「すみだ水族館」と「京都水族館」の合同企画として2019年3月15日~4月21日の期間限定で開催された企画「私の愛するいきもの展」。前回、第一弾としてすみだ水族館で実施された「クロナマコたち」を取材した際に、次は「二匹のナベカ」なる展示を予定していることを聞き、気になっていた筆者。そこで、再びすみだ水族館へとやってきた。ナベカってどんな生き物なんだろう? そして、飼育スタッフさんが東京の真ん中でナベカ愛を語る!

  • 「すみだ水族館」で飼育スタッフの"ナベカ愛"に感動

    水槽を覗くと恥ずかしそうにこっちを見ていた

飼育スタッフの溢れんばかりのナベカ愛

今回企画展を案内してくれたのは、飼育スタッフの坂井高志さん。すみだ水族館に勤務して約3年、25歳のキビキビした感じの青年だ。

  • 「なにも考えていないときは基本的にずっとナベカのことを考えている」飼育スタッフの坂井高志さん

そんな彼と「ナベカ」とのなれそめ(?)は高校2年生の頃。授業の一環で磯の生き物を観察するため海に行ったときのことだという。「最初は、ナベカという魚がいることすら知らなかった」という。「君の名は」のような出会いだったようだ。ナベカは、水深20cmほどの浅瀬に生息しているそうで、出会った瞬間「関東近海にこんな熱帯魚みたいに綺麗な魚がいるんだ! ? 」という驚きと共に、「もしかしたら、そういうことを超えた運命的なものがあったのかもしれないです。一目惚れというか……」と、いたって真顔で語る坂井さん。なんと自宅でもナベカを飼育しているというではないか。筆者は早くも理解した。この愛は、本物だ。人の恋人(ナベカ)について根掘り葉掘り訊くのもヤボという気もするが、仕事なのでお許しください。

知れば知るほど愛しい、ナベカのこと

愛するナベカを大きな規模で取り上げることができてとても嬉しいという坂井さん。ナベカを好きになってからこの展示に至るまで、改めて気が付いたナベカの魅力はあったのだろうか? 「最初に興味を持ったきっかけは、色や模様の綺麗さがったんですけど、ただそれだけじゃなくて、婚姻色といって繁殖の時期にオスは体色が真っ黒になったりするという独特の生態があるんです。そういったことを調べれば調べるほどより興味を惹かれていきました」(坂井さん)

今回の展示タイトル「二匹のナベカ」は、もともと二匹を常設展示していたことから、その二匹により愛を注ごうという想いを込めて名づけられたという。企画展示ブースの外側には、写真や映像と共に、坂井さん渾身のナベカ解説がびっしり。絶妙な画力で迫ってくるなんとも味のあるイラストは、もちろん坂井画伯によるもの。

  • 坂井画伯の絶妙な画力によるナベカのイラスト。バンクシーの絵より断然こっちだ

「じつはナベカも口の奥の方には鋭い犬歯があるんです」ということだが、よく見ると笑っているようにも見える。こんなところからもナベカ愛がにじみ出ていて、なかなかボリューミーな展示だ。中には、貝殻に入っているナベカの写真、イラスト、映像も。なんだか可愛らしい。巻貝やフジツボ、牡蠣の殻などを巣穴にしていることが多いそうだ。ブースの中には、壁一面にナベカの写真やイラストが。そして水槽にナベカが展示されていた。

  • ブースの中にはナベカの写真がギッシリ

たまたま居合わせた若い女性のお客さん2人に、ナベカを見た感想を訊いてみると、「初めて見たんですけど、色合いが見ていてかわいいなって思いました」とお気に入りの様子。「ナベカって、いつも貝に隠れているんですか?」「自分でつかまえて飼ってるんですか?」等、逆に質問され、一つひとつ丁寧に答える坂井さん。お客さんは「えぇ~すごい!」と興味津々な様子でナベカを眺め、満足げにブースを後にしていた。

その他、坂井さんが「私とナベカの100のこと」に答える映像が上映されていたり、ナベカと丸い穴がひとつ書かれただけの用紙をもとに「ナベカ、夢のマイホーム」を考えるという募集に対して集まった応募作品も紹介されていた。想像力豊かに描かれた数々の力作に、坂井さんが赤ペン先生ばりにコメントを返しているところがすごい。かなりたくさんの応募があったようだ。こんなにも反響があるなんて。若い女の子にも人気だったし、もしかして、ナベカって今ブレイク寸前なのでは!?

  • 貝を巣穴にするナベカの生態について、自らボディランゲージで解説する坂井さん

  • 「ナベカ、夢のマイホーム」を募集したところ大反響が。結構すごい人気者なのでは!?

「ナベカは、写真やネットで見るよりも、絶対生で見た方がカワイイと思っています。イベントが終わっても、常設展示でナベカを見ることができるので、是非見に来てください!」

と、最後までナベカへの溢れる熱い想いを語ってくれた坂井さん。こんなにもひとつの生き物に愛を注げるって、なんだか感動すらしてしまう。取材を終えて再び眺めてみたら、なんだかあのイラストのように、ナベカの表情が笑って見えた。あなたも是非、ナベカに会いに「すみだ水族館」まで行ってみてほしい。

  • 「かわいいの最上級、降臨」

●information
「すみだ水族館」
東京都墨田区押上一丁目1番2号
東京スカイツリータウン・ソラマチ5F・6F
営業時間:9時~21時
休:無