突然ですが、「全然」という言葉の後に続けるとしたら、あなたはどんな言葉を思い浮かべますか?「全然足りない」「全然いい」など色々あると思います。そこで今回は、「全然」の正しい使い方について調べてみました。ぜひ、参考にして頂ければと思います。

■「全然」の意味

「全然」という言葉の意味を調べてみると、あとに打消しの語や否定的な表現を伴って「まるで。少しも。まるきり。全く」と記載されています。

ただし、2006年出版の大辞林第3版では、「明治・大正期には、もともと『すべて』『すっかり』の意で肯定表現にも用いられていたが、次第に下に打ち消しを伴う用法が強く意識されるようになった」と追記されています。また、近年では、「非常に。とても」の意で、肯定表現を伴って「全然いい」などと程度の強調を表す用法も見られますが、これは話し言葉における通俗な言い方と記載されています。

■「『全然+肯定』が間違い」というのは間違い?

「全然」の使い方としては、「全然+否定」という形で使われるのが一般的であり、正しい使い方であるとされています。そのため「全然おいしい」「全然足りる」といった表現に対し、「それは日本語としておかしい」と指摘する人も多いのではないでしょうか。

しかしながら、日本語の研究者たちの間では、「全然+否定」だけが正しいとするのは"迷信"だと考えられています。その根拠となるのは、日本語に関する言論誌「コトバ」「工程」「日本語」の3誌の中で、「全然」がどのように使用されているのかを調べた結果、590例中354例が肯定表現を伴っていたことや、「本来否定を伴う」という規範意識は昭和10年代の段階ではまだ発生していなかったことにあります。さらに、日本の文豪も「全然+肯定」の表現を使用していることが明らかとなっています。

・「一体生徒が全然悪いです」(夏目漱石「坊っちゃん」明治39年)
・「全然関知せざるもののごとく装い」(石川啄木「日露戦争論」明治37年)
・「全然、自分の意志に支配されている」(芥川龍之介「羅生門」大正4年)

こういった研究成果から、「もともと『すべて』『すっかり』の意で肯定表現にも用いられていた」と辞書にも追記されるようになったようです。

■ビジネスシーンにおける使い方

これまで述べたように、「全然」という言葉は、否定でも肯定でも、表現としては本来間違いではありません。しかしながら、「肯定的な表現は誤用だ」という意識はまだまだ根強くあり、ビジネスシーンで使うと「言葉を知らない人」という印象を持たれかねません。同僚などとの会話の中で使用する分には差支えないとは思いますが、文書や目上の人との会話には使用しない方が無難でしょう。

■「全然」の使い方と例文

「全然+否定」(全く・少しも)の意
・「このままでは、期日までに全然間に合わない」
・「○○さんが退職するなんて、全然知らなかった」

「全然+肯定」(すべて・すっかり)の意
・「部長は全然同意した上で押印した」
・「私は全然納得しています」

程度の強調を表す「全然+肯定」(非常に・とても)の意のカジュアルな言い方
・「この方法だと全然速いですね」
・「忘年会、金曜日でどうかな?」「全然OKです」


今回は、「全然」の使い方についてご紹介しました。誤用か否か、曖昧な言葉はほかにもあります。曖昧であるうちは、世間一般的に"正しいとされている使い方"に徹した方がいいかもしれませんね。