現在、テレビ朝日系全国ネットで放送中の『仮面ライダージオウ』(2018年)は平成仮面ライダーシリーズ20作目を記念した連続テレビドラマである。「王様になる」という夢を持つ高校生・常磐ソウゴ(演:奥野壮)は、未来から来たという預言者ウォズ(演:渡邊圭祐)が差し出したベルト「ジクウドライバー」によって仮面ライダージオウに変身した。2000年の『仮面ライダークウガ』から2017年の『仮面ライダービルド』まで、19もの「平成仮面ライダー」の"時代"をめぐるジオウは、歴代の仮面ライダーから「ライドウォッチ」を受け取り、仮面ライダーの力を宿したライドアーマーを身にまとう。果たしてジオウは50年後の未来において「魔王」ことオーマジオウに変貌するのか、それとも現在のソウゴが目指しているとおりの「よい魔王」になるのだろうか……。

ビークルモードから人型のロボモードに変形する「タイムマジーン」に乗って過去や未来に飛ぶことのできる仮面ライダージオウと同じく、かつて「時の列車」と呼ばれるデンライナーに乗ってさまざまな時間を行き来し、正しい"時の流れ"と"人々の記憶"を守るために未来からの侵略者と戦った仮面ライダーがいた。2018年12月22日より公開される映画『平成仮面ライダー20作記念 仮面ライダー平成ジェネレーションズFOREVER』に向け、平成仮面ライダーシリーズ19作品を振り返る企画の第8回では、「シリーズ初の"電車"に乗る仮面ライダー」として大いに注目を集めた『仮面ライダー電王』(2007年)をご紹介してみよう。

『仮面ライダー電王』は、2007(平成19)年1月28日から2008(平成20)年1月20日まで、テレビ朝日系で全49話を放送した連続テレビドラマである。平成仮面ライダーシリーズの7作目にあたる前作『仮面ライダーカブト』(2006年)が「仮面ライダーとはこういうものだ」という"王道"のスタイルを目指して作られたのに対し、本作ではその真逆ともいえる、今までにない要素を詰め込んだ「挑戦的」な作品となっている。

『電王』というネーミングが示すとおり、本作のヒーローデザイン、およびメインの乗り物には「電車」がモチーフとして採用されている。当初の番組宣伝では「仮面ライダー史上初、電車に乗る仮面ライダー」というキャッチーなフレーズがつけられ、送り手の期待どおり多くの人々に強いインパクトを与えた。詳細を知らず、ただ「今度の仮面ライダーはバイクではなく電車に乗る」という情報だけを聞いた人の中には、「電車ではバイクと違って、怪人が暴れている現場に向かうまでに何回も乗り換えをしたり、定刻どおりに到着できなかったりする場合があると、仮面ライダーとしては大変なのではないか」などと、そそっかしい心配をする者もいたという。それだけ「仮面ライダー」と「電車」という組み合わせは斬新であり、放送開始前から各方面の注目度が高かったといえるだろう。

仮面ライダー電王に変身する野上良太郎(演:佐藤健)は、当初「仮面ライダー史上"最弱"の主人公」と呼ばれていたほど、およそヒーローになるとは思えない頼りない若者という印象だった。第1話の冒頭から、外で自転車に乗っているだけで通常では考えられないほどの不運(木の上に引っかかったり、ガラス瓶の破片を踏んでパンクしたり)に見舞われ続け、さらには自分から強く物事を言い出せない内向的な性格ゆえ、悪い連中に絡まれたりすることもひんぱんにあるという、なんとも観ていて気の毒としか思えないアンラッキーぶりが際立っていた。

物語は、そんな良太郎が道端に落ちていた奇妙なパスケースを拾ったところから、あらぬ方向へと転がり始める。良太郎が手にしたのは、時の列車デンライナーに乗車することのできるライダーパスであり、本来の持ち主はハナ(演:白鳥百合子/第33話より松元環季)という美少女だった。ハナは未来からやってきた怪人「イマジン」を追っているが、イマジンの中にはすでに人間と「契約」を交わし、過去の世界で大破壊を行うことによって未来の歴史を改変しようと企んでいた者がいた。そんな中、良太郎が歴史改変の影響を受けない特別な存在=特異点だと知ったハナは彼にベルトを装着させ、イマジンと戦う戦士「電王」への変身をうながした……。

『仮面ライダー電王』で特にユニークなのは、ヒーローの変身前・変身後の設定にある。世の中のあらゆるツキから見放されたかのように不幸な出来事ばかりふりかかり、何事にも消極的な良太郎だったが、赤い鬼のような姿をしたイマジン・モモタロス(声:関俊彦)が彼の身体に憑依したとたん顔つきが一変し、荒々しい態度で怒りっぽく、何よりも好き放題に暴れるのを好む性格に豹変してしまった。通常の良太郎が変身した電王は「プラットフォーム」と呼ばれる基本形態だが、もともと非力な良太郎ゆえにイマジンとは相手にならないほど弱かった。しかし、モモタロスが憑依した状態で変身した電王は「ソードフォーム」となり、頭部には桃を模した「電仮面」が装着され、万能武器「デンガッシャー」をソードモードに組み換えてイマジンと互角か、それ以上に戦うことができるのだ。性格面でモモタロスに圧倒されているかのように見える良太郎だが、その正義感、弱い者をいたわる優しさは誰よりも備えており、ここだけは曲げられないといった"芯の強さ"はモモタロスをも参らせるほどである。善悪の判断がつかないモモタロスの「力」が良太郎の強い「心」を得ることによって、電王というヒーローが作り上げられると言っていいだろう。

もともとモモタロスもイマジンなのだが、イマジンの本来の目的(人間と契約することで過去へ飛び、歴史を改変する)を忘れ去っており、敵も味方も関係なく、とにかくカッコよく大暴れしたいという思いで良太郎に憑依しているふしがある。人類にとって敵であるはずのイマジンが味方に回って"同族"と戦う、という本作の基本設定は、まさしく第1作『仮面ライダー』(1971年)と同じコンセプト(悪の軍団の"力"を使って正義のために戦うヒーロー)であり、奇をてらったように見える本作が、実に『仮面ライダー』の正統なる遺伝子を受け継いだ作品であることを示している。