「副業元年」と呼ばれた2018年。厚生労働省は「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を公表し、都市部の企業が続々と副業を解禁しました。ソフトバンク、コニカミノルタ、花王、ユニ・チャームなど大手企業が「副業解禁」を打ち出し、社員に対して副業を認めています。

この点に着目し、地方企業と都市部の人材を副業でつなぎ、イノベーション創出を目指すサービスで「Skill Shift」というものがあります。サービス立ち上げ責任者の方に、副業希望者と地方企業の現状を聞いてきました。

  • 地方企業で副業する理由は?(写真:マイナビニュース)

    地方企業で副業する理由は?

企業・人材・自治体が抱える3つの課題

「Skill Shiftは『地方企業の人材確保』『都市部で活躍する人材の副業探し』『地方創生』いう3つの課題を解決する一助となるサービス」

こう語るのは、grooves(グルーヴス) Skill Shift ゼネラルマネージャーの鈴木秀逸さん。2017年のサービスの立ち上げから、早くも確かな手ごたえと大きな可能性を感じているようです。

鈴木さん「地方企業が採用したくても、優秀な人材の多くは都市部で活躍しており、採用市場が成り立っていない状況です。応募者数が少なく、質の高い人材と出会うことも、ほとんどありません。また、都市部で活躍している人が副業を考えても、さまざまな課題があります」。

  • grooves(グルーヴス) Skill Shiftゼネラルマネージャー 鈴木秀逸さん

    grooves(グルーヴス) Skill Shiftゼネラルマネージャー 鈴木秀逸さん

一気にトレンド化したように見える副業ですが、実際には、いくつかの理由で普及が遅れているそうです。

鈴木さん「『大手企業で活躍しながら、副業で起業して成功』といった、普通のビジネスパーソンにとって極めて現実性の乏しい事例ばかり注目されハードルが上がり、気軽に始められるものではない、というイメージが強いことが問題の1つです。

また、これまで副業を行っていた方の多くは、『お金を稼ぐ』ことが目的でした。しかし、都市部で活躍する優秀な人材は、経済的にもゆとりがあるため、休日をつぶしてまで副業を行う必要はありません。お金が必要なら、本業で頑張れば成果を出して稼げます。つまり副業を解禁しても、やる意味が見い出せないのが実態です」。

副業は知的好奇心を触発する

各種意識調査を見ると、人々の興味・関心は着実に副業へ向かっています。では経済的な理由以外では、何があるのでしょうか。鈴木さんはキーワードとして「地域貢献・知的好奇心」を挙げます。

  • 副業・兼業の現状 出典:厚生労働省労働基準局提出資料

    副業・兼業の現状 出典:厚生労働省労働基準局提出資料

鈴木さん「彼らが、なぜ副業に興味・関心を持っているのか。その背景には『地域に貢献したい、未知の経験をしたい、人の役に立ちたい』という欲求や知的好奇心があります。しかし、何をやればそれが無理なく実現できるかの答えが世の中にまだない。

私たちは、優れた人材を求める地方企業と、自分のスキルやナレッジを本業とは異なるステージで生かしてみたい、と考えている都市部の人材を結び付け、新たなイノベーションを起こしていきたいと考えています」。

副業を気軽に始める

鈴木さん「Skill Shiftは、たとえば、月1回、現地へ出張してプロジェクト会議やミーティングへ参加し、都市部で本業を行いながらリモートワークを行うといった、原則、出張をベースにした副業スタイルを提案しています。

企業と人材とのマッチングは、両者間で直接行い、報酬は月3~5万円、戦略・企画立案といったポジションを求める企業が多数を占めています」。

今、副業に興味を持っている都市部正社員にとっては、報酬が大きくなると責任感が生じ、参加へのハードルが高くなります。逆に、往復交通費+α程度の条件が、気軽にジョインできる動機付けにもなっているそうです。

  • 「報酬が高いと逆にためらいます」と言う鈴木さん

    「報酬が高いと逆にためらいます」と言う鈴木さん

地方企業にとっては、わずかな報酬でも都市部の優れた人材から応募があり、出会うことができるうえ、さまざまな能力を持つ人材を複数採用することも可能です。最初は3~5万円で関係を開始し、頼りになる人材の場合は当初より報酬を増やす企業も多いと鈴木さんは言います。

鈴木さん「地域活性化を目指し、優秀な人材の参加を必要としながら、動機付けができなかった地方自治体も、Skill Shiftを介して、人材と地域の持続的かつ建設的な関係と流れを作りつつあります。現在、登録者は約1,600人で30代後半から40代の豊かな経験と知見を持つ方が多いです」。

地元と継続的につながれる喜び

実際、どのような方が利用しているのでしょう。Mさんという、都内の大手企業でマーケティングの仕事をしている利用者の事例を鈴木さんより紹介してもらいました。

鈴木さん「Mさんは大学から地元を離れ、がむしゃらに働き、気がつけば35歳。都内の自宅と勤め先を往復する日々の中で、故郷を思うことが多くなってきたそうです。

移住・Uターンも考えたそうですが、これまで積み上げたキャリアを捨てたくはない。家庭もあり、東京での生活は充実している。しかし、故郷への思いは募る。そんなMさんが選んだのが『地方企業での副業』でした」。

自身が培ってきたマーケティングの業務スキルを活かし、地元の企業で副業を始めだそうで、今では月2回現地に行き、同企業に無くてはならない存在として、活躍しているそう。

都市部での生活を継続しながら、副業を通じて故郷と継続的に関わっていける。自分を必要としてくれる社長にも出会え、「都市部にいながら地域貢献できることが嬉しかったそうです」と鈴木さんは言います。

趣味のスポーツを兼ねて副業する

高度な業務スキルを持った人材が、地域貢献を目的として、地方企業での副業にやりがいを見出したり、副業先で信頼されたりして自身のキャリアを磨くこともあれば、観光やスポーツなどの趣味を兼ねて副業を楽しむ、といった方もいるそうです。

鈴木さん「彼らに共通しているのは、お金を稼ぐために働くのではなく、地域貢献や本業と異なる経験を自分の成長の糧にすることに喜びを見出していること。さらに、優れた人材が副業で企業活動に参加することで、共に働く地方企業の社員も刺激を受け、仕事への意識が高まることもあるようです」。

取材協力: 鈴木秀逸(すずき・ひでとし)

1977年生まれ。全国放送のテレビディレクターとしてキャリアをスタート。生放送番組の企画演出、取材など20代を放送の最前線でOAに従事。培った演出ノウハウを武器に30代はPR会社を起業。9期で約50社の顧客企業のPR戦略を担当し2015年に事業売却。ITベンチャー企業の広報 兼 地方創生事業責任者を経て、2017年groovesに参画。Skill Shift事業の立ち上げ責任者。