お金に感謝をすると回り回って自分のところにやってくる

——今回の書籍は仕事とお金がテーマですが、大原さんが「お金に人格を与えて感謝する」という考え方にとても感銘を受けました。幸せのために必要な分だけ働くということを実践されているからこその考え方なのでしょうか。

隠居する前は、自分も「使うのがもったいない」「貯めこみたい」と思っていたんです。手に入ったお金は自分だけのものだと考えていて、お金を持っていても不安でたまりませんでした。

ある芸能人が何億円も脱税したというニュースが昔ありましたが、その脱税の動機が「老後が心配だったから」なんですね。「そんなにお金を持っていても老後が不安なのか」とびっくりしました。自分にとっての豊かさの基準がないと、どれだけお金を持っていても不安になってしまいます。これが「お金に縛られる」ということなのです。

今は、好きなことをしていただいたお金で幸せに暮らしているので、素直にお金に感謝ができます。 とても大切にできるんです。

——人格を与えられたお金のというのは、自分の子供みたいな感覚ですか。

そうですね。「社会の役に立ってきてね」と送り出すような気持ちです。入ってきたときは「自分のところに来てくれてありがとう」、出て行くときは「いってらっしゃい。良い人に使ってもらえると良いね」と声をかけています。実際に声は出しませんけどね(笑)。

昨年は本を出版した印税が入って年収が増えました。だから、年金を払うことができたんです。払ったときのあの清々しさ! あんなに税金や年金を払うのが嫌だったのに、お金を大切にして感謝できるようになると、こんなことになるんだ! と自分でもびっくりしました。

——お金に人格を与えて送り出すと、税金の使われ方やその先のお金の使われ方にも関心が向きますね。

好きなことだけやって得たお金で対価を支払うことは清々しいですし、お金に立場に立ってみても、気持ち良く送り出される方が気持ち良いですよね。

——収入が増えても生活は変わらないですか?
自分に使うお金は増えていないですし、何も変わりませんね。変わったのは、人に使うお金が増えたこと(笑)。使うのだったら社会の役に立てるように使いたいなって思います。

印税も、絶対に生活費には使わないって決めているんです。印税が入ってきたとき、「このお金が自分のものじゃない」って思ってしまったのです。じゃあ誰のものなんだろうと考えたとき、この本を買ってくれた人が豊かになるためのもの、世界のものだと考えたんです。

だから、印税の使い道は人にあげる宝くじとか募金、地方のラジオ局に行くときの交通費などに使っています。自分のために使っている意識があまりなくて、なるべく早く良い形で社会に還元できるように考えて使っています。

自分の生活に必要なお金はもう稼いでいるので、書籍執筆などの余暇活動で発生したお金については、それを面白がってくれた社会にお返しします。独り占めしていては、もったいないですからね。

——大原さんにとっては文字通り「お金は天下のまわりもの」ですね。
お金は幸せな暮らしをするために動いてくれています。勝手に争いごとに使われて悩みの種にされて、お金もたまったものではないですよ(笑)。

お金の価値観が変わる?自分で決める豊かさと幸せ

——豊かさにはいろいろな基準があるはずなのに、それがお金になってしまったのはなぜだと思いますか?

人を恐怖で縛って操る「恐怖ビジネス」というものがありますが、誰かが「お金がないことは怖い」と縛っておいて、自分の都合の良い方向に持っていきたいという動きがあるのかもしれませんね。

豊かさの基準が多様化していることに気づき始めているかもしれないけど、日本ではまだ多様性をみとめない動きが強いと感じます。

今、日本は経済的に失墜していることに、多くの人がどこかで気づき始めていると思うんです。だから、日本人が素晴らしいところを探す番組がもてはやされる。これは恐怖の裏返しじゃないかと思って見ています。そうやって、「日本人は豊かですばらしい。そうあるためにはたくさん働いて稼がなければ生きていけない」と思わされてしまい、自分の幸せの基準を考える力がなくなってしまった。自分の幸せの基準を誰かに考えてもらってきた、そのツケがまわってきたのではないでしょうか。

豊かさの軸がお金だけだなんて、つらいことです。今、自分にとっての幸せは何なのか、いよいよ向き合わされ始めていると思います。

——お金に縛られない生き方は、とても楽しそうです。
私は今、本を書く仕事とそれ以外の仕事をしていますが、これらはバランス良くまわっています。でも、どちらか一本にしてしまったら、やりたくないことも背負わなくてはならないかもしれません。

幸せのために何をどれだけやれば良いかを自分で考えて働くことは、好きなことができてお金の不安もなくなる、人生のいいとこどりなんです。

おわりに

わかりやすい数値で価値観を翻弄する「お金」という単位。不安がかたどる幸せの虚像を求めて疲弊するのか、それともお互いが幸せに生きるための共存を選ぶのか、豊かさを決めるのは自分自身。人の数だけ、多様な幸せの形があるはずなのだ。

「過去の私のように、つらくて苦しい状況にある人に届いてほしいですね」と大原さんは微笑む。

表紙に描かれているのは、大原さんとお金さんが向かい合う姿。本を読み終わった後、この「ふたり」の絶妙な距離感と座布団の意味に、きっとあなたも気づくだろう。

『なるべく働きたくない人のためのお金の話」』(著:大原扁理、イラスト: fancomi /百万年書房)

『年収90万円で東京ハッピーライフ』(4刷3万部)著者の、2年ぶり最新刊!! 「多動力」なんてないし「私たちはどう生きるべきか」と考えるうちに気がつくと昼寝になってしまっているような、そんな弱い私たちの「生存戦略」。著者が隠居生活の中で、お金と人生についてゼロから考えた記録。将来に不安や心配を感じる人へ向けた、もっと楽に生きるための考え方がこの1冊に詰まっています。巻末対談:鶴見済×大原扁理「豊かさって何だろう?」詳しくはこちら