京王電鉄の有料座席指定列車「京王ライナー」が2月22日から運行開始した。この列車は平日・土休日の夕夜間に京王線新宿駅から京王八王子駅・橋本駅へ下り5本ずつ運行。途中の府中駅または京王永山駅まで座席指定券が必要となる。筆者も乗車してみた。
これまで京王電鉄では、小田急電鉄や西武鉄道、東武鉄道で運行されてきたような全席指定の有料特急列車のサービスはなかった。しかし、多摩地域まで利用する乗客も多く、そうした人々に向けた着席サービスも求められていた。
そこで登場した列車が「京王ライナー」ということになる。この有料座席指定列車に使用される5000系は、これまでの京王電鉄の車両より走りがスムーズなだけではなく、空気清浄機や間接照明、Wi-Fiサービスなど快適な移動のための設備を車内に備えている。
インターネットで予約、あとは乗るだけ
「京王ライナー」の座席指定券は新宿駅の改札外・改札内に設置された専用券売機で購入できるほか、専用ウェブサイト「京王チケットレスサービス」を通じてスマートフォンやパソコンからでも予約できる。「京王チケットレスサービス」ではシートマップを見ながら座席を予約することも可能だった。
筆者も登録し、2号車の後方窓側の席を選んだ。決済はクレジットカードで行う。料金は1席400円で、発車15分前まで購入可能。なお、「京王チケットレスサービス」での予約は当日のみだが、京王パスポートカードに登録すれば前日から予約できるという。
3月の平日の夜、20時0分発の京王八王子行「京王ライナー1号」に乗るため京王線新宿駅に行くと、ホームでは帰宅を急ぐ多くの人々が列車を待っている様子だった。その中を「京王ライナー」はやって来るのである。
「京王ライナー」の車内にはトイレがないため、乗車前に用を足してから2番線ホームへ向かい、列車が入ってくるのを待つ。その前後に発車する列車を待つ人もいるため、ホームは混雑していた。「京王ライナー」の乗車位置が案内されていたものの、やや狭い印象もある。ホームに設置された専用券売機では、座席指定券を買おうとする人が並んでいる。直前の利用はこちらで……という人が多いのだろう。
発車時刻が近づくと、2番線ホームに「京王ライナー」の車両5000系が現れた。入線した列車に乗客はおらず、このために回送されてきたのだとわかる。ホームに入線し、しばらくすると扉が開く。新宿駅では1両4カ所ある扉のうち、両端2カ所が開くという。隣の3番線ホームからは、19時55分発の準特急京王八王子行が発車。その直後、1番線ホームに20時1分発の普通京王多摩センター行が入線してくる。
「京王ライナー1号」は20時0分に新宿駅を発車した。ホームに列車待ちの人が多くいる中、特別料金を払っているとはいえ、進行方向に向けて着席している状態で京王線の列車が発車するというのは不思議な気分だ。贅沢極まりないという気持ちもありつつ、半分申し訳ない気持ちにもなってしまう。
「京王ライナー1号」はミュージックホーンを鳴らしながらの発車だった。クロスシートで窓の外が見やすいこともあり、地下空間の様子がよくわかって興味深い。列車がカーブを曲がり、西へと進行方向を定めるとスピードを上げ、地上に出て笹塚駅を通過。明大前駅に入ろうとするところでスピードを落とし、同駅に運転停車する。
車掌も検札のために車内を歩き、予約のない席に座っている人に声をかけている。このあたりで、先行する準特急との位置関係はどうなっているのか、気になってきた。
先行する準特急を追い抜いていた「京王ライナー」
明大前駅からは、なかなかスピードの上がらない区間が続く。八幡山駅と芦花公園駅との間で5000系とすれ違った。こちらも「京王ライナー」に使用するための回送列車なのだろうか、車内に乗客はいない様子だった。その後、調布駅手前でスピードダウンするも、調布駅はスムーズに通過していった。
「京王ライナー」の停車駅が発表されたとき、調布駅を通過することが随分と話題となったが、個人的には調布駅通過は正しい判断であったと感じる。
調布駅は特急・準特急ともに下車する人も乗車する人も多い。ただ、もし「京王ライナー」も調布駅にも停車し、「調布駅まで有料、ここから先は無料」ということになれば、調布駅で多くの人が乗り込んでくるだろうし、新宿駅からの着席客が多ければ調布駅から乗った人は座れず、車内が混雑して快適性が損われるかもしれない。仮に新宿駅からの着席客が少なく、調布駅から乗る人のほうが多かったとすれば、有料列車として運行するだけの価値があるのか? という話になってしまう可能性もある。「京王ライナー」の調布駅通過は、遠近分離の観点から正しかったといえるのではないか。
調布駅を通過した「京王ライナー」はスピードを上げていく。ふと、先行していた京王八王子行の準特急はどうなったのか、疑問に思った。どこかで追い抜いたのだろうか。
20時21分に府中駅に到着し、高尾山口行の各駅停車に連絡。ここで全車座席指定区間は終わり、多くの人が乗車してきた。もし先行していた準特急が先に着いていたら、そちらに乗り込んでもおかしくはないのに。どこかで先行列車、それも準特急を追い抜いているのだ。
「京王ライナー」に"京王電鉄の本気"を感じた
「京王ライナー」は分倍河原を発車した後、暗闇の多摩川を渡り、その後は聖蹟桜ヶ丘駅、高幡不動駅、北野駅と停車するたびに少しずつ乗客が降りていく。駅間でのスピードはしっかりと出ており、列車が詰まっているという印象はなかった。
聖蹟桜ヶ丘駅で列車案内の表示を見ていたら、「京王ライナー」の後に京王八王子行の準特急が表示されていた。どこで追い抜いたか気になりつつ、列車は20時40分ころ、京王八王子駅に到着。「京王ライナー」の5000系は回送列車となり、去っていった。
新型車両5000系はクロスシートからロングシートへの転換が可能で、一般の列車としても運用される。しかし「京王ライナー」の運用では、大半の列車において終点到着後、回送列車として再び新宿方面へ向かわせているようだ。このあたり、京王電鉄の「京王ライナー」にかける意気込みを感じさせた。
さて、残る疑問は解決しなければならない。「京王ライナー」はどこで先行列車だった準特急を追い抜いたのか。後で時刻表を確認してみると、先行していた準特急の調布駅到着時刻は20時14分、発車時刻は20時18分となっており、準特急でありながら4分も停車している。ここで「京王ライナー」に抜かれたのだろう。この追い抜きによって、調布駅から先、よりスムーズな「京王ライナー」の走りを実現させたともいえる。
京王電鉄の本気を感じさせた「京王ライナー」。筆者が乗車した平日夜の列車では大体7割程度埋まっており、もっと多くの人に利用されてもおかしくはないと思った。新宿駅から京王八王子駅まで、京王線の運賃は360円。「京王ライナー」はそれに400円上乗せするので、少し高いと感じる人もいるかもしれない。しかしその金額に見合っただけの列車である。京王線沿線の人はぜひ一度、試しに乗ってみてほしい。