牙を抜かれた仮面ライダーに牙を――。制作会見での白倉伸一郎プロデューサー(東映)の問題提起から始まった『仮面ライダーアマゾンズ』。テレビ放送の「規制」から離れ、スタッフ・キャストの「本気で面白いと思うものを表現できる喜び」と、自由であるがゆえに「面白さ」の評価に逃げ道がない緊張感のはざまで生み出された本作は、テレビシリーズとは全く異なるダークで衝撃的な展開とハードアクション、こだわり抜かれた映像、さらにキャスト陣の熱演で瞬く間にファンの心をつかんだ。そして満を持してこの春、新作映画『仮面ライダーアマゾンズ完結編(仮)』が全国公開される。

ドラマにおいて、人間を捕食する危険な人工生命体「アマゾン」を一匹残らず"狩る"ために自ら仮面ライダーアマゾンアルファに変身する"野生"のライダー鷹山仁は、Season1・2を通して『アマゾンズ』の"牙"を象徴したキャラクターであるように思われる。配信が始まるや、演じる俳優・谷口賢志の鬼気迫る怪演ぶりもあり、シリーズでは珍しく素面での立体化も実現するなど、仁は熱狂的な支持を集めるに至った。本稿では、見る者に強烈な印象を残した仁を演じてきた谷口にインタビューを敢行。前編では、自身も「一生の出会い」と語る鷹山仁への思い、そして後編では気になる映画の見どころを聞いた。

  • 鷹山仁/仮面ライダーアマゾンアルファを演じた谷口賢志 撮影:大塚素久(SYASYA)

仁はまだ何も終わっていない

――『アマゾンズ』映画化決定の知らせは、いつ、どこでお聞きになりましたか。

すごくシンプルに、マネージャーから「映画決まったよ」とLINEで知らされました。Season2の打ち上げの段階で「どうやら映画化の話が進みそうだぞ」と、スタッフの間で囁かれてはいましたから、それが確定したという情報をマネージャーからあらためてもらったという形になります。

――Season2の撮影と映画撮影の時期は重なってはいなかったのですか。

まったくカブっていません。Season2はすべての撮影が終わってから配信が始まりましたから。Season2の配信が終わったあたりの打ち上げで聞いたんじゃないかな。キャスト陣にとっても、(Season2と映画は)まったく切り離して考えていました。

――Season2では、谷口さん演じる鷹山仁が精神的にも肉体的にもかなりひどい状況になっていましたし、これでもう再起することはないんじゃないか、なんて思っていましたから、映画で"復活"するというのはうれしいと同時に驚きもありました。仁の"復活"については、どう思われましたか。

僕の中では「仁が復活する」という感覚はなかったんですよ。Season2の最終回の段階では、そもそも仁はまだ何も終わっていませんでしたから。彼の目的はSeason1のころから一貫していて、すべてのアマゾンを"狩る"まで仁の戦いは終わらない。つまり、アマゾンオメガの悠を倒して、そして最後に自分の命を絶つ。それが仁にとっての最終目的なんですね。Season2の最終回でも、何かが仁の中で"終わった"という描写ではなかったんです。とはいえ、あれだけ凄絶なことを行ってきていますから、あれを乗り越えて映画ではどういう仁となって登場するのか……という気持ちはありましたね。

『アマゾンズ』の「牙」を背負って

――Season1・2のエピソードがあってこその「完結編」が映画になると思うのですが、これまでの配信作品を知らずに映画から入る人でも『アマゾンズ』の世界が理解できると思われますか。

僕はすでに客観的な見方ができないので、正直なんとも言えません。これが初めての『アマゾンズ』という方にとって、物語の動きやキャラクターの思いなど、詳しくわからない部分はたくさんあるかもしれませんが、「仮面ライダー」というものを使ってこの作品が何をしようとしているのか、あるいはこれまで何をしてきたのか、という部分は映画だけでも絶対に伝わると思います。

しかし、できることならSeason1・2を順番にご覧になった上で、映画を見ていただくことをオススメしたいですね。配信作品(連続ドラマ)のいいところは、途中からではなく、必ず第1話から順に見ていただけることだと思うんです。俳優としても、絶対に見てくれているという信頼関係のもと、芝居をつむいでいけるというのは非常にやりがいがあります。

なので、できればSeason1・2を先に見てもらって映画に臨んでいただきたい。もちろん、映画を先に見て、この物語の前はどんなことがあったんだろうとか、このキャラクターは過去にどういう行動を取っていたのかなとか、悠と仁はなぜこんなになるまでアマゾンと凄惨な戦いをしてきたのかとか、気になった方が配信作品へとさかのぼってくれたらいいと思います。『アマゾンズ』は、そこまでの魅力がある作品だと確信していますから。

――「この作品が何をしようとしているのか、あるいはこれまで何をしてきたのか」というところにもつながってくると思うのですが、作品のテーマを含めて谷口さんご自身は『アマゾンズ』にどんなことを感じ取られましたか。

作品を通して伝えたいこと、作品のテーマというものは、脚本家の方々やプロデューサーが考えてくれたらいいことだと思っていて、僕としては鷹山仁として本気で生きる、役を演じて生きるということが仕事だと思っています。結果論として生きることに対する考え方にもつながっているとは思うんですけど、それよりも東映という会社が、世界に誇る「仮面ライダー」というコンテンツを使ってどこまでの表現ができるのか、ということに挑戦したことのほうが大事なんじゃないか。

Season1の制作発表会見で、白倉(伸一郎/プロデューサー)さんから「仮面ライダーは本来、牙があって尖っていたものじゃなかったのか。今のライダーは牙がなくなって、それはそれで"今のヒーロー"でいいと思うんだ。だけど、仮面ライダーは牙を取り戻さなければならないとも思う。だから『仮面ライダーアマゾンズ』を作るんだ」という問題提起があり、僕らはそれを背負って作品を作ってきました。それはテレビやいろいろなものを見ている人への「牙」だとも思うし、「仮面ライダー」というものに対する「牙」であったりもするだろうし、(作り手である)自分たちに対する「牙」であるかもしれない。そういう思いを背負ってきたので、もしかすると本当に見せたいのは「本当に面白いものを作ろうと思ったら、いろんなことができるんだぜ!」というところなのかもしれないなと思っています。