スポーツパフォーマンス研究センターとは

さまざまな最新設備を備えたスポーツパフォーマンス研究センター。スポーツ科学の機器はセンター完成以前からあったが、それはあくまで研究室の中の話。同センターの特徴は、より実践的なスポーツのパフォーマンスが把握できることだと前田氏は説明する。各設備はアスリートの意見を取り入れて作られており、普段通りの力を発揮した結果が測定できるという。

鹿屋体育大学ならば、体育大生やコーチ陣の協力を仰ぎながら多数のデータを集め、パフォーマンスを上げるための新しいアイデアを研究できる。これこそがスポーツパフォーマンス研究センターの意義といえるだろう。

  • 前田氏はスポーツパフォーマンス研究センター長、日本スポーツパフォーマンス学会理事長を兼任

    前田氏はスポーツパフォーマンス研究センター長、日本スポーツパフォーマンス学会理事長を兼任

センターを生んだのは長年の研究成果と地域連携

このような施設が鹿屋体育大学に作られた理由は、国立大学であるという前提のほかに大きく2つあるという。

1つ目は、実戦的なスポーツパフォーマンス研究を行っていた体育大学であること。スポーツにおける実践活動に寄与する知見を伝えるウェブジャーナル「スポーツパフォーマンス研究」はもともと同大学が作っていたもの。

しかし、あまりにも規模が大きくなったため、2009年に「日本スポーツパフォーマンス学会」として独立し、現在に至る。このような長年の研究の蓄積が大きな理由となった。

  • 日本スポーツパフォーマンス学会が提供しているウェブジャーナル「スポーツパフォーマンス研究」

    日本スポーツパフォーマンス学会が提供しているウェブジャーナル「スポーツパフォーマンス研究」

2つ目は、観光協会(ホテル)、鹿屋市、大学の産・官・学が連携した「スポーツ合宿まちづくり推進事業」を進めていたこと。鹿屋体育大学では以前からさまざまな機器を利用できたが、屋外では天候に左右され、安定した測定が行えなかった。また一般的な体育館では本番環境と違い、アスリートが実力を出し切れなかった。

そのような状況があり、鹿屋市と大学がスポーツ合宿誘致のための専用施設を切望。市が建設費用の不足分をねん出してくれたのだ。

この施設は日本のアスリートに限らず、海外からも注目されている。2018年にはタイの女子バレーボールナショナルチームが合宿に訪れており、最先端の測定により、チーム力を大きく向上させたという。さらに地域住民のコミュニケーションの場としても活用され、昨年5月には市民参加型運動会を鹿屋市と共同開催した。

  • 鹿屋市民の交流の場としても活用されている 提供:鹿屋体育大学

    鹿屋市民の交流の場としても活用されている 提供:鹿屋体育大学

暗黙知から「エビデンス」への転換が体育大学の役割

2015年に完成してからというもの、数多くの知見を広めてきた「スポーツパフォーマンス研究センター」。最後に、スポーツパフォーマンス研究の第一人者である前田氏に、スポーツを科学することの意味を伺った。

前田「スポーツ界は、いままで科学的エビデンスの取られていない運動やトレーニングもあったという経緯があります。もちろん、そういった感覚的なことも暗黙知として"だいたい合っている"ものではありました。

しかし、例えば『Aさんのような人には、この投げ方とあの投げ方のどちらが良いのか?』という1つひとつのエビデンスをはっきりさせる役割が、体育大学にはあると思っています。これから2回目の夏季オリンピックが日本で行われますが、その後は確かなエビデンスをベースとした運動やトレーニングがもっともっと広がっていくでしょう。

それが簡単に検索で共有できて、現場のコーチが子供たちに教えられ、実践できるような環境が整えば、さらにクオリティの高い、スポーツ立国としての日本ができあがっていくのではないかと思います」。