国内4大メーカーが圧倒的なシェアを握る日本の二輪車市場。海外メーカーはいわば“オマケ”的な存在で、一部の根強い愛好家の乗り物とか、ファッションでいうところのハイブランドといったようなイメージが一般的なのではないだろうか。そんな中、日本で勢力を伸ばしているのがトライアンフだ。

トライアンフは1902年にイギリスで誕生したブランドで、現存する世界最古の二輪メーカーに数えられる。同社が日本で成長を続けられる理由について、新製品発表会に登場したトライアンフモーターサイクルズジャパンの野田一夫代表取締役社長に聞いてきた。

トライアンフの「ボンネビル」シリーズで最もモダンな「Street Twin」の新型モデルが登場

エンジン性能が大型アップデートされた2019年の新モデル

トライアンフモーターサイクルズジャパンは、12月15日に2台の2019年モデルを発売した。同社で最も成功を収めたモダンクラシックバイクであり、販売戦略上も重要なモデルという位置付けの「New Street Twin」と、先代モデルに比べオフロード性能が向上した「New Street Scrambler」だ。

右側高めを取り回す2本のエキゾーストパイプが印象的な「New Street Scrambler」

大幅な改良を経て登場した新型モデルだが、中でも両車に共通するエンジンの進化には目を見張るものがある。搭載するのは900ccの高トルク「Bonnevileエンジン」で、最高出力は先代モデルの55PSから65PSへと大幅に向上。特に3,500~5,500回転での出力が高まっているため、その違いは乗った瞬間に感じられるという。さらに、回転数は従来型に比べプラス500回転の7,500rpmに増加している。

先代モデルと比べて18%の出力アップを実現した水冷SOHC並列2気筒8バルブ270°クランクエンジン

同様のアップデートが施された両車だが、吸排気システムの違いからそれぞれ異なる特徴が表れているのも面白い。「New Street Twin」はトライアンフ伝統のブリティッシュパラレルツインのフィーリングが向上。回せば回すほどに、フレキシブルで伸びのある爽快な走りが楽しめる。一方の「New Street Scrambler」は、大音量のスクランブラーサウンドが体に響きわたるような迫力ある走りが特徴だそうだ。

エンジンの出力強化に伴い各パーツも見直した。フロントブレーキには新たにブレンボ製の4ポットキャリパーを採用。フロントフォークはカートリッジ式フロントフォークに変更するなど足回りを強化してある

価格は「NEW Street Twin」が105万600円(税込)からで、「New Street Scrambler」が128万100円(税込)からとなっている。価格の上昇が最低限に抑えられているのは、同社がこの2モデルをエントリーモデルと位置付けているため。トライアンフ入門車として幅広いユーザーに訴求し、いずれは1,200ccなどの他モデルに移行する足がかりとしてもらう戦略だ。

トライアンフの躍進を支える3本の柱

グローバルで見たトライアンフの販売台数は、2007年から2017年までの10年間で160%も伸びている。日本での登録実績は2017年に初めて1,800台を超え、最終的には1,876台を達成した。近年最も成長したブランドの1つといえる。

リーマンショックなどの世界的な大不況の中でもトライアンフの販売台数は堅調に推移してきた

新製品発表会に登壇したトライアンフモーターサイクルズジャパンの野田社長は、同社が日本で成功している秘訣について「ブランドの浸透」「販売店舗の改変」「新商品攻勢」という3つのポイントをあげた。

まず、ブランドの浸透に大きく関係したのがハリウッド映画への登場だ。トライアンフのバイクといえば、古くはスティーブ・マックイーンの代表作の1つ『大脱走』のイメージが強いが、近年も『アントマン』『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』『オーシャンズ8』といった作品で活躍している。いずれも話題作であったため、知らないうちにその姿を目にしていた人も多いはずだ。

販売店舗の改変については、「せっかく良いものを買っても、店舗が汚ければ満足度は決して高くはならない」との信念に基づき、かなり力を入れて推し進めているという。2017年に東京都・吉祥寺にオープンした「トライアンフ東京」を例に取れば、1階は黒と白を基調にしたお洒落なデザインで、240㎡を超えるゆったりとした店内にバイクが展示してある。2階は木のぬくもりを感じながらリラックスできるスペースとなっている。

最後に、野田社長が最も強調していたのが新商品攻勢だ。トライアンフは2016年にスタートした「第1弾商品大攻勢」で27モデルを市場に投入。大幅に商品を増やした背景としては、競合ブランドに比べ同社のモデル数が少なかったという事実も指摘できるが、闇雲にリリースしたわけでもないことは、その商品構成を見れば分かる。

以前は長距離走行に適したツアラーなども展開していたトライアンフだが、自社のキャラクターには合わないと判断し、第1弾新商品攻勢では強みとするクラシックモデル路線へと大きく舵を切った。当初は900ccだけだったラインアップも、現在は1,200ccを生産するなど選択肢の幅を広げている。

また、野田氏は今回の2モデルを皮切りに、2019年にかけて「第2弾商品大攻勢」をかけることを発表した。月間1台以上という他メーカーには真似できないペースで新モデルを投入し、さらなる躍進を期する考えだ。

2019年6月頃には“一目見てすごい”と思わせる隠し玉を用意しているとのこと。今後の動向から目が離せない

支払われた対価に対して最大限のリターンを提供

現在、日本の二輪業界では、若者のバイク離れによりユーザーが減少していて、バイク乗りの高齢化も進んでいる。それに伴い、国内販売数も全体的に右肩下がりという厳しい状況だ。こうした現状をどう捉えているか野田社長に聞いてみると、その認識は「ある意味で正しく、ある意味では間違っている」との答えが返ってきた。

「全体でいえば確かに減少傾向にありますが、そのメインはスクーターなどの実用の部分なんです。趣味性の高い大型バイク自体はそんなに販売台数が減っていなくて、年によっては増加しています。トライアンフは『移動体』という部分よりも、趣味性に特化しているというところが、まず1つの大きな成功要因ですね」

発表会場には同社がインスピレーションパッケージと呼ぶカスタム心をくすぐるイメージを展示。こちらはトライアンフのデザイナーによるセレクトだ

確かに、ほぼ日本専用のガラパゴスアイテムといえる50ccバイク(原付一種)は、風前の灯とも思えるほど厳しい状況にある。2020年から始まる次期排ガス規制に対応するためのコスト増や、世界基準の最低排気量125cc以下(原付二種)への移行、軽四輪や電動アシスト自転車へのシフトなどが背景だ。

それに対し、250ccを超える趣味性の高いバイクの需要については、ある程度維持できているというのが野田社長の考えだ。とはいえ、こうした傾向はすべての二輪メーカーに対していえること。その中で、特にトライアンフが成長を続けている理由はどのあたりにあるのだろうか。

「トライアンフが販売台数を伸ばしている理由は、一貫性があって良いものを作り続けているからだと思います。これはオーナー企業だからできることですが、“バカ真面目”というか、ちゃんと良いものをしっかりと作ろうという思いが大きい。時には、ちょっとやりすぎなんじゃないかと思うこともあるほどです」

“For the RIDE”をブランドテーマに掲げるトライアンフのバイク開発は、細かな部分に至るまで一切の妥協がない。そんな同社が月1台以上のペースで新モデルを投入することについて、野田社長は「他メーカーにはできない」と胸を張った

ホンダ、カサワキ、ヤマハ、スズキという世界の4大バイクメーカーを有する日本には、カタログスペックで優れた多くのバイクが乗り継がれてきた歴史があり、日本人のバイクに対する目も肥えている。そんな日本で、厚めに設計したハンドル径や手塗りしたピンストライプの塗装など、細部にまで凝ったトライアンフのバイクづくりが“本物を求める欲求”にマッチした。これが、同社が日本で成功している要因なのではないだろうか。

趣味性の高い大型バイクであるがゆえに、ユーザーは出した対価に対して相応の意味や価値を見出したいと考える。それらを最大化していくことこそ、トライアンフの差別化戦略なのだろう。

(安藤康之)