いよいよ、来年に迫った2020年の東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会。これから外国人や身体の不自由な方々など、手助けを必要とする大勢の人々が東京を訪れる。いざ、彼らが助けを必要とする場面に直面した際、あなたは適切にサポートすることができるだろうか?

そうした問題に備えて、渋谷区では今、東京2020大会に向けた"街をあげてのおもてなし"に取り組んでいる。その内容はどのようなものなのか? 渋谷区オリンピック・パラリンピック推進課の職員の方々に話を聞いてきた。

  • 2020年、渋谷が"おもてなしの街"に生まれ変わる! オリパラで繋ぐ人と人の輪

    東京2020大会に向けた渋谷区の取り組みとは?

東京2020大会の来訪者すべてに"おもてなし"を

「東京体育館」と「国立代々木競技場」を有する渋谷区では、オリンピック競技大会の「卓球」「ハンドボール」、パラリンピック競技大会の「ウィルチェアーラグビー」「バドミントン」「卓球」が行われる。

そのため、区の取り組みとして日本代表選手への「練習会場の提供」をはじめ、競技の魅力に触れてもらうための「オリンピック・パラリンピック競技リアル観戦」、保育園、幼稚園、小学校、放課後クラブ、地域事業などでのパラリンピックPR「紙芝居」、公共施設壁面への「アート」、「ワークショップ」、「パラリンピック文化プログラム」……などなど、東京2020大会に向けた多岐にわたる推進事業を実施中だ。

中でも、特筆すべきが「おもてなし事業」。「渋谷区では、東京2020大会の開催にあたり、"ちがいをちからに変える街。"という区の基本構想をもとに『競技会場を満員にして選手を応援、おもてなしする』、また『来訪者を笑顔でおもてなし』というミッションを掲げています。この『おもてなし事業』もその一環で、区民の皆様に"おもてなしのスキルアップ"をしていただき、区内のどこに行っても笑顔でおもてなしを受けられることを目指した活動です」と推進課の職員は話す。

ここからは、その"街をあげてのおもてなし"を実現すべく、同区が独自に実施している様々なテーマの「おもてなし講座」について見ていきたい。

街として、どう"おもてなし"をしたらいいのか?

"街としてのおもてなし"をテーマにした講座では、過去に世界各国で行われたオリンピック・パラリンピックを観戦してきた講師たちが登壇し、オリンピックと街の関係性、シティドレッシング、そして2020年に渋谷区ができるおもてなしとは何か、が語られた。

印象的だったのは"応援方法"だったそう。いざ大会が始まればと、つい日本の選手ばかり応援してしまいそうになるが、オリンピック・パラリンピックには国民性や文化も様々な多国の選手・応援団が訪れる。そこへの気配りを忘れないこともおもてなしのひとつなのだ。

  • 代表選手の応援でも"おもてなし"ができる

職員いわく「競技会場で応援をする際に、日本の国旗がプリントされた団扇などを持っていく方も多いかと思いますが、表面には日本の国旗、裏面には相手国の国旗にしておくと、相手国の応援の方々は"わたしたちの国も応援してくれているんだ"と嬉しい気持ちになるはずです。講座では、そういった街や団体をテーマにした"おもてなし"について語られました」。

選手は、どう"おもてなし"をしてほしいのか?

"応援する側"でなく、"応援される側"である代表選手たちの気持ちは、私たちにはなかなかわからない。どのように接してもらったり、声をかけてもらったりすると嬉しいのだろうか。そんな"選手とおもてなし"をテーマに、日本代表選手たちの意見が聞ける講座も好評だった話す。

「冬季パラリンピックに5大会連続で出場した元日本代表の大日方邦子さんのお話が特に反響が大きかったです。どのように接してもらえたら嬉しいかという問いに対する答えは、『目をそらさないでほしい』というものでした。どう接していいかわからずに目をそらされることも多いそうなのですが、そうではなく、きちんと向き合ってもらえるのが何より嬉しいとおっしゃっていました」。

一人ひとりが、どう"おもてなし"をしたらいいのか?

区内の各エリアで開催されているのが、"私たち一人ひとりとおもてなし"をテーマにした講座の数々。大きく「障害者へのおもてなし」「英会話でおもてなし」「外国人旅行者へのおもてなし」の3つに分かれており、区民はセットで受講できるという。

講座には、すべて専門的な知識を持った講師の方々が登壇し、受講者の参加型で進行する。外国人講師との英会話をはじめ、車いすの方々への手助けの方法、コミュニケーションに便利なスマホアプリの使い方……などなど、いずれも座学だけでなく、明日から使える"おもてなしスキル"を磨くことができるのだ。

  • 外国人講師を迎えて学ぶ「英会話でのおもてなし」

  • 「外国人旅行者へのおもてなし」をテーマに、外国の文化などが学べる講座

「参加者の方々からは、『外国の方が身近に感じられました』『身体の不自由な方々へのきちんとしたサポートが学べてよかった』など、さまざまな好意的なご意見をいただきました。手助けをしたい気持ちはあるけれど、わからないから声をかけられない――という人も多いかと思いますが、そこから一歩を踏み出すための学びに繋がっているのは嬉しいですね」。

これから「東京2020大会」を経験する、私たちがすべきこと

渋谷区が取り組む「おもてなし講座」には、区民ならずとも開催国の私たちが大切にすべき"心"が詰まっている。東京2020大会に限らず、街で困っている人を見かけたときにスムーズなサポートができるよう、ここまで見てきた"おもてなし"について学んでみるといいだろう。これについては渋谷区の職員の方々も想っていることであり、ぜひ東京2020大会以降も"おもてなし"を継続してほしいと語っていた。

「渋谷区には『区独自のボランティア制度』があります。もちろん、渋谷区のオリンピック・パラリンピック推進事業などのサポート活動も行いますが、大切なのは継続だと考えています。この東京2020大会がきっかけでボランティアに興味を持っていただいた方々には、それ以降の2025年も2030年もその先も、ぜひ継続して活動していただきたい。それによって"おもてなし"の心が広がり、渋谷が"優しさに溢れた街"になると嬉しいですね」。

  • "おもてなし"を通じた活動が、よりよい街づくりに繋がっていく

いよいよ来年に迫った、東京オリンピック・パラリンピック。国をあげての一大競技大会とあって、誰もが選手たちの活躍に胸を高ぶらせているに違いない。しかし、その陰には大会を支える大勢の人々がいること、またそれは私たち一人ひとりも例外ではないということ。今一度、それにも目を向けてみるのも大切だ。