IoTの普及と見えてきた現状の課題

長年にわたり議論や推測が行われてきましたが、あらゆるデータが示唆しているのは、2017年はモノのインターネット(IoT)が一段と多くの注目を集めるようになった年であるということです。調査会社のIHS Markitは2018年1月に報告書を発表し、年末までに接続デバイス数が15%増加し、合計で200億個に達するとの予測を発表しました。

IoTによる経済的、物流的、環境的利益が得られる可能性が見込まれ、急速な普及が期待される多種多様な分野が存在します。高度な自動化を導入することで、安全で高効率、高信頼性、スマート、省エネを追求した住居や、作業を軽減しながらより便利な患者介護を可能にする産業プロセスを実現できるでしょう。

かなり早い段階から、半導体メーカーはIoT実装を効果的に導入するのに、どのIoT実装が必要になるかを明確に把握していました。

IoTノード数が数十億個にも達し、多くのケースで関連するアプリケーションが比較的コストに敏感なことを考えると、各ノードの関連部品のコストを第一に考慮すべきです。加えて、膨大な数のIoTノードが、電力線が存在しない遠隔地に設置されるため、各ノードの消費電力も考慮する必要があります。したがって、(電池を交換するためにエンジニアを現場に派遣する時間と費用を避けるために)バッテリ駆動動作こそが唯一実用的な選択肢であり、バッテリ寿命をできるだけ長くすることが重要です。また、アプリケーションに設定された基準に応じて、IoTノードにさらに影響を及ぼすスペースの制約、厳しい使用環境などの側面が存在する場合もあります。

IoTに必要な構成要素

IoTを展開するうえでは、無線と有線で異なる通信プロトコルが採用されることになるでしょう。それらの中には、しっかりと確立されているプロトコルもあれば、未だ発展途中のものもあります。有線プロトコルの中にはビル・オートメーション用KNXや工業用CANまたはイーサネットがあります。

一方、無線通信プロトコルの大部分は、短距離、超低電力動作を重視しています。例として、Wi-Fi、ZigBee、Z-Wave、Bluetooth Low Energy(BLE)などがあります。その他の無線オプションとしては、長距離、低データ量に対応しながらも電力をほとんど消費しない低電力広域ネットワーク(LPWAN)プロトコル(SIGFOX、LoRaなど)が挙げられます。「低消費電力」プロトコルに代わるものとして、LTE-M、Narrow-Band IoT(NB-IoT)、数年後には5Gといった広域ネットワーク(WAN)カバレッジ用セルラー方式のプロトコルもあります。

IoTを実際に動作させるのはセンサ/アクチュエータです。捕捉したデータはすべて、センサを通じて分析することができます。逆に、アクチュエータを使用してモータの駆動や照明の点灯などを行うことができます。ここでは、センサとアクチュエータの組み合わせが(サポート・コネクティビティと併せて)真価を発揮する例がいくつかあります。

住宅/ビル・オートメーション・アプリケーションでは、パッシブ赤外線(PIR)検出器のネットワークが人間の動きを判別し、それに応じてLEDドライバが部屋の照明をつけることができます。大規模な園芸場などの産業用途では、周囲光、温度、湿度、土壌水分などを監視するために、多数の異なるセンサを利用できます。特定のパラメータが許容される設定しきい値内にない場合は何らかの処置を講じることがあります。例えば、温度が高過ぎるので低くする必要がある場合は、モータを始動して温室の窓を開けることができます。また、作物収量を最大限に増やすのに光レベルが最適でない場合は、接続されたLEDドライバを使用して調整することも可能です。

スペース、コスト、電力バジェットに課される制約を組み合わせてみると、IoTノードは相当効率の良い設計コンセプトに従う必要があり、快適にサポートできる以上の機能は装備しないことになります。そのため、低価格帯にあり、過剰な電力を消費したり、広いボード面積を占有したりしないようなマイクロプロセッサやメモリICの仕様が必要です。したがって、ノードの機能不足を埋め合わせるために、クラウドベース・サービス(データの処理と分析が可能)へのアクセスが不可欠です。

クラウドを介して関連アプリを利用できるようになるので、IoTシステム設計がノード・レベルの制限から解放され、捕捉した貴重なデータをフルに活用できるようになります。これによって、より高いデータ処理能力とストレージ能力の達成が可能になります。

IoT普及の足かせとなってきたのは何か?

今日まで、電子機器ハードウェア・ベンダやクラウド・サービス・プロバイダは、ほとんど単独でIoT開発に取り組んできました。両者ともそれぞれの中核事業の範囲内での開発にとどまっていたわけです。

しかし、このことがハードウェアとソフトウェアの開発要素を別々に扱わなければならないという発想の根底にあり、IoT普及の足かせとなっていました。ハードウェア・エンジニアは自分の専門領域から踏み出すことに躊躇し、また大量のコーディング作業という難題にも直面する一方で、ソフトウェア開発者は実力を存分に発揮できない開発プラットフォームに束縛されたくないと考えています。

IoT実装は多くの基盤をカバーする必要があります。ノード・レベルでの主な役割は、センサで捕捉したデータを分析/処理して送り返したり、必要に応じてアクチュエータを作動させたりすることができるように、可能な限り効率良く信頼性の高い操作を実行することです。

そのためには、採用したコネクティビティを特定のタスクに合わせて最適化する必要があります。さらにシステムを入念に考察し、クラウドとのやりとりで最大限の効果が得られる方法に注目することです。IoTセクタでは、これらのさまざまな要素を同時に扱う技術が絶対に必要でした。

ハードウェアの観点からすれば、これはエンジニアに特定のアプリケーション要件に適合するIoTノードを作成するのに必要な、コネクティビティ、センサ、アクチュエータ機能を提供することになります。ソフトウェアの観点からは、開発者にこのハードウェアをサポートするクラウドベース・アプリケーションを構築するための基盤を提供することを意味します。

半導体企業は間違いなくIoT市場への参入に関心を持っていますが、今のところこれらの企業が提供する開発プラットフォームが、ここで実際に議論したすべての問題に対応しているわけではありません。ハードウェアに関しては、提供されているのは特定のセンサと通信機能を搭載したシングルボード・ソリューションだけです。これらのソリューションはシステムとアプリケーションの要件を適合させる場合、エンジニアにほとんど選択の余地を与えません。プラットフォームで最良のコネクティビティまたは検出オプションがサポートされていない可能性があり、最終的には妥協を迫られます。その代わりに、サポートできる機能については高い柔軟性が求められます。

IoT開発を容易化させる新たな開発プラットフォーム

  • オン・セミコンダクター製IDKのハードウェアおよびソフトウェア要素を示す回路図

    オン・セミコンダクター製IDKのハードウェアおよびソフトウェア要素を示す回路図

オン・セミコンダクターのエンジニアは、IoT展開を定義している動的特性を考慮して、ハードウェア・エンジニアとソフトウェア開発者の両方にとってメリットがあり、それぞれの適性を理解している新しいタイプのIoT開発プラットフォームを作成する目標を設定しました。

この取り組みの成果がオン・セミコンダクターのIoT開発キット(IDK)です。IDKは限定的な「1つのサイズですべてに対応する」アプローチを採用するのではなく、モジュラー構造を採用しています。このことは、センサ、アクチュエータ、コネクティビティに関して、はるかに多くの選択肢があることを意味します。

エンジニアリングの専門家には、汎用性の高い優れた開発リソースを提供します。この開発リソースにはハードウェアを管理するだけでなく、「デバイスからクラウドまでをカバーする」IoTアプリケーションを構築できる高度なソフトウェア・フレームワークも組み込まれています。

  • ドーターカードが付属したIDKベースボード

    ドーターカードが付属したIDKベースボード

IDKは、32ビットのArm Cortex-M3プロセッサ・コアとそれぞれ320KBのフラッシュ・メモリを2バンク搭載する、先進のSoC「NCS36510」をベースにしています。さまざまな種類のドーターカードが用意されており、ベースボードに直接取り付けることができます。

コネクティビティに関しては、Wi-Fi、ZigBee、SIGFOX、CAN、イーサネットなどのさまざまな無線および有線通信プロトコル用ドーターカードを選択できます。センサに関しては、温度、動き、湿度、心拍数、周囲光、圧力、バイオの各センサを搭載したドーターカードがあります。さらに、アクチュエータ機能は、ステッパ・モータ・ドライバまたはブラシレス・モータ・ドライバ、LEDドライバを通じて利用できます。

さまざまな種類のセンサ、アクチュエータ、通信機能がドータカード製品群を通じて提供されており、エンジニアは各種オプションを混成して、システム設計に最適な組み合わせを見つけることができます。

さらに、クラウドベースのソフトウェア開発を十分に理解していないハードウェア・エンジニア向けに、IoTシステムに必要なクラウドベースのサービスが簡単に利用できるようになっています。逆に、ソフトウェア開発者は意欲があれば独自サービスを開発する機会が得られるため、創造性を発揮できます。

IDKは、Eclipseベースの統合開発環境(IDE)で運用でき、膨大なアプリケーション関連のライブラリと併せて、C++コンパイラ、デバッガ、コード・エディタが提供されています。IDKなどの豊富な機能を備えた構成可能なプラットフォームにアクセスすることで、エンジニアは妥協を強いられたり、専門領域外に踏み出したりすることなく、システム設計目標を達成できます。これはコンセプト・フェーズから実際の展開まで、すでに着想されているIoTシステムの大部分において極めて重要な役割を果たします。

著者プロフィール

Wiren Perera(ウィーレン・ペレラ)
ON Semiconductorにて IoT戦略とビジネス開発を担当し、スケーラブルなクラウドベースのサービスのプロビジョニングを可能にするリーダーシッププラットフォームソリューションの提供に注力している。
同社入社以前は、MicrelでLANソリューション事業および企業戦略担当副社長、JDSU、PMC-Sierraで幹部職を歴任
米国ケンブリッジ大学で博士号を取得