波瀾万丈に富んだ濃密な生き様を次世代へ伝えていく意味

もっとも、自他ともに「熱い」と認める自身のキャラクターを、長友は半分封印するつもりだった。

「宇宙の話やら生きる意味などを圭佑と熱く話してきましたけど、それを若い選手たちにいきなりすると、おそらく引かれて終わってしまうと思うので。ちょっと距離感を測っています」

森保ジャパンに初めて合流した直後の長友は、苦笑いしながらこんな思いを明かしていた。しかし、我慢できたのも数日だけだった。新潟市内からさいたま市内へ移動した13日。選手だけで繰り出した焼肉決起集会を開催した直後に、長友は自身のインスタグラムにこんな文面を投稿している。

「僕の前の席は19歳冨安と22歳北川。32歳のおっさんは若い世代に話を合わせようと必死になるが、最終的に熱苦しい話を語り聞かせる。笑。はいはいと言ってくれるのが心地よくて。皆さんこんな上司、先輩にはならないように。笑」(原文のまま)

初めて日本代表に招集されてからちょうど10年。その間にFC東京から、セリエAのチェゼーナを介して名門インテル・ミラノへ移籍。最古参選手となりながら、出場機会を求めて今年1月末に移籍したトルコの強豪ガラタサライで輝きを取り戻し、サッカー人生で初めてとなるリーグ優勝も経験した。

「チャンスがあるのならば、とにかくビッグクラブへ移籍してほしいですね。よりレベルの高い選手たちと一緒にプレーすることで、さらに見えてくるものもある。厳しいサポーターやメディアの下で勝負することを、彼らにも経験してほしい。技術だけでなく、精神的な部分でも必ず学ぶものがあるので」

7年間プレーしたインテル・ミラノ時代を引き合いに出しながら、波瀾万丈に富んだ生き様を遠慮することなく次世代へ伝えようと決めた。昨夏からプレーするオランダからのステップアップを目指す東京オリンピック世代の20歳で、ウルグアイ戦で待望の初ゴールを決めた堂安は長友を質問攻めにしたという。

堂安だけではない。左サイドバックで先発フル出場したウルグアイ戦で3試合連続ゴールを決めた南野、これでもかと個人技で仕掛け続け、長友をして「ドリブルお化け」と言わしめた中島のパフォーマンスを後方から見続けながら、3度のワールドカップを知る男は「このチームは強くなる」と確信を抱いたと笑う。

「気持ちがいいよね。イケイケだし、恐れることなく伸び伸びと楽しんでプレーしているから。テンポも速いし、おっさんはついていくのが必死でした。これだけ技術があって、上手い若手たちを見ていると、こちらは体を張らなかったら次からはもう呼ばれないと思って熱いプレーをしました。所属クラブで試合に出られないとか、パフォーマンスが悪くなってしまったら『長友、さようなら』となるはずなので」

タイミングを見ながら周囲をいじり、世代間を融合させる潤滑油的な存在として。積み重ねてきた経験の伝承者として。そして、32歳にして衰えるどころか進化と成長を続ける鉄人として。まさに「一人三役」を担う長友が、森保ジャパンのなかで早くも絶対的な居場所を築きつつある。

■筆者プロフィール
藤江直人(ふじえ なおと)
日本代表やJリーグなどのサッカーをメインとして、各種スポーツを鋭意取材中のフリーランスのノンフィクションライター。1964年、東京都生まれ。早稲田大学第一文学部卒。スポーツ新聞記者時代は日本リーグ時代からカバーしたサッカーをはじめ、バルセロナ、アトランタの両夏季五輪、米ニューヨーク駐在員としてMLBを中心とするアメリカスポーツを幅広く取材。スポーツ雑誌編集などを経て2007年に独立し、現在に至る。Twitterのアカウントは「@GammoGooGoo」。