再確認していくんだろうね。
目を背けるのは簡単だけど、『神の手』というドラマをきっかけに、これからの自分の生活について考えたり、親兄弟にどう考えているのか探ってみたりするのも、すごく大事なことなんじゃないかな。もはや「その時が来たら何とかなる」じゃ、済まなくなっているのに、あえて考えないようにしていることに対して、久坂部先生の作品は警鐘を鳴らしてくれる。そういったメッセージをしっかり受け止めて、WOWOWさんがドラマにしているところもね、非常に興味深いと思いますよ。
『連続ドラマW 神の手』の第1話が6月23日23時から6月30日の22時まで番組公式サイト&WOWOW公式YouTubeにてオンラインで視聴可能。