注目を集めるテレビ番組のディレクター、プロデューサー、放送作家、脚本家たちを、プロフェッショナルとしての尊敬の念を込めて"テレビ屋"と呼び、作り手の素顔を通して、番組の面白さを探っていく連載インタビュー「テレビ屋の声」。

今回の"テレビ屋"は、テレビ朝日系ドキュメンタリー番組『人生の楽園』(毎週土曜18:00~)の森川俊生プロデューサー。土曜の夕方という時間帯にもかかわらず、昨年は自己最高で15.2%(12月2日放送、ビデオリサーチ調べ・ 関東地区)という高視聴率をマークしているが、その人気の秘密は何か。バラエティど真ん中の名物プロデューサーも知りたがる演出術を聞いた――。

「ゆったり作る」はずっと意識

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森川俊生
1962年生まれ、東京都出身。早稲田大学卒業後、86年に全国朝日放送(現・テレビ朝日)に入社。以来『モーニングショー』からスタートし、『サンデープロジェクト』『スーパーJチャンネル』などの報道情報番組、海外の特派員などをへて、13年から『人生の楽園』プロデューサー。

――当連載に前回登場したテレビ朝日の加地倫三さんが、「『人生の楽園』が好きで、自分も年齢的にゆっくりした番組が視聴者として合うようになってきて、いつも『良くできてるなぁ』と思っているので、どんなノウハウや極意があるのか、教えてほしい」とおっしゃっていました。

いやぁ、ありがたいですね(笑)。光栄です。

――バラエティの人は、"間"を詰めてしまいがちなので、ゆったりとした編集がなかなかできないそうです。

スピード感を出すより「ゆったり作る」というのは、ずっと意識にありますね。常々思っているのは、番組ってオリジナルなスタイルというか、パッケージを持っているとすごく強いなということ。例えば、『笑点』(日本テレビ)も、『開運!なんでも鑑定団』(テレビ東京)も、他にはないオリジナルのパッケージですよね。そうすると、中身がわりとパターン化していても、視聴者は結構飽きずに見てくれるんじゃないかなと思うんです。『人生の楽園』も、そんなにびっくりするような新しさはないのかもしれないですけど、実はよくよく見ると結構オリジナルなポイントがあるんですよ。それは、まさしく「ゆったり編集している」というところ。あと一番オリジナルなところは、ナレーションのスタイルですね。

――西田敏行さんと菊池桃子さんの掛け合いが面白いですよね。

はい。『人生の楽園』って、番組のジャンルで分類すると、「人物ドキュメンタリー」ということになると思うんですけど、同じところにいる『プロフェッショナル仕事の流儀』(NHK)、『情熱大陸』(MBS)は"客観ナレーション"じゃないですか。でも『人生の楽園』は、西田さんと菊池さんにキャラクターを背負って語ってもらうんです。その中で最も特徴的なのは、西田さんがあたかもVTRの現場にいるように登場人物に声をかけること。「おいしそうですね」とか「これ、何してるんですか?」とか尋ねる形式って、意外とないんですよね。

――たしかに、『ぶらり途中下車の旅』(日テレ)も、旅人とは会話しますが、取材先の人にはしゃべりかけませんね。

西田さんは現場に行っていないけど、そこに西田さんの魂があるかのような独特の効果を生み出すんです。すると、番組を見ている人も、自分の魂がそこにいるような感覚で見てくれているんじゃないかという気がするんです。

――距離が近づくんですね。

そうそうそう。私はよく「自分がそこにいるような感覚」という言い方をしていて、要は臨場感ということなんですけど、それって地デジ化で大画面・高画質になったというのが絶対に追い風になってると思うんです。大きな画面になると、本当に自分がそこにいるような感覚になる。実際に視聴者からも「毎回自分がそこにいる感じで見させていただいてます」っていう声をいただくことがあるんですよ。だから、テロップや音楽も、あまりガチャガチャやらない。テロップがド派手にバーンと出たり、音楽がガンガン鳴ったりすると、テレビという受像機を通して見ているんだっていう感じになりますよね。だからなるべく、テロップも少なく上品に地味に、音楽もそんなに主張しないBGMのようにかけて、それが西田さんと菊地さんのナレーションと一体になって、番組独自のオリジナル感が生まれている思います。

  • 002のalt要素

    『人生の楽園』(テレビ朝日系、毎週土曜18:00~)
    田舎へのIターン、故郷へのUターン、50歳を過ぎてからの新たな挑戦など、"自分にとっての人生の楽園"を見つけ、充実した第二の人生を歩む人たちの暮らしぶりを紹介していくドキュメンタリー番組。ナレーションは、西田敏行と菊池桃子。

名人芸の西田敏行、心地いい菊池桃子

――西田さんはドラマや映画でのアドリブが有名ですが、ナレーションでもアドリブ全開ですか?

毎回すごいですよ! ナレーション原稿は放送作家とディレクターとプロデューサーでかなり一生懸命考えて、練りに練り上げて作って収録の日に臨むんですけど、西田さんは1回合わせ読みしたら、最初からどんどんアドリブが入ってきます。そして、原稿を「こういう風に言ったほうが伝わるよ」とよく提案されるんですが、なるほどって思うことが非常に多いですね。やっぱり長年ヒリヒリするような現場でずっと鍛錬を積み重ねてこられた方ならではの、まさに"名人芸"だと思います。

――菊池さんはいかがですか?

魅力的なナレーションというのは、読み手の魂が言葉に乗っかってるというのが1つの要素だと思っているんですが、菊池桃子さんはまさにそうなんです。本当に温かくて優しくて誠実な人柄が言葉に込められてますよね。だから聴いててすごく心地いいんじゃないかなと思います。