未だに衰えを見せないSUV人気は、それまでSUVをラインナップしないメーカーでさえ動かすほどのムーブメントとなっており、多くの高級車メーカーも新型SUVを続々投入しているというのが現実である。またその一方で、このブームを新たな顧客獲得のチャンスと捉えるメーカーもあるようだ。今回試乗したジャガー「Eペース(E-PACE)」も、まさにそんな時流の中で生み出された1台と言えるだろう。
エクステリアはあくまでもジャガーらしく
イギリスの高級車メーカーであるジャガー(現在はインドのタタ・モーターズ傘下ではあるが)は、イギリス王室御用達としても知られる名門ブランドだ。それだけに、我々のような一般庶民には到底縁のないブランドというイメージもあるかもしれない。しかし、今回新たに登場したEペースは、451万円~と、なんとか頑張れば買えるかもしれない価格帯となっているのである。これはプラットフォームを共有する「レンジローバー イヴォーク」よりも安価な価格設定であり、今までジャガーを検討していなかったユーザーに対しても充分訴求できる価格だと言える。
そんなEペースのエクステリアは、同社が展開するスポーツカー・Fタイプの流れを汲むスポーティな印象のデザイン。今回試乗したのはR-DYNAMICという、よりスポーティなエクステリアを持つものだったが、標準のEペースでも充分にスポーティなイメージが感じられる。それでいて他の高級車にありがちな押し出しの強さやドヤ感は抑えられているので、あからさまな高級感をひけらかしたくない人にとっては好ましい落ち着いた雰囲気を持ち合わせている。分かる人だけ分かってくれればいい、というツウ好みなジャガーらしいデザインと言えるだろう。
ただ、”ジャガー初のコンパクトSUV“と謳っている割に、全幅は1,900mmと決してコンパクトとは言えないサイズになっている。運転している最中はそこまで大きさを感じることもなく扱いやすい部類ではあるのだが、この全幅では入れる駐車場が限られてしまう。その辺りを考慮しないと、使い勝手の悪いクルマになってしまう可能性もあるので注意が必要だ。
気になるドライビングパフォーマンスは?
搭載されるエンジンは、ディーゼルエンジン1種類とチューニングの異なるガソリンエンジンが2種類の計3種類。全て直列4気筒2リッターターボとなり、出力に応じてD180、P250、P300という呼称が付けられている。
451万円というエントリーモデルはディーゼルエンジン搭載だが、最大トルクはP300の400Nmを超える430Nmとなっており、決して見劣りするものではないだろう。駆動方式は、全車リアルタイムで四輪を制御する4WD。ただ、未舗装路をガンガン走るためというよりはオンロードで安定した走りを実現するタイプで、スポーティなEペースのイメージに合ったものと言える。
今回の試乗ではP250のみの試乗となったが、2トン弱の重量ボディであるにもかかわらず、明らかなパワー不足を感じるようなことはなかった。これはきめ細かな制御のジャガー初となる9速オートマチックの効果もあるだろう。しかし、フル加速など高回転まで引っ張ったときのサウンドは明らかに4気筒のそれで、プレミアムコンパクトSUVとしてはやや残念な印象を持ってしまった。もちろん、通常の交通の流れに乗って走っている範囲であれば、エンジンの音はほぼ車内に入ってこないほど静粛性が高かったことは言うまでもない。
内装の仕立てなどは、こちらもやはりジャガーらしく高級感溢れる造りとなっている。ただし、昔ながらの英国車らしいレザーとウッドの組み合わせというものではなく、どちらかというとドイツ車的なインテリアデザインとなっているため、往年の英国車ファンにはやや物足りなく映るかもしれない。
また、せっかくの9速ATを活かそうとパドルシフトを操作したのだが、これがまさかのプラスチック……。オプションパーツとしてアルミ製のパドルシフトも用意されているが、頻繁に触れる部分だけにここは標準装備であって欲しいところだった。
ラゲッジルームの容量は、最大1,234L(通常時は577L)と標準的なサイズ。シートアレンジなどは国産車の方が勝るが、そこまでを求めるユーザーは少ないのかもしれない。ただ、国産車からのステップアップ組を取り込もうというのであれば、この辺りの進化にも期待したいところではある。
451万円~という価格が魅力的なEペースではあるが、グレードはもちろんオプションなども多数選択肢があり、あれこれと選んでいくとあっという間に数百万円プラスになってしまうのはさすがジャガーといったところ。しかし、標準装備もある程度充実しているため、そろそろ輸入車に乗ってみたいと考えている国産車ユーザーからしても魅力的に映る1台と言えそうだ。ただし、日本国内ではジャガーとランドローバーは同じ店舗で取り扱っていることもあり、イヴォークとの競合も考えられるため、営業マン的には悩ましい車種となるかもしれない。
※価格はすべて税込