手塩にかけて育てているつもりなのに、まったく若手社員が成長してくれず、ある日突然、いとも簡単に退職してしまう――多くの企業が、イマドキの若手の教育方法に頭を悩ませています。

"育たない""続かない"と嘆いて、「だから今のゆとり世代は……」などと短絡的に考えてしまいがちですが、でも、ちょっと待ってください。あなたがかけた手塩は、果たして本当に正しかったのでしょうか? 新人が成長できないのは、もしかすると上司や教育担当自身にも問題があるのかもしれませんよ。

  • 新人をうまく育成できていますか?(写真:マイナビニュース)

    新人をうまく育成できていますか?

仕事の難易度が上がっている

新人教育といえば、マナー研修や座学なども用意している企業もありますが、具体的な実務を覚えさせるとなると、先輩社員をOJTの教育担当として配置するケースが多くなっています。

OJT【On-The-Job Training】は実際の職務現場において、「業務を通して行う教育」として一般化しています。しかし、特に古い体質の企業では「背中を見ろ」「横で盗め」的な指導に陥ってしまいがちです。

「現状では新人育成担当を指名して『後はよろしく!』と先輩社員任せにしている企業も多い。それでは指導者によってブレが生じてしまいますよね」

そう語るのはTOP営業として数々の実績を上げ、現在は数多くの企業の営業組織強化等に携わるリクルートマネジメントソリューションズ エグゼクティブコンサルタントの的場正人さん。闇雲なOJTは、現在、企業が置かれた実態に即していないと警鐘を鳴らしています。

的場「昨今、お客様の要望が多様化・複雑化しており、"正解がない仕事"に挑む場面が増えています。しかも、若手に任せられるような基礎的な業務はアウトソーシング、機械化されており、残っているのは社内でも優秀な人材でないと回せないような高難度の仕事ばかり。新人に簡単に任せられるような仕事が少なくなっています。

結果的に、誰でもできるコピー取りのような仕事しか任せず"ぬるすぎて育たない"ケースと、高難度の仕事を思いきって任せるものの、上司・先輩も忙しくて関われず"熱すぎて育たない"ケースの二極化が進んでいます。新人が成長するのに適した仕事の任せ方は、仕事内容、任せ方、関わり方を、かなり考えなくてはならない時代になっているのです」。

  • リクルートマネジメントソリューションズ エグゼクティブコンサルタント 的場正人さん

    リクルートマネジメントソリューションズ エグゼクティブコンサルタント 的場正人さん

イマドキ世代の特性を知ること

一方、イマドキの新人・若手世代は、失敗や否定を恐れる、答えのない仕事を嫌がるといった傾向があるそうです。豊かな時代に育ち、困難・葛藤・軋轢に向き合う経験は昔のようには積みづらくなっています。きっと育成担当の方たちは、新人と接していて実感している部分ではないでしょうか。

正解が簡単に見つからない仕事、困難・葛藤・軋轢の多い仕事に、困難・葛藤・軋轢に向き合う経験が不足している世代が挑むのですから、ギャップが生じるのは当然のことです。

ただ、これは新人の力が低いわけではありません。経験不足なだけ。経験不足による問題は、経験を積んで学ぶことで解決できる。一方、顧客への貢献欲求や正解を探す力は非常に高い傾向があります。それを生かせば、若手社員が活躍できる会社が作れるはずだそう。

「嘆く前にまずは新人に歩み寄って、理解を深めていくこと、対話を重ねていくことから始めてみましょう」と的場さんは言います。

こうした問題を解決するべく、「若手社員の把握」「若手社員が育つ環境づくり」「若手社員の育成方法」「組織全体で育成のPDCAをまわすしくみ」の4ポイントからの改善策を的場さんは提示しています。

若手を理解して、育つ環境を作り、適切な育て方を取り入れ、組織全体で育成のPDCAをまわしていくというわけです。

指導を組織的に設計

まずは「若手社員の把握」。目に見える結果や行動だけで判断をするのではなく、なぜそのような行動をしたのか、その背景にある若手の「ものの見方」を浮き彫りにしていく対話が大切だそう。大切なことは、自分が育った時代の経験や価値観を相手に押し付けるのではなく、相手が育ってきた時代の経験や価値観を理解することです。

的場「年の近い先輩をつけているのならば世代間ギャップは大きくないかもしれませんが、世代が離れた先輩社員が教育担当の場合は、世代間による価値観ギャップが大きくなりがち。新人の考え方を知れば、おのずと『若手社員の育成方法』も確立されていくでしょう」。

「若手社員が育つ環境づくり」「組織全体で育成のPDCAをまわすしくみ」は会社全体で取り組むべき課題です。例えば、漠然としがちな"一人前像"。どういう項目を、いつ、どんな形でクリアすれば一人前になるのか、組織として明確に定義すれば、おのずと育て方も見えてきます。

  • 育成の構造不況 提供:リクルートマネジメントソリューションズ

    育成の構造不況 提供:リクルートマネジメントソリューションズ

仕事の任せ方も闇雲に行うのではなく、本人の成長に合わせて柔軟に変化させていくべし。的場さんいわく、「1年目のゴール」「2年目のゴール」などステップゴールの設定と成長段階に合わせた"任せる仕事の設計"が重要となってくるのです。

また、これからの営業組織は、"売る力"から"提供価値を磨く力"がより求められるようになります。そのためには、一人ひとりが様々な創意・工夫を行うと共に、上手くいったやり方を、チームで共有し、アイディアを出し合う『学び合い』の組織づくりが重要になってくるそうです。

しかし、これは企業風土によって難易度が異なってきます。トップダウンの企業では、下から上になかなかモノが申せないので、自由で活発な意見交換がおこりづらい傾向があります。また、数字第一主義あるいは社内競争が激しい会社では、ナレッジシェアがおこりにくい傾向があります。

育成についても大切なことは「学び合い」です。業績目標と同じように、育成についても進捗を見える化し、各育成者がそれぞれ創意・工夫を行い、上手くいったやり方を学び合い、横展開する。困ったことは共有し、育成者間でアドバイスをし合う、そんな組織づくりが必要だそうです。

いずれにせよ、組織を上げて本気で教育に臨まなければ、いくら待っても若手は育ちにくいでしょう。

若手が育つ組織は「企業の強み」

的場「ただ、世の中を見渡しても『組織全体で育成のPDCAをまわす』まで到達している企業はほんの一握り。イマドキの若手を育てる力が、今後の社会の競争優位性を生み出すはずです」。

今や商品・サービス自体の差はほとんどない、あったとしてもすぐに追いつかれるマーケットが増えています。一方、イマドキの若手を育てることは決して簡単ではありませんが、だからこそ若手が育つ組織をつくりあげることが出来れば、一朝一夕では真似できない競争優位性となるはずです。

が、組織を動かすとなると、ちょっと難しいなぁ……と躊躇する先輩もいるでしょう。ならば自分のチームだけでも、若手の一人ひとりの声に傾聴して、それを育成に反映させていくだけでも変化のきっかけができるそうです。

的場「育成方法などはチーム内で自在に作れるはず。自分のチームがロールモデルとなって、組織全体を変えていくという視点を持ってみましょう」。

取材協力

的場正人
リクルートマネジメントソリューションズ 
エグゼクティブコンサルタント
リクルートマネジメントソリューションズにて営業MVPを連続受賞の後、営業マネジャーとしても最優秀営業課賞を連続受賞。その経験をもとに、企業の営業力強化のコンサルティングに従事している。『リクルートの営業コンサルが教える 自分で動く若手営業の育てかた』(日本経済新聞出版社)、『リクルートのトップ営業が後輩に伝えていること』(日本経済新聞出版社)といった著作がある。