トルコでクーデターが発生したのは、ちょうど2年前の7月15日だった。クーデターはわずか半日ほどで鎮圧された。そして延長が繰り返されてきた非常事態宣言は2年経ってようやく解除された。

クーデター鎮圧の直後に、エルドアン大統領が使ったフレーズを引用して「クーデターは『神の恵み』? トルコはどこに向かおうとしているのか」(2016年7月22日付)と寄稿した。

そこでの結論は、「エルドアン大統領がこの機会を利用して一段と基盤を固め、政治は表面上安定するかもしれない。しかし、大統領の専制政治が一段と強まるのであれば、外国の企業や投資家が積極的に長期投資に踏み切るか、大いに疑問だ」であった。そして、まさにそうした事態が現実となりつつある。

強大な権力を手中にしたエルドアン大統領

エルドアン大統領は、2017年4月に国民投票を行い、大統領制への移行を謳う憲法改正にメドをつけた。そして、1年以上前倒しした今年6月の大統領選挙で再選を果たし、正式に強大な権力を手中に収めた。

エルドアン大統領は積極的な財政出動を続け、2017年には7.4%の高い経済成長を実現した。しかし、その代償として、財政赤字のみならず経常赤字もが拡大した。そして、通貨リラは大幅に減価し、その影響もあってインフレが高進。それがさらにリラに下落圧力を加える悪循環に陥っている。

今年5月の消費者物価は前年比+15.4%と、15年ぶりの高い伸びとなった。中央銀行の目標は5%であり、±2%の許容範囲も大きく超えている。当然のことながら、中央銀行はインフレ抑制に動き、4月下旬から6月上旬には政策金利を3回、計5%引き上げて17.75%としている。

中央銀行に利下げ圧力、財務大臣に娘婿

ただし、エルドアン大統領は折に触れ中央銀行に利下げを促す圧力をかけている。選挙前には、「選挙後には金融政策に深く関与する」と宣言、実際に大統領に就任すると、中央銀行総裁の任命権を自らのものとした。今後、中央銀行が機動的に利上げを実施できるのか、これまで以上に疑問だろう。

また、エルドアン大統領が、金融市場の信任が厚かったシムシェキ副首相を閣外に追い出し、経済政策の司令塔となるべき財務大臣に自身の娘婿を据えたことも、金融市場ですこぶる評判が悪い。

IMFの支援が必要になるか

かかる状況下で、トルコリラ安が続けば、外貨建て債務を多く抱える企業の債務問題が一気に噴出しかねない状況だ。当然、トルコの金融システムにも大きな打撃となる可能性がある。政府の外貨準備が心許ないため、いずれ、IMFの支援が必要になるのではないかとの観測が根強くある。

ただ、強い緊縮策を求めるであろうIMFの支援を、エルドアン大統領が安易に受け入れるとは考えにくい。かつてアジア通貨危機に際して、IMFの支援を拒否してマレーシアが採った資本規制などをお手本にしようとするなら、外国人投資家にとってはさらに頭の痛い事態に発展するかもしれない。

「メルトダウン」、「ビッグ・クラッシュ」

最近、米国の複数の大手紙に、トルコに関して「メルトダウン」や「ビッグ・クラッシュ」といった刺激的な単語を含むタイトルの記事が掲載された。いずれも、トルコ経済の行く末を案ずるものだった。トルコが、ハイパーインフレに陥ったベネズエラの轍を踏もうとしているとの指摘すらある。

エルドアン大統領が我が道を行こうとすれば、ますます金融市場に背を向けることになるのではないか。改めて問いたい、トルコはどこへ向かおうとしているのだろうか。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクエア 市場調査部 チーフエコノミスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。

2012年9月、マネースクエア(M2J)入社。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」「市場調査部エクスプレス」「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。