12月14日より公開されている映画『ドラゴンボール超 ブロリー』が、14・15・16日の3日間で82万人以上を動員して10億5000万円以上の興行収入となり、動員数・興行収入ともに2位以下に大差をつけて"ぶっちぎり"のNo.1に。さらに、14・15日公開作品の「ぴあ映画初日満足度ランキング」でも1位となり、その勢いはとどまりそうにない。
かつて『ドラゴンボールZ 燃えつきろ!!熱戦・烈戦・超激戦』(1993年)、『ドラゴンボールZ 危険なふたり!超戦士はねむれない』(1994年)、『ドラゴンボールZ 超戦士撃破!! 勝つのはオレだ』(1994年)で孫悟空たちを苦しめた強敵・ブロリーと再び激突し、激戦を繰り広げる本作。TVシリーズ『ドラゴンボール超』に続くエピソードでありながら、往年のファンにとってもたまらない、とびっきりの内容となっている。圧倒的な熱量をもつ作品の制作秘話を、長峯達也監督が語ってくれた。
――映画を拝見していて、「今回は今までとちょっと違うな……」と感じたのですが、企画にあたり、特に意識されていたところはあったのでしょうか。
違うものにするというよりも、逆に"ドラゴンボールにする"ことに特化したという感じです。鳥山(明)先生が一から十までシナリオを作ってくださったので、僕は演出をする側として余計なものを入れず、「ドラゴンボール」に純化しようという思いでやっています。
キャラクターデザインについても、鳥山先生の絵をそのまま動かすつもりで取り組みました。キャラクターに関しても、悟空のキャラクター、ベジータのキャラクターといったそれぞれの"キャラクターらしさ"を慎重に描いています。"ドラゴンボールを今のアニメの技術で作る"というテーマもあったのですが、鳥山先生のセンスは未だに現役なので、それをそのままにやりましたというところが、今までと違いを感じられた部分なのかもしれません。
こちらで違うものにしようとか、変えてみようってところはなかったんです。今回は国内で制作していて、それは海外がいいとか悪いという話ではないのですが、「ドラゴンボール」をよく知っている、熱い部分を隅々までわかる人たちで作ることができる体制だったので、フィルムからその熱量が出ているのではないでしょうか。
――今回登場する強敵・ブロリーについて、監督にとってはどのような思い入れのあるキャラクターでしょう。
ブロリーは、僕の師匠である山内重保さんが担当した映画に登場したキャラクターです。山内さんはすごく偉大な方ですから、「どうするんだ、オレ!」って(笑)。当時何度も観たのですが、またアクションなどを研究するために観て、エフェクトであったり、パワーアップするところについても、ブロリーのブロリーたるエッセンスを入れるように心がけました。映画では、ブロリーを観に来てくださる人もいるわけですから、ちゃんとブロリーを見せなきゃと、頑張ってもらいました。
――描き方の面で、過去作と比べて意識されたところはありますか?
今の技術力を投入することと、画面をリッチにするというところです。昔のセルをオマージュしたわけではないのですが、絵の質感を上げるために、線に処理を入れてるんですよ。その方向性というのが、昔のセルのファックス線をちょっと意識しました。濃淡というか強弱がつきやすいような処理を入れることで、絵の質感をちょっと上げて、アニメーターの絵がそのまま動くような絵作りですね。
――内容についても、ストーリーもかなりボリュームがあって、ぎゅっと詰まった印象がありました。
そうですね。ストーリもありますし、アニメーターも見せたいカットがありますから、薄皮を剥ぐように100分にしていきました。みんなでこの「ドラゴンボール」の100分を奪い合った感じです。
バトルも、バトルをするためのバトルではないんですよ。鳥山先生が書いたシナリオを成立させるためのバトルなんです。最後の結末もそうなんですけれど、「すごい」って言葉が出てくるのであれば、その言葉以上にすごくないといけない。それを言葉で説明してしまうとイヤですよね。
「すごい」と言ったことに対して、見てる人がストンと納得するような映像と展開を作るためにバトルをするんです。鳥山先生のプロットを成立させるにはこれくらいのバトルをやらないと、という。バトルやるのって大変なんですよ。右手も、『ドラゴンボール超』でバトルを描きすぎてぶっ壊れた感じですね(笑)。バトルのためのバトルはやる意味がないんです。やっぱりドラマとかストーリーのためにバトル描写があって、なにもなくてただバトルだけをやっていると、観ている人がわからないと思うんですね。
――監督が、ここは観てほしいというのはどんなところでしょう。
音楽と映像のシンクロを楽しんでいただきたいですね。あとは悟空を演じる野沢雅子さんとベジータ役の堀川りょうさんの掛け合い。でも、あの掛け合いは常に楽しいんですよね。だから全部面白いから見てください(笑)。
――バトルの演出では、カメラワークがブロリー目線で悟空を攻めたりなど、とても新鮮に感じました。
自分の好みでやっているんですけれど、劇中でいつも我々は戦いを普通に見ているけれど、悟空を相手にしたらどうなるかなと思ってあのカットを作りました。よく考えたら、彼らはマッハで動いてるじゃないですか。そんな状況下で、技を出したり、攻撃をかわしたりするのはどんな光景なんだろうって。個人的な体験で、ヨーロッパから飛行機で帰ってくる時に、すごい速度で飛んでいる中で、十字になる形で向こうから飛行機が来たんです。そのときに、空中の戦闘ってこういうことなんだなという感覚があって、ちょっとやってみようかなと。うまくいってるかどうかよくわかならないですけれどね。
――エネルギー弾の打ち方もまた違うところもありました。
あれは撮影の人たちが、「このかめはめ波に命をかける!」とか言っていたんです。光らせたりして。こちらは「命かけちゃうんだ? ありがとうございます」みたいな感じでした(笑)。
――戦闘シーンの中で、リングネームのコールのような演出も監督のアイデアだったのですか?
そうですね。バトルの音楽って似てきてしまうので、変化をつけたくて入れてみました。東映アニメーションは公認していないんですけれど、『ドラゴンボール超』のTVシリーズの最後の方って、メキシコとかでパブリックビューイングされていたんですよね。それが「ジレンVS悟空」みたいにプロレスを観戦する感じだったんです。これも東映アニメーションは認めてないですけれど(笑)、パブリックビューイングの入り口に、向こうで勝手に作った「ジレンVS悟空」のポスターがあるんですよ。そういうのを見ていると、リングコールでもするといいのかなと思っていました。昔から他の作品でやろうかなと、ネタとして持っていたものではあるんですけれどね。
映画は僕としては、3回くらい観てもらうつもりで作っています。2回目から見方がわかって、それからまた観ると楽しめるんじゃないかなって。戦闘もスピードが速いですから。バトルのシーンが終わった後、野沢さんに「速すぎる」って言われたんですけれど、それは自分でやっておられますからね(笑)。3回観ていただければ、とても楽しんでいただけると思います。10回でもいいんですけど(笑)。
――今回、長峯さんが映画の監督をつとめることになったきっかけはあったのでしょうか。
いろんなところでインタビューを受けるのですが、みなさん監督というものにストーリー性を求められるんです。でも普通に仕事としての、業務命令です(笑)。個人の思い入れを込めすぎるのもいいとは思わないのですが、大好きな「ドラゴンボール」がすごいとうれしいじゃないですか。結局それだけなんですよね。
――当時アニメを観ていて、「ドラゴンボール」で宇宙の広さを感じたところがあったのですが、本作でもそのスケール感を感じました。
そうですね、スケールは最初から言われました。最初は「スケール感を出してほしい」と言われていたんですけれど、あとで鳥山先生が「スペース感」という言葉を出してくれたんです。それで納得がいって、最初からそっち言ってくれよって(笑)。"いかにこの画面以外にその周りを感じさせるか"というところなんですけど、自分自身は画面を作っている立場なので検証できないんですよね。なので、そういうふうに思ってもらえたのであれば、成功なのかなと思います。
――最後にファンにメッセージをいただけますでしょうか。
とにかくみんなを喜ばせたいというのが一番で、みんな「ドラゴンボール」で楽しもうよというスタンスで作りました。鳥山先生以外の考えが入ると、雑音とか雑味になってしまうんですよね。だから僕も、こうやって入り込むんだけど、雑味にならないことを意識しました。なにかをやろうとしてしまうと、すぐ画面に出てきちゃう。
でもそこは、「みんなの『ドラゴンボール』を守らなきゃ!」みたいな部分もありました(笑)。それはあくまで僕の気持ちなのでどうでもいいんですけれども、とにかく楽しんでほしい! 本当に作っている人たちがみんなすごい熱意をもって、「ドラゴンボール」が大好きで作ってるので、その熱意がたぶんフィルムから出ていると思います。それを感じるためにも、劇場で観ていただけると、たぶん小さい画面で観るよりも大きい画面で観た方が、より熱意を感じられると思いますので、どうぞ劇場においでください!
映画『ドラゴンボール超 ブロリー』は、現在公開中。