幸せを誰かに預けることが生きる力を減退させる

——書籍の中で、「人生を主体的に生きる」と繰り返し書かれています。具体的にはどういうことですか?

自分がどう生きるのかを、社会や親に決めさせないという決心です。これが、働き方を自分で決めることに繋がっていきます。自分で考える必要がない、他人が決めた人生を生きることは楽です。世間がいう通りに「働かなくてはならない」と信じて働くことも、実は楽なことなんです。

——書籍にも、考えさせないための世間と考えることを放棄した人との「共犯関係」について書かれていましたね。

「働いて疲弊している」という存在価値を自分においている方が楽ですよね。世間のいう通り、一生懸命に働いて拘束されていれば良いんです。自分に責任はありません。

私が自分の幸せの分だけ働こうと決めて隠居生活に入ったとき、朝起きても何もすることがないことに気づきました。進むべき方向も答えも指示も、誰もしてくれないんです。一人で広大な砂漠みたいなところに一歩踏み出す感覚。これは不安です。定年退職した人が鬱になってしまう理由の一つは、「働かないという大変さ」に耐えられなかったんじゃないでしょうか。朝起きたら、目の前に砂漠が広がっていたのかもしれません。

もちろん、働くことも大変です。でも、「働くことは大変」「働かないことは楽」にスポットを当てすぎじゃないのかなと感じますね。

——それでもやっぱり働かないといけないという考えはなかなか拭えないものだと思います。大原さんはどんな経緯でそうした考えがなくなっていったのでしょうか。

隠居する前までは、どれだけのお金が自分に必要なのか全く考えていなかったので、無限に働かなくてはならないと思っていました。私も働くことはとてもつらかったんです。

でも、自分の幸せに必要なサイズから働く量を逆算して仕事をすると、働くことが前向きでポジティブな行為になってきます。「働かなくてはならない」ではなく、「自分の幸せのために必要な分だけ働く」と変化します。働くことは、とても建設的な意味へと変わったのです。

「働かなくては」「お金をたくさん稼がなくては」という思い込みは、とても苦しい。可能性や生き方にはいろんな方法があると気づくまでは、本当につらかったです。そうやって、ずっと大変でつらいままでいると、ある時点でやる気を奪われてしまいます。働きすぎで疲弊していると、他の可能性を当たってみようという気力もなくなります。

その前に、自分に必要な幸せのサイズと、それに必要な最低限必要なお金がいくらなのかを把握することが大切です。これがわかっていれば、働くことは自分の幸せのためだと認識できます。

隠居生活者から見た「働き方改革」

——大原さんは自分の幸せに必要なサイズから働く量を調整するという働き方をしていますね。今、国が取り組んでいる「働き方改革」をどのように見ていますか?

働き方も、つらさも幸せも、人それぞれです。私は週2の労働でちょうど良いですが、本当に好きなことを仕事にしている人なら週8でも働きたいと思うかもしれません。

「働き方」は、国や世間が決めることではない、自分で決めるものです。そうじゃないと、生きる力をどんどん奪われてしまいます。何が自分にとっての幸せかわからなくなってしまう。国が勝手に都合の良い「幸せの基準」「豊かさの基準」「労働時間の基準」を決めてしまい、何の疑問もなくその基準に従うようになってしまうんです。

それぞれの働き方に何も言われず、自分にも罪悪感がない、そういう環境を作ることが本当の「働き方改革」ではないでしょうか。

——たしかに、豊かさや幸せの基準って数値にできるものではないですね。

多分国としては、国民が目指す一本の道を提示する方が統率するのには楽だと思うんですよね。でも、これだけそれぞれの幸せや趣味嗜好が多様化している今、経済の数値だけに豊かさを求めていくことは、とても無理があると思っています。国は経済の豊かさで国民を束ねようとしていますが、そろそろ国民たちは経済以外の豊かさに目が向き始めているのではないでしょうか。

同時に、先が見えないこの時代に、「数字で見える豊かさ」というわかりやすいものを提示されると、そっちにいってしまう人も少なくありません。提示したものに乗っかることは、自分で考える必要がないので、やはり楽なんです。

本当の豊かさを求めるのなら、一人一人が自分の政策を打ち立てて実行していかなくてはならないと思います。個々の幸せのサイズで働くことが普通の時代になったら、とても面白いんじゃないかな。

——今回の本は『なるべく働きたくない人のため」とありますけれど、「働くことが嫌」ではないんですね。

「働きたくない」のではないのです。「やりたくないことはやりたくない」というだけなんです。今回の本は、上京したばかりのころのお金がなくて苦しかった自分に向けても書いています。今思えば、あんなに悩まなくても良かったんですよね。

これまでお金の本を書くことを許された人たちは、ものすごいお金持ちばかりでした。どうして普通の低所得者がお金の本を書いていないんだろうと思っていたので、今回は自分の思いを悩んでいる人たちに届ける、良いチャンスを得たと思っています。

実は、自分がこれらの本を出したことでどれだけの経済効果があるのかを計算してみたんです。そうしたら2,000万円分もあることがわかりました。年収90万円の私が本を書いてみたら、世の中に2,000万円分もお金が動いたなんて、ほんと笑っちゃいますよね(笑)。