外為どっとコム総合研究所の神田卓也氏が2018年8月の為替相場レビューと、今後注目の経済指標やイベントをもとにした今後の相場展望をお届けする。

【ユーロ/円 8月の推移】

8月のユーロ/円相場は124.904~131.102円のレンジで推移し、月間の終値ベースでは約1.4%の下落(ユーロ安・円高)となった。トルコ・ショックの余波や、イタリアの財政懸念によってユーロ売りが先行。15日には5月下旬以来約2カ月半ぶりの安値となる124.90円台まで売り込まれた。

しかしその後は、トルコやイタリアに対する過度な不安が後退する中でV字回復を見せ、29日には月初に付けた高値に迫る130.80円台まで買い戻された。30日、31日と月末にかけて反落したものの、上旬と下旬で相場展開がここまで見事に逆転するケースは珍しいと言えるだろう。夏季休暇期間中の薄商いの中で一方向に値が振れやすかったと考えられる。

【ユーロ/円 9月の見通し】

9月はユーロ圏の各国で議会が再開するが、中でも注目はイタリア議会の動向だろう。6月に誕生した「五つ星運動」と「同盟」によるポピュリズム(大衆迎合主義)政権は、大幅な財政拡張を含んだ2019年度予算を議会に示し、10月には欧州連合(EU)に予算案を提出する見通しとなっている。その上で、財政赤字の国内総生産(GDP)比を3%以内に抑えるというEUの「財政ルール」には必ずしもこだわらない姿勢を示している。

こうした動きを見込んで同国の国債利回りが上昇しており、今後もユーロの重しになる場面がありそうだ。また、米政権が仕掛ける貿易戦争もユーロの重しとなりやすい。ただ、米欧の関税の応酬はユーロ圏の製造業の景況感にまだ大きな影響を及ぼしていない。9月21日に発表される独およびユーロ圏の9月製造業PMIにも注目しておきたい。

【9月のユーロ圏注目イベント】

  • 8月ユーロ/円は約1.4%下落でユーロ安・円高

執筆者プロフィール : 神田 卓也(かんだ たくや)

株式会社外為どっとコム総合研究所 取締役調査部長。1991年9月、4年半の証券会社勤務を経て株式会社メイタン・トラディションに入社。為替(ドル/円スポットデスク)を皮切りに、資金(デポジット)、金利デリバティブ等、各種金融商品の国際取引仲介業務を担当。その後、2009年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画し、為替相場・市場の調査に携わる。2011年12月より現職。現在、個人FX投資家に向けた為替情報の配信(デイリーレポート『外為トゥデイ』など)を主業務とする傍ら、相場動向などについて、WEB・新聞・雑誌・テレビ等にコメントを発信。Twitterアカウント:@kandaTakuya